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第九章
ベルデン騎士 2
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もともと突っ込む体勢だった分、動揺したダナンに先手を取れた。
瞬間的に舞い上がった炎の壁でダナンの視界が阻まれた隙に、低い姿勢でその脇をすり抜ける。
店内に延焼しないことだけを祈りつつ、一気に扉を開け放った。
衝撃でドアベルが外れて落ちたが、構ってはいられない。そのまま滑り込むように、店外へと身を投げ出す。
「待ていっ! そうやすやすと逃すか!」
しかし、相手もさすがは熟練の騎士。そのまま逃がしてもらえるほど甘くはなかった。
視界を炎の熱気で塞がれつつも、勘だけで対応し、すれ違いざまに咄嗟に足首を掴まれた。
上半身が店外に出たところで、力任せに強引に引きずり倒される。
なおも強引に這いずりながら店を出たが、健闘虚しく遅れて飛び出てきた残りの騎士ふたりに、地面に押さえつけられて取り押さえられてしまった。
「手こずらせる……! 立てっ!」
「あ痛っ!」
後ろ手に乱暴に腕を捩じ上げられ、強引に立たされた。
万事休すと思われたそのとき――
「氷壁よ、戒めとなれ!」
吹き荒ぶ冷気。
騎士のひとりの片足が地面ごと凍りつき、バランスを崩した騎士はもんどりうって転がった。
「アキトを離して。次は雷撃をお見舞いする」
節くれだった杖を構えるのは、とんがり帽子に黒ローブの少女。
「デジー!?」
突然登場したデジーに呆気に取られていると、今度は背後で腕を掴んでいた騎士から悲鳴が上がった。
「あんたら、これはいったいどういう了見かね? さっさとアキ坊を離しな!」
騎士の後ろから、さらにその腕を捩じ上げているのはチナツ姐さんだ。
身長も腕っ節も騎士に負けていない。火焼けした赤黒い腕の筋肉が盛り上がり、血管が浮き出ている。
「ぐっ! なんだ、この馬鹿力の大女は!?」
「酔いどれ鍛冶屋のチナツ姐さんだ、覚えときな!」
「小娘の次は年増か! 次から次へと――その手を離せ! 邪魔をするな!!」
一瞬、その場の全員の身の毛がよだつほどの殺気の炎が立ち昇る。
チナツ姐さんの表情が黒く塗り潰され、血の色をした眼が裂け、恐るべき怨念めいた鬼の形相が浮かび上がった。
「だーれが年増だってぇ――!? あたしゃまだ20代だよ! 引っこ抜くよ、こらぁ!!」
どこをっ!?
大惨事になるかと思われたが、代わりにチナツ姐さんは鍛冶道具の金槌で、騎士の横っ面を一息に引っ叩いていた。
充分に致命傷っぽいエグイ攻撃だったが、さすがに鍛えられている騎士も頑丈で、ふらつく程度でどうにか留まっている。
ただそれ以上の余力はなかったらしく、同時にこちらの戒めも解かれた。
「大丈夫、アキト?」
地面に投げ出されたところを、リコエッタから肩を貸して助け起こされた。
周囲を見回すと、いつの間にか周りに人だかりができていた。
どの顔も見覚えがあり、すぐに近所の商店仲間だと気づいた。
守るように立ち塞がる人の壁が、俺と騎士との間を隔ている。
憤慨冷めやらずに仁王立ちするチナツ姐さんの背に隠れて、ナツメの姿がある。
目が合うと、ナツメは両手で小さくピースサインをしてきた。
息切れして汗まみれの様子ですぐに察した。
どうやら、あのあと近所中を駆けずり回り、助っ人を掻き集めてきてくれたらしい。
……我先に逃げ出したと勘違いしていた。
申し訳なくて恥ずかしくなる。
「ちっ! ぞろぞろと……」
部下の騎士を助け起こしながら、唯一無事なダナンが忌々しげに呟く。
「うちらの仲間になんの用だ! 乱暴するってのなら、商店街が相手になるぜっ!?」
「そうだ、帰れ帰れ! この野郎!」
「アキトに手出しするってんなら、ただじゃおかねえぞ!?」
「そーよそーよ! このヘンテコちょび髭!」
「誰だ、最後に無礼なことを言ったのは!?」
あの声はリコエッタだな。
声を荒げることから察するに、ダナン副団長は髭がたいそうご自慢らしい。
「うるせえ! 大人しく街から出て行きやがれ!」
「商人魂、舐めてんじゃねえぞ!?」
「わたしたちにだって、考えがあるんですからね!」
「そーよそーよ! 髭剃って出直してきなさいよ! 変髭、変髭、変な髭ー!」
「ぐぐぐ――!!」
リコエッタさん、えぐるえぐる。
指を髭に見立てて顔真似までするのが、さらに神経を逆撫でしている。
「――ええい! いいから黙らぬか、貴様ら!」
ダナンの発したあまりの迫力に気圧され、にわかに皆怯み、押し黙ってしまう。
威嚇するような厳しい視線でひとりひとりをつぶさに窺ってから、最後にダナンは軽く咳払いした。
「なにか勘違いしているようだが……我らはベルデン騎士団所属の騎士。すなわち、この街を含めたこの地の領主、アールズ伯爵に仕える騎士である」
ダナンが正体を明かしたことで、周囲から戸惑いの色が見え隠れしはじめた。
なにせ、ベルデン騎士は領主直属の騎士団。
一般住民からしたら取り締まる側の役人に等しい。役人に下手に逆らいたくないのは人情だろう。
「此度は故あって、そこなアキト殿のご助力を得に参った次第。決して、そなたらが誤解しているようなことはない。これ以上、邪魔立てするのならば、騎士の権限として処罰を与えることになるが……?」
権力を笠にした物言いに、さすがのカルディナ商人も及び腰になる。
瞬間的に舞い上がった炎の壁でダナンの視界が阻まれた隙に、低い姿勢でその脇をすり抜ける。
店内に延焼しないことだけを祈りつつ、一気に扉を開け放った。
衝撃でドアベルが外れて落ちたが、構ってはいられない。そのまま滑り込むように、店外へと身を投げ出す。
「待ていっ! そうやすやすと逃すか!」
しかし、相手もさすがは熟練の騎士。そのまま逃がしてもらえるほど甘くはなかった。
視界を炎の熱気で塞がれつつも、勘だけで対応し、すれ違いざまに咄嗟に足首を掴まれた。
上半身が店外に出たところで、力任せに強引に引きずり倒される。
なおも強引に這いずりながら店を出たが、健闘虚しく遅れて飛び出てきた残りの騎士ふたりに、地面に押さえつけられて取り押さえられてしまった。
「手こずらせる……! 立てっ!」
「あ痛っ!」
後ろ手に乱暴に腕を捩じ上げられ、強引に立たされた。
万事休すと思われたそのとき――
「氷壁よ、戒めとなれ!」
吹き荒ぶ冷気。
騎士のひとりの片足が地面ごと凍りつき、バランスを崩した騎士はもんどりうって転がった。
「アキトを離して。次は雷撃をお見舞いする」
節くれだった杖を構えるのは、とんがり帽子に黒ローブの少女。
「デジー!?」
突然登場したデジーに呆気に取られていると、今度は背後で腕を掴んでいた騎士から悲鳴が上がった。
「あんたら、これはいったいどういう了見かね? さっさとアキ坊を離しな!」
騎士の後ろから、さらにその腕を捩じ上げているのはチナツ姐さんだ。
身長も腕っ節も騎士に負けていない。火焼けした赤黒い腕の筋肉が盛り上がり、血管が浮き出ている。
「ぐっ! なんだ、この馬鹿力の大女は!?」
「酔いどれ鍛冶屋のチナツ姐さんだ、覚えときな!」
「小娘の次は年増か! 次から次へと――その手を離せ! 邪魔をするな!!」
一瞬、その場の全員の身の毛がよだつほどの殺気の炎が立ち昇る。
チナツ姐さんの表情が黒く塗り潰され、血の色をした眼が裂け、恐るべき怨念めいた鬼の形相が浮かび上がった。
「だーれが年増だってぇ――!? あたしゃまだ20代だよ! 引っこ抜くよ、こらぁ!!」
どこをっ!?
大惨事になるかと思われたが、代わりにチナツ姐さんは鍛冶道具の金槌で、騎士の横っ面を一息に引っ叩いていた。
充分に致命傷っぽいエグイ攻撃だったが、さすがに鍛えられている騎士も頑丈で、ふらつく程度でどうにか留まっている。
ただそれ以上の余力はなかったらしく、同時にこちらの戒めも解かれた。
「大丈夫、アキト?」
地面に投げ出されたところを、リコエッタから肩を貸して助け起こされた。
周囲を見回すと、いつの間にか周りに人だかりができていた。
どの顔も見覚えがあり、すぐに近所の商店仲間だと気づいた。
守るように立ち塞がる人の壁が、俺と騎士との間を隔ている。
憤慨冷めやらずに仁王立ちするチナツ姐さんの背に隠れて、ナツメの姿がある。
目が合うと、ナツメは両手で小さくピースサインをしてきた。
息切れして汗まみれの様子ですぐに察した。
どうやら、あのあと近所中を駆けずり回り、助っ人を掻き集めてきてくれたらしい。
……我先に逃げ出したと勘違いしていた。
申し訳なくて恥ずかしくなる。
「ちっ! ぞろぞろと……」
部下の騎士を助け起こしながら、唯一無事なダナンが忌々しげに呟く。
「うちらの仲間になんの用だ! 乱暴するってのなら、商店街が相手になるぜっ!?」
「そうだ、帰れ帰れ! この野郎!」
「アキトに手出しするってんなら、ただじゃおかねえぞ!?」
「そーよそーよ! このヘンテコちょび髭!」
「誰だ、最後に無礼なことを言ったのは!?」
あの声はリコエッタだな。
声を荒げることから察するに、ダナン副団長は髭がたいそうご自慢らしい。
「うるせえ! 大人しく街から出て行きやがれ!」
「商人魂、舐めてんじゃねえぞ!?」
「わたしたちにだって、考えがあるんですからね!」
「そーよそーよ! 髭剃って出直してきなさいよ! 変髭、変髭、変な髭ー!」
「ぐぐぐ――!!」
リコエッタさん、えぐるえぐる。
指を髭に見立てて顔真似までするのが、さらに神経を逆撫でしている。
「――ええい! いいから黙らぬか、貴様ら!」
ダナンの発したあまりの迫力に気圧され、にわかに皆怯み、押し黙ってしまう。
威嚇するような厳しい視線でひとりひとりをつぶさに窺ってから、最後にダナンは軽く咳払いした。
「なにか勘違いしているようだが……我らはベルデン騎士団所属の騎士。すなわち、この街を含めたこの地の領主、アールズ伯爵に仕える騎士である」
ダナンが正体を明かしたことで、周囲から戸惑いの色が見え隠れしはじめた。
なにせ、ベルデン騎士は領主直属の騎士団。
一般住民からしたら取り締まる側の役人に等しい。役人に下手に逆らいたくないのは人情だろう。
「此度は故あって、そこなアキト殿のご助力を得に参った次第。決して、そなたらが誤解しているようなことはない。これ以上、邪魔立てするのならば、騎士の権限として処罰を与えることになるが……?」
権力を笠にした物言いに、さすがのカルディナ商人も及び腰になる。
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