異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

文字の大きさ
49 / 184
第四章

叔父が異世界から里帰りします 4

しおりを挟む
 ~証言その1~

 母親の手から離れ、赤信号で横断歩道に飛び出した園児に、車の猛威が迫っていた。
 急ブレーキ音が響き、運転手がハンドルを切るが間に合わない――と思われた瞬間、対向車線から飛び出した叔父が、前宙しながら空中で園児を掻っ攫って、事なきを得た。

 園児の母親と、降りてきた運転手からすごい感謝されていた。
 園児は、意味はわかってなかったが、叔父に肩車されてご満悦だった。


 ~証言その2~

 通りがかったアパートの2階で小火騒ぎが起こっていた。
 すでに消防車は到着しており、野次馬も多い。

 どうやら室内に取り残された者がいるらしく、現場は騒然としていた。
 救出に入ろうとした隊員が、熱で膨張したドアが開かずに悪戦苦闘している。

 スマホで写真を取り捲る野次馬を一足飛びにし、叔父は現場に参入した。
 1歩目で2階の踊り場の柵に掴まり、2歩目で柵を乗り越え、3歩目でドア横の壁を蹴破った。
 唖然とする隊員を置き去りに室内に飛び込み、寝たきりの老人と幼子ふたりを肩に担いで戻ってきた。


 ~証言その3~

 背後から老婆の声が上がった。

 振り返ると、中型バイクに跨ったフルフェイスヘルメットの男が、老婆から奪ったらしきバッグを片手に、猛烈なスピードで通り過ぎるところだった。
 叔父はすれ違いざま、バイクの後部座席を掴んでいた。

 タイヤが空転し、反動で前輪が跳ね上がってバイクが宙を舞う。
 叔父は片手で男をキャッチし、もう片手で掴んでいたバイクを足を器用に使って地面に着地させた。

 バッグを返すと老婆は感謝して何度も頭を下げていた。
 お礼に手作りのおはぎまでくれた。

 失神していた引ったくり犯は、こっそり交番横に投げ捨てていた。


 ~証言その4~

 ビルの解体工事現場に差しかかったところで、突風が吹いた。

 安全用の保護シートが固定具を引き千切って風に煽られて、上方の現場作業員から悲痛な叫びが上がった。
 資材を纏めてあったワイヤーが外れ、地上10メートル以上の高さから大きな鉄骨が2本――路上の通行人たち目掛けて落ちてきた。

 叔父は目にも留まらぬ爆発的なダッシュで落下地点に滑り込み、通行人の頭上で鉄骨をそれぞれ片手で受け止めた。
 上腕の筋肉がはち切れんばかりに盛り上がり、服の袖が裂けたものの、それだけだった。

 叔父は鉄骨を道の隅に寄せると、現場がまだ状況を理解していないうちに、その場を後にした。



 ――というのが、ほんの1時間ばかりの間に、俺たちが目にした光景である。

「なあ、春香」

「なに、にいちゃん?」

「俺たちの地元ってさ、こんな日常的にいろんなことが起こるところだったっけ?」

「さあ? 少なくとも、わたしは生まれてこの方、こんな物騒なことに遭遇したことはないけど」

「だよね? よかった。俺のほうがおかしいのかと思った」

 ふたりの見解は一致した。

「なんか、テンプレのオンパレードって感じだよね?」

 春香が頬を引きつらせながらも、冗談交じりに言う。

「これで、銀行強盗とかも起こったら、完璧かも」

「いくらなんでも、それは――」

 笑い飛ばそうとした俺の隣を、けたたましいサイレンを鳴らしてパトカーが追い抜いていった。

 たしか、この道の先には、地方銀行があったはずだ。
 一緒に歩いていたはずの叔父は、いつの間にかいなくなっていた。



 濃密な時間を経て、ようやく実家に着いた頃には、俺と春香はすっかりと疲弊していた。
 原因である当の叔父は、老婆に貰ったおはぎを頬張りながら平然としたものだ。

 先頭に立つ俺にとって、実家に戻るのは実に3年ぶりとなる。
 もともと大きめの建売だった一軒家は、祖父母が同居するということで増築して二世帯住宅となっていた。

 話には聞いていたが、リフォームされてから足を踏み入れるのは初めてのことだ。
 インターフォンを押そうか迷ってから――とりあえず、押さずにそのままドアを開けた。

「た、ただいま~」

 ぎこちなくも、声を張り上げる。

 入り口脇の部屋に待機していたのか、すぐに出迎えがあった。
 玄関前に立ちはだかるのは、俺と春香の父――白木隆一である。
 家の中では、お馴染みの丹前を身に纏っているのも変わらない。

「帰ったか、秋人。久しぶりになるな、おかえり」

 腕組みをした父は、抑えた声音で言った。

「たっだいま~」

 次いで気軽な声で春香が玄関を潜り、殿の叔父が姿を見せると同時、

 ――ばきっ!

 無言のままで父が、叔父の顔面に正拳を叩き込んでいた。

 突然の展開に驚いたものの、叔父には父の拳が避けられたはずだったが、避ける意思はなかったように感じた。

 ちょうど中間にいた春香は、もろに眼前を拳が通り抜ける形になったので、声をなくして口をパクパクしている。

「いいパンチだな、兄貴」

 叔父は鼻を指で弾き、不敵に笑っていた。

「抜かせ、愚弟。見た目はいい大人になったが、そのふてぶてしさは変わらないようだな」

 父も笑みで返している。

「ボロボロの格好だな。巻き込まれ体質なのは相変わらずか」

「おかげさまでな。いろいろと懐かしかったよ」

「白木家の家系の中でも、おまえのはずば抜けて酷かったからな。秋人はたいしたことないが、春香には少しケがあるか」

 巻き込まれ体質というのは初耳だが、文字面からもきっと先ほどまでのことを指すのだろう。
 探偵が事件に遭遇するかのごとく、勇者は他人を救う運命にある? なんにしても、傍迷惑な体質に違いない。

 思えば、叔父をはじめ、自分が、妹が、異世界というものに関わるようになったのも、この体質が原因なのかも――と、ぼんやり考えていると、隣で春香が頭を抱えてうんうん唸っていた。
 なにか心当たりがあるらしい。

「ともかく、上がれ。積もる話もある」

「ま、そうだろうな」

 父が叔父を招き入れ、客間の襖を開けると……その奥に布陣を敷く、母の夏美と祖父母の3人の姿が見えた。

「悪りぃが、秋人と春香は、しばらく時間を潰してきてくれ。ここから先は、親兄弟の語らいだ。なあに、そんなに時間はかからんだろ」

 にやっと笑う叔父に、俺たちは素直に従うことにした。
 父と叔父を呑み込み、客間の襖は閉じられた。

 にわかに聞こえ始める、泣き声・怒声・乱闘音の数々。
 なにが起こっているか興味はあったが、俺は春香を連れて、帰省したばかりの家を出ることにした。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

処理中です...