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第五章 回想編
征司、異世界へ 2
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10分ほどの死闘のあと、勝ち残ったのは征司だった。
大熊は地面に巨体を横たえ、その生を終えていた。
勝利した征司とて、無事とはとても言えない。
肩からの出血は量を増し、身体の至るところに大小の傷を負い、服が流血で真っ赤ににじむほどの重傷だ。
裂傷以外にも打撲も酷く、破れた服から覗く肌は青黒い痣に染まっている。
相棒の撲殺丸はひしゃげ、使い物にならなくなっていた。
征司自身、木の幹に寄りかかることで、ようやく立っていられる状態だ。
横になりたかったが、そうすればきっと二度と起き上がることはできないと自覚していた。
「くそ。この状態で他の獣に遭ったらアウトだな……アドレナリンが効いてるうちに安全な場所に移動しねえと」
征司はふらつく足を引きずって、どうにか歩を進める。
しかし、言ったそばから別の獣が木陰から現われた。
(また熊かよ)
自分の運の悪さに、征司はさすがにうんざりする気分だった。
だが、大人しくやられてやるほど、サービス精神には溢れていない。
身構える征司をよそに、新たに現われた熊は、征司に興味がなさそうだった。
ふんふんと鼻を鳴らし、先ほどの大熊の死骸に寄り添っている。
あらためて見ると、その熊は大きさこそ1メートル以上もあって、通常に当て嵌めると充分な成獣なのだが、大熊と比較すると小熊といってもよかった。
実際、仕草というか顔つきも幼く感じる。
「あー、おまえの父ちゃんか母ちゃんだったか? 悪いことをしたな。でも、見ての通り、俺も殺されかけたんだ。こればっかりは、自然の摂理として諦めてくれ。ごめんな」
征司がその頭に手を置いて撫でると、子熊は不思議そうに征司の匂いを嗅ぎ、素肌をぺろぺろと舐めていた。
親とは違って、ずいぶん人懐っこい。
まだ警戒心もないようだ。
まるまるころころとした姿が、昔、近所の家で飼われていた犬のポメラニアンを髣髴とさせた。
外見が熊っぽかったので、幼い征司は勝手に『熊吾郎』と呼んで遊んでいた。
「……じゃーな。達者でな、熊吾郎」
征司は痛みをこらえて、歩き出した。
出血量が多すぎてふらふらする。視界も二重にぼやけてきたし、よくない傾向だった。
幸いなことに、森の樹木のサイズの割には、森自体はさほど広くなかった。
木が続くばかりだった景色が徐々に拓け、前方から光が射し込みはじめた。
程なくして森は途絶えて、征司はようやく太陽のもとに辿り着いた。
空を見上げて、降り注ぐ陽の明るさに目を細める。
(日差しが気持ちいい……気持ちいいが、くらっとすんなぁ。立ちくらみじゃなくって、本気で血が足りないな、これは)
陽の下であらためて自身を見やると、これでもかとばかりに洒落にならないくらいの血みどろだった。
(我ながら、よく生きてんな、これ)
朦朧としかけた意識の中で、不意に気配を感じて征司は振り返った。
視線の先で、ひとりの少女と目が合う。
征司と同い年か少し下くらいの、気の強そうな顔立ちの少女だった。
珍しいピンク色の長髪を三つ編みで纏めて背中に流し、毛皮の胸当てとホットパンツというワイルドな格好で、惜しげもなく肌を晒している。
薪拾いでもしていたのか、枝の束を小脇に抱えていた。
少女は驚いた顔をして、征司を見つめていた。
さもありなん、いきなり血塗れの人物が登場したのだから、それは驚いて然るべしだろう。
なんと声を掛けたらよいのか、とりあえず助けか? などと征司が悩んでいると、少女の双眸がいきなり吊り上がり、尋常ではない殺気を放った。
「――銀の瞳! おのれ、魔族が! こんな場所にまで!」
は? 銀の瞳? 魔族?
少女の口から、なにやらひとつも心当たりのない単語が飛び出した。
大熊は地面に巨体を横たえ、その生を終えていた。
勝利した征司とて、無事とはとても言えない。
肩からの出血は量を増し、身体の至るところに大小の傷を負い、服が流血で真っ赤ににじむほどの重傷だ。
裂傷以外にも打撲も酷く、破れた服から覗く肌は青黒い痣に染まっている。
相棒の撲殺丸はひしゃげ、使い物にならなくなっていた。
征司自身、木の幹に寄りかかることで、ようやく立っていられる状態だ。
横になりたかったが、そうすればきっと二度と起き上がることはできないと自覚していた。
「くそ。この状態で他の獣に遭ったらアウトだな……アドレナリンが効いてるうちに安全な場所に移動しねえと」
征司はふらつく足を引きずって、どうにか歩を進める。
しかし、言ったそばから別の獣が木陰から現われた。
(また熊かよ)
自分の運の悪さに、征司はさすがにうんざりする気分だった。
だが、大人しくやられてやるほど、サービス精神には溢れていない。
身構える征司をよそに、新たに現われた熊は、征司に興味がなさそうだった。
ふんふんと鼻を鳴らし、先ほどの大熊の死骸に寄り添っている。
あらためて見ると、その熊は大きさこそ1メートル以上もあって、通常に当て嵌めると充分な成獣なのだが、大熊と比較すると小熊といってもよかった。
実際、仕草というか顔つきも幼く感じる。
「あー、おまえの父ちゃんか母ちゃんだったか? 悪いことをしたな。でも、見ての通り、俺も殺されかけたんだ。こればっかりは、自然の摂理として諦めてくれ。ごめんな」
征司がその頭に手を置いて撫でると、子熊は不思議そうに征司の匂いを嗅ぎ、素肌をぺろぺろと舐めていた。
親とは違って、ずいぶん人懐っこい。
まだ警戒心もないようだ。
まるまるころころとした姿が、昔、近所の家で飼われていた犬のポメラニアンを髣髴とさせた。
外見が熊っぽかったので、幼い征司は勝手に『熊吾郎』と呼んで遊んでいた。
「……じゃーな。達者でな、熊吾郎」
征司は痛みをこらえて、歩き出した。
出血量が多すぎてふらふらする。視界も二重にぼやけてきたし、よくない傾向だった。
幸いなことに、森の樹木のサイズの割には、森自体はさほど広くなかった。
木が続くばかりだった景色が徐々に拓け、前方から光が射し込みはじめた。
程なくして森は途絶えて、征司はようやく太陽のもとに辿り着いた。
空を見上げて、降り注ぐ陽の明るさに目を細める。
(日差しが気持ちいい……気持ちいいが、くらっとすんなぁ。立ちくらみじゃなくって、本気で血が足りないな、これは)
陽の下であらためて自身を見やると、これでもかとばかりに洒落にならないくらいの血みどろだった。
(我ながら、よく生きてんな、これ)
朦朧としかけた意識の中で、不意に気配を感じて征司は振り返った。
視線の先で、ひとりの少女と目が合う。
征司と同い年か少し下くらいの、気の強そうな顔立ちの少女だった。
珍しいピンク色の長髪を三つ編みで纏めて背中に流し、毛皮の胸当てとホットパンツというワイルドな格好で、惜しげもなく肌を晒している。
薪拾いでもしていたのか、枝の束を小脇に抱えていた。
少女は驚いた顔をして、征司を見つめていた。
さもありなん、いきなり血塗れの人物が登場したのだから、それは驚いて然るべしだろう。
なんと声を掛けたらよいのか、とりあえず助けか? などと征司が悩んでいると、少女の双眸がいきなり吊り上がり、尋常ではない殺気を放った。
「――銀の瞳! おのれ、魔族が! こんな場所にまで!」
は? 銀の瞳? 魔族?
少女の口から、なにやらひとつも心当たりのない単語が飛び出した。
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