異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

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第四章

叔父が異世界から里帰りします 3

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 駅での待ち合わせ時間まで、春香に奢らされる羽目になった。
 叔父との軽い旅行気分が兄妹ふたり旅になってしまい、春香は気落ちというか、はっきり言って不機嫌だった。

 俺にも連絡忘れの負い目があったので、最初はご機嫌取り気分だった。
 アイスやクレープくらいの可愛いものから始まり、昼飯に高そうなレストラン(実際に大学生にはお高めだった)、雑貨屋と続き、最後にブランドショップに入店しようとしたときには涙目で抑止した。

 そうこうして兄妹での友愛を深めていると、いつの間にやら叔父との約束の時間となったので、待ち合わせの駅前に移動することにした。

 時間ほぼぴったりに、叔父が混み合った駅の改札から現われる。
 ただし、人ごみの中、叔父を中心に半径2メートルほどは無人地帯となっていた。

 白の上下スーツに精悍な容貌の偉丈夫。
 異世界の勇者で魔王であるだけに、無意識に放たれるオーラも尋常ではない。
 お近づきになりたくないこと必至だろう。駅舎内で同席した人々には同情する。

「よーう、待たせたな! はっはっ!」

 叔父が片腕を上げて陽気に歩み寄ってくる。

 前を歩いていた人が、反射的にびくんっと身体を震わせていた。
 うちの叔父がごめんなさい。

「俺たちも今来たところだから」

 近づいてみると、真っ白だった叔父のスーツが薄汚れていることに気づいた。
 さほど酷いものではなかったが、白だけに汚れが目立つ。埃っぽいものに、煤っぽいもの、あとは……血?

「ああこれか? 悪いな、やっぱり汚しちまった。久しぶりの日本だからよ、いろいろあるんじゃないかと予想はしていたが――やっぱり物騒だな、この国もよ」

(日本が物騒……?)

 明言は避けながらも口を濁す叔父に、首を捻らざるを得なかった。
 隣の春香も、同じような顔をしている。

 世界的にも治安のいい日本。
 夜に外を女子供が出歩ける、お金の入った自販機が屋外に放置されていると、外国人から驚かれる日本。

 まさに物騒極まりない異世界での暮らしが半生に至ろうかという叔父を以って、なにがそう言わしめるのかは不思議だった。

 特に春香は異世界でのなんらかの出来事を思い出したのか、苦虫を噛み潰したようなしかめっ面をしている。

「さっさと行こうぜ。ここからふたりの実家まではどのくらいだ?」

 気を取り直して、スマホで時刻を確認した。

「公共機関だと、バスや電車は遠回りになるから、タクシーで20分くらい――」

 春香が手を挙げてタクシーを止めようとしていた。
 最寄のタクシーが一瞬減速し――叔父の姿を認めて『回送』表示に切り替わり、加速して通り過ぎた。
 ならばと駅のタクシー乗り場を見やると、数台は客待ちで並んでいたはずのタクシーが消えていた。

 ……さすがの叔父の貫禄か。誰しも危なそうな人には関わりたくないらしい。

「というわけで、歩きで1時間ちょっとくらいかな?」

 即座に言い直す。

「久しぶりの日本だ。見物がてら、歩きもいいさ。俺は構わないが、ふたりは大丈夫か?」

 大丈夫もなにも、異世界での普段の通勤距離はこの倍もあるだけに、歩きなどもう慣れたものだった。

 春香も陸上部出身だからか、体力的には問題ないとガッツポーズで応えていた。

 まあ、たった1時間ほどの徒歩圏内。
 特に見所や面白みのある土地柄でもなく、見物もなにもあったものではないけど――なんて、そのときは叔父の言葉の意味を取り違えていたのだった。
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