異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

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第九章

投獄されたので脱獄します 2

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「……ぅわーぉ」

 あまりに唐突だったので、変な声が出た。

 ばたばたと泳ぐように、体勢を仰向けからうつぶせに移行すると、10メートルほど眼下にさっきまで横になっていたベッドが見下ろせる。
 普段見えないので、ついつい忘れがちになってしまうが、俺には頼りになる風の精霊のお友達がいたんだった。

 天窓も手の届く範囲にある。
 さすがに床から10メートルオーバーの位置にある窓まで、鉄格子はなかった。

 考えるより先に身体が動き、いそいそと窓から這い出て、尖塔の屋根部分に降り立つことができた。
 ……なにやら、あっさりと脱出できてしまったけど。

(さて、これからどうしよう?)

 尖塔の先端にある避雷針に身体を預けながら、遠く星空を望む。
 吹き荒ぶ風は強いが、これも風の精霊の加護らしく、たいして影響は受けない。

 選択肢はふたつある。
 つまりは、逃げるか否かの二択だ。

 騎士団長のカーティスは、確実に腹に一物を抱えているようだった。
 残れば、よからぬ事態に巻き込まれる心配がある。
 かといって、勝手に領主の城から逃げ出すのもまずいだろう。ただでさえ容疑者として囚われていたのだから、脱獄扱いになるかもしれない。

(う~ん……)

 ただそれでも。
 やはり目に見える脅威として、騎士団長の腹積もりがわからない今、この場に残るのは得策ではないかもしれない。
 仮に誤解が解けたとしても、投獄されている事実をフェブに伝えない可能性もある。
 今日はあっさり抜け出せても、明日からは見張りがつかないとも限らない。

(よし、決めた! 逃げよう。さっさと逃げよう)

 なるべくなら、厄介ごとは避けたくなるのが人情である。

 どちらにせよ、フェブが目覚めて釈明さえしてくれれば、お咎めはなしだろう。
 荷物も、あとで返してもらうといい――とまあ、若干ご都合主義ではあるが、自分を納得させておく。

 そうと決まれば即行動と、尖塔の屋根から地上を見下ろしたが――闇と同化して地表が見えない。

 この屋根の上からでは、地上まで約30メートルもの距離がある。
 飛び降りても、きっと精霊さんが魔法でサポートしてくれる……はず。
 ただ、地面は固い石畳。着地に失敗でもすれば、痛い程度では済まないだろう。

 もしもの場合を想像をすると、とても平静ではいられない。
 なにせ、気分はビルの屋上からの綱なしバンジーだ。
 落ちても大丈夫だからと太鼓判を押されても、飛べる者のほうが珍しいだろう。

(よし、無理!)

 早々に諦めて、城伝いに迂回することにした。
 城の上を歩く者など、建築業者か世界的な大怪盗くらいだ。
 警備の兵も巡回しているだろうが、頭上まで警戒しているとは考えづらい。

 まずは尖塔と城とを繋ぐ渡り廊下の屋根に降り、抜き足差し足でこそこそ移動する。
 精霊さんのおかげで身軽になっており、多少の段差があっても対応できる。
 足音がほとんど響かないのも精霊さんのおかげだろう。毎度頼りきりで面目ないが、もう感謝しかない。

 渡り廊下から、お次は城の屋根に乗り移る。
 屋根は傾斜がある上、苔で滑りやすい。ここで屋根から落ちでもしたら、目も当てられない。
 万一にも踏み外さないように、慎重を期して四つん這いになって進むことにした。

(大怪盗というより、これはヤモリかイモリの気分だなぁ……)

 猫ほど優雅だったらよかったんだけど。

 ぼやきつつも、一歩ずつ確実に歩を進める。
 もう少し行くと、近接する城壁に飛び移れそうだ。そこからなら、安全に地上に降りられるだろう。

 ただし、その手前で、ひとつだけ難関があった。
 進行ルート上の屋根からひさし付きの天窓が飛び出しており、そこから明かりが漏れている。

 今さら引き返して別ルートというわけにもいかない。
 進むのにリスクがあるのと同様、戻るのにもリスクはある。
 移動距離が長くなるだけに、むしろ戻るほうが余計にリスクは高いかもしれない。

 ここが覚悟の決めどきだろう。
 要は下に人がいたとしても、気づかれなければいいだけだ。

 息を潜めてにじり寄り、脇をこっそりとやり過ごそうとしたとき――天窓の下から聞き覚えのある声がした。

(これってもしかして……フェブ?)

 ちょっと女の子っぽい高い声は、フェブのものだった。

 天窓から目から上だけ覗かせて確認すると、真下のベッドで上半身を起こしたフェブの姿があった。
 あのときのような発作は見受けられず、体調も復帰したようで、どうやら元気そうだ。

「フェ――」

 驚かせないように小声で頭上から呼びかけようとして、部屋の隅に第三者がいるのに気づいて慌てて口を噤んだ。

 そこにいたのはひとりの男性で、鎧こそ纏っていないが、おそらくは騎士だろう。
 服の上からでもわかる鍛え上げられた肉体と独特の雰囲気から、そんな気がする。
 騎士といっても騎士団長のカーティスではない。
 背格好は似通っているが、壮年というよりは若い青年の騎士だった。

 ふたりは何事かを真剣な面持ちで話し合っており――俺は思わず天窓の陰に身を隠し、耳をそばだてていた。
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