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第九章
ベルデン騎士 3
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「そんなことは関係ない。アキトは仲間。なら守るのは当然」
怯む大人たちの中、無表情ながらもデジーが躊躇なく真っ先に歩み出た。
「加えて、アキ坊は大事なクライアントでもあるからねぇ。はいそうですか、って差し出すわけにもいかないさ」
チナツ姐さんが挑戦的に笑み、腕まくりをして、金槌片手にぶんぶんと肩を回していた。
「ここでアキトを見捨てたとあっちゃあ、リコエッタさんの女も廃るってね! ハルカにも顔向けできなくなっちゃう」
嫌がるナツメを盾として前に押し出しながら、リコエッタが悪戯っぽく言った。
「いい度胸だ、貴様ら……!」
ダナンが額に青筋を立てて身構える。
ふたりの騎士も復活しており、すでに臨戦態勢だ。
3人に引っ張られるかたちで再び商人たちも奮い立ち、両者は睨み合いとなった。
一瞬即発かと思われたそのとき――
「――はいはいはいはい~! 勇敢な女性陣に拍手~!」
間の抜けた拍手と共に、人の輪を掻き分けて登場する一団があった。
揃いの紺のジャケットは、カルディナの警備兵だ。
「警備兵、第3地区隊長のカルドスだ」
先頭を歩いていた短髪黒髪の男性が、両者の間に割って入ってきた。
そのカルドスさんは警備隊長らしいが、俺には直接の面識はない。
表情はもとより、立ち姿も雰囲気も、どこか力が抜けた余裕ある風体をしているが、身体つきは騎士に見劣りせぬほど鍛え上げられている。
腕自慢にありがちな直情径行ではなく、一言で表すと――曲者っぽい人だ。
「さてさて。ベルデン騎士さまとやら。権威を振りかざすのは結構だが、この街は伯爵さまから認可を得た、ある意味自治区だ。そこでこの狼藉とは、もちろん伯爵さまの了承を得てのことだよな?」
肩を竦ませて歩み寄るカルドスさんに、ダナンの旗色は悪い。
「……残念ながら、主からの了承をいただいてはおらん。だが、待たれよ。故に、協力を仰ぐというかたちを取らせてもらっている」
「おいおい。拉致るのは協力を仰ぐとは言わんのよ」
カルドスさんが即座に切って捨てる。
「騎士であるわしが偽りを申しておると?」
「まあ、人の認識はさまざまだ。暴力でも、本人がそうとは思わず振るわれることもある。協力なのか強要なのか……その場に居なかった俺には判断がつかんよ。だから、信頼できるほうの意見を採用するだけさ」
カルドスさんが俺に向かい合わせに立った。
「で、あんたはどう感じた?」
「強要でした」
即答する。
「だったら、拉致未遂で決まりだな」
「ベルデン騎士団、副団長のこのダナン・ゴーンよりも、そこの一介の商人を信用すると?」
「ああ。いざというときに戦場に居なかった騎士さまより、街のために命がけで共闘した戦友を信じるのは当たり前だろ? 戦闘経験もなさそうなのに、そこの嬢ちゃんと一緒に真っ向から魔獣や魔物と戦ったんだ。絶望しかけた仲間も奮い立たせる、なかなかの勇姿ぶりだったぜ、なあ?」
カルドスさんがウィンクしてきた。
(そうか……魔族の襲撃のとき、この人もあそこにいたんだ……)
感慨深くなる。あのときは無我夢中だったが、こうして誇らしげに語ってくれる誰かの力になれていたという実感が、今さらながらに嬉しかった。
一方、騎士たちの反応は沈痛だった。
民を守るべきときに間に合わなかったのは事実。被害が出てしまったのも事実。騎士の中にも悔やむ声は多いと聞く。
「……引き上げだ」
眉間に刻まれた皺をいっそう深くして、ダナンが吐き捨てた。踵を返して、振り返る様子すらなく足早に去っていく。
部下のふたりの騎士も、慌ててそれに続いていた。
3人の後姿が見えなくなるまで見送ってから――
「「「「「ぶはあ!」」」」」
警備兵とデジー以外の全員が、大きな息を吐いて地面にへたり込んだ。
まあ、商人だけに商売は命がけでも、荒事に命をかけるというのは稀有なはずだ。特に権力に対しては。
実のところ、皆いっぱいいっぱいだったのだろう。
それでも、大勢の人が助けに集まってくれた。
仲間として受け入れていてくれたことが嬉しかった。
まるで戦勝会のように笑顔で、皆一様に称え合い、楽しそうだった。子供に武勇伝を話そうと意気込む父親もいた。
何人からも背中をびしばしと叩かれ、もみくちゃにされてしまったが、それもまた嬉しかった。
ただ、その後はさすがに商人だけに切り替えも早く、自分の商売のことを思い出した面々は、余韻に浸るのもそこそこに自分の店にそそくさと戻っていった。
最後のひとりまで見送ってから、俺もシラキ屋に戻ることにした。
忘れていたが、店内で炎の魔法石を使った場所は――なんとか延焼は免れていた。
多少、床板の表面が焦げた程度だ。
あと、もうひとつ。俺を救ってくれた功労者に思い至った。
たまごろー。あのとき、偶然にも騎士の頭に落ちてくれなかったら、店からの脱出は不可能だったろう。
裏口辺りから連れ出され、今の結果にはならなかったかもしれない。
(……おやあ?)
床に転がっていたはずのたまごろーがない。
ひび割れてなどしないかと心配していたが、それ以前の問題だった。
陳列棚の上を見上げると――元の座布団の指定席に、なぜかごく普通にたまごろーが鎮座していた。
最近の卵は、勝手に動くどころか、棚を登ったりもするのだろうか?
最後に不思議な余韻を残しつつ――その日は何事もなく終了したのだった。
怯む大人たちの中、無表情ながらもデジーが躊躇なく真っ先に歩み出た。
「加えて、アキ坊は大事なクライアントでもあるからねぇ。はいそうですか、って差し出すわけにもいかないさ」
チナツ姐さんが挑戦的に笑み、腕まくりをして、金槌片手にぶんぶんと肩を回していた。
「ここでアキトを見捨てたとあっちゃあ、リコエッタさんの女も廃るってね! ハルカにも顔向けできなくなっちゃう」
嫌がるナツメを盾として前に押し出しながら、リコエッタが悪戯っぽく言った。
「いい度胸だ、貴様ら……!」
ダナンが額に青筋を立てて身構える。
ふたりの騎士も復活しており、すでに臨戦態勢だ。
3人に引っ張られるかたちで再び商人たちも奮い立ち、両者は睨み合いとなった。
一瞬即発かと思われたそのとき――
「――はいはいはいはい~! 勇敢な女性陣に拍手~!」
間の抜けた拍手と共に、人の輪を掻き分けて登場する一団があった。
揃いの紺のジャケットは、カルディナの警備兵だ。
「警備兵、第3地区隊長のカルドスだ」
先頭を歩いていた短髪黒髪の男性が、両者の間に割って入ってきた。
そのカルドスさんは警備隊長らしいが、俺には直接の面識はない。
表情はもとより、立ち姿も雰囲気も、どこか力が抜けた余裕ある風体をしているが、身体つきは騎士に見劣りせぬほど鍛え上げられている。
腕自慢にありがちな直情径行ではなく、一言で表すと――曲者っぽい人だ。
「さてさて。ベルデン騎士さまとやら。権威を振りかざすのは結構だが、この街は伯爵さまから認可を得た、ある意味自治区だ。そこでこの狼藉とは、もちろん伯爵さまの了承を得てのことだよな?」
肩を竦ませて歩み寄るカルドスさんに、ダナンの旗色は悪い。
「……残念ながら、主からの了承をいただいてはおらん。だが、待たれよ。故に、協力を仰ぐというかたちを取らせてもらっている」
「おいおい。拉致るのは協力を仰ぐとは言わんのよ」
カルドスさんが即座に切って捨てる。
「騎士であるわしが偽りを申しておると?」
「まあ、人の認識はさまざまだ。暴力でも、本人がそうとは思わず振るわれることもある。協力なのか強要なのか……その場に居なかった俺には判断がつかんよ。だから、信頼できるほうの意見を採用するだけさ」
カルドスさんが俺に向かい合わせに立った。
「で、あんたはどう感じた?」
「強要でした」
即答する。
「だったら、拉致未遂で決まりだな」
「ベルデン騎士団、副団長のこのダナン・ゴーンよりも、そこの一介の商人を信用すると?」
「ああ。いざというときに戦場に居なかった騎士さまより、街のために命がけで共闘した戦友を信じるのは当たり前だろ? 戦闘経験もなさそうなのに、そこの嬢ちゃんと一緒に真っ向から魔獣や魔物と戦ったんだ。絶望しかけた仲間も奮い立たせる、なかなかの勇姿ぶりだったぜ、なあ?」
カルドスさんがウィンクしてきた。
(そうか……魔族の襲撃のとき、この人もあそこにいたんだ……)
感慨深くなる。あのときは無我夢中だったが、こうして誇らしげに語ってくれる誰かの力になれていたという実感が、今さらながらに嬉しかった。
一方、騎士たちの反応は沈痛だった。
民を守るべきときに間に合わなかったのは事実。被害が出てしまったのも事実。騎士の中にも悔やむ声は多いと聞く。
「……引き上げだ」
眉間に刻まれた皺をいっそう深くして、ダナンが吐き捨てた。踵を返して、振り返る様子すらなく足早に去っていく。
部下のふたりの騎士も、慌ててそれに続いていた。
3人の後姿が見えなくなるまで見送ってから――
「「「「「ぶはあ!」」」」」
警備兵とデジー以外の全員が、大きな息を吐いて地面にへたり込んだ。
まあ、商人だけに商売は命がけでも、荒事に命をかけるというのは稀有なはずだ。特に権力に対しては。
実のところ、皆いっぱいいっぱいだったのだろう。
それでも、大勢の人が助けに集まってくれた。
仲間として受け入れていてくれたことが嬉しかった。
まるで戦勝会のように笑顔で、皆一様に称え合い、楽しそうだった。子供に武勇伝を話そうと意気込む父親もいた。
何人からも背中をびしばしと叩かれ、もみくちゃにされてしまったが、それもまた嬉しかった。
ただ、その後はさすがに商人だけに切り替えも早く、自分の商売のことを思い出した面々は、余韻に浸るのもそこそこに自分の店にそそくさと戻っていった。
最後のひとりまで見送ってから、俺もシラキ屋に戻ることにした。
忘れていたが、店内で炎の魔法石を使った場所は――なんとか延焼は免れていた。
多少、床板の表面が焦げた程度だ。
あと、もうひとつ。俺を救ってくれた功労者に思い至った。
たまごろー。あのとき、偶然にも騎士の頭に落ちてくれなかったら、店からの脱出は不可能だったろう。
裏口辺りから連れ出され、今の結果にはならなかったかもしれない。
(……おやあ?)
床に転がっていたはずのたまごろーがない。
ひび割れてなどしないかと心配していたが、それ以前の問題だった。
陳列棚の上を見上げると――元の座布団の指定席に、なぜかごく普通にたまごろーが鎮座していた。
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