異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

文字の大きさ
148 / 184
第九章

勇者と御曹司 2

しおりを挟む
「は?」

「……え? どうしてでしょうか? 勇者さま?」

 もっとも衝撃を受けていたのはフェブだった。
 愕然とするあまりか、足元がふらついている。

「あ、ああ、そうか……説明不足でしたね。そうだ、ボクったら、気ばっかり逸ってしまって……実は、サレブ地方のガレシア村の方々が、魔族の被害を受けてるんです。困ってるんです。だから魔族を倒さないと」

「理由はわかった。だが、断わらせてもらう」

「え? え? でも、人々が困ってるんですよ? 勇者さまは、勇者なんですよね……? あまねく人々を助けてくれるのが勇者のはずなのに……どうして?」

 叔父は嘆息というよりも、深呼吸するほどに大きく息を吐いていた。

「いいか、坊主。勇者ってのも人間だ。身内のためなら命を掛けよう。知人のためなら尽力しよう。目に見える範囲の者が困っていたら、そりゃあ助けるさ。でも、人類すべてを助けようとか、助けられると思っている奴――そういうのは現実が見えていない、ただの夢想家だな」

「嘘だ……勇者さまは、魔族を倒して人々を助ける……そんな尊い方でしょう? 魔族は倒さないと! 殺さないといけないのに! あうっ!?」

 叔父が左手で手荒くフェブの襟首を掴んで持ち上げた。
 その豪腕に、フェブの軽い身体が容易に宙に浮く。

 完全に足が離れており、首もとの一点に全体重がかかり、フェブが苦しそうに荒い息を吐いた。

 雲行きが怪しい。

「リオちゃん、リオちゃん、起きて」

 さすがにリオちゃんを寝せたままにはしておけず、揺さぶって起こし、どうにか自力で立たせた。

「あうー。おあよー」

 大欠伸のリオちゃんの頭を撫でる。

 目覚めたら大勢の騎士に取り囲まれている状況だが、幸いリオちゃんはまだ寝ぼけているらしく、大人しくしてくれた。
 しっかりと手を繋いで、成り行きを見守る。

「よく考えろ。フェブラント・アールズ。そもそも今回の出征は、本当に領民のことを思ってか?」

「も、もちろんです……」

「では、問おう。出征で魔族との戦闘になったとして……勝つにしろ、負けるにしろ、その後のことはどう考える? 騎士団を動員しての戦闘は、冒険者と魔族の遭遇戦などとはわけが違う、れっきとした戦争だ。これがさらなる戦の火種になるとは考えなかったのか?」

「そ、それこそ……それこそ、勇者さまがいらっしゃれば……」

「そこがまず大きな勘違いだ。確かに俺は魔王を倒した。だが、魔族という種族に勝ったわけじゃない。俺が戦場に出れば、その戦では勝てるかもしれん。仮に10ある戦場の中で1の必勝を得たとしても、残り9で負けていればそれがなんだというんだ?」

「でも、だからと、領民を見捨てるわけには……」

「じっさまなら、そんな判断は下さない。大規模戦闘は最終手段だ。まだやれることはあるはずだ。どうして、そう結果を急いだ? 坊主のそれはただの私怨だ。魔族憎さに、領主としての目が曇ってしまってる」

「…………」

 フェブの反論が止む。

 完全に勇者の威圧に呑まれていた騎士たちだったが、そのときになってようやく我に返ったようだ。

「お、恐れながら勇者殿! その手をお放しめされい!」

 主家の危機に、勇敢な騎士のひとりが叔父に槍を向けた。
 震える穂先が、屈強なはずの騎士の心情を物語っている。勇者とは、それだけ畏怖すべき存在なのだろう。

 叔父は応じず、真っ向からフェブを見つめたまま動かない。

「ゆ、勇者殿……! 聞いておられますか? 勇者殿! 勇者殿――!」

 警告に応じない叔父に、騎士は決死の覚悟とも取れる勢いで槍を突き出した。

 しかし、槍は叔父の身体に達する寸前で右手で受け止められており、びくともしていない。
 騎士が懸命に槍を押しても引いても、微動だにしなかった。

「――勇者殿!!」

 業を煮やした騎士が、渾身の力で槍ごと体当たりしてくるのを叔父は手首の捻りだけで絡め取り、相手の身体ごと頭上に高々と持ち上げた。
 そして、そのまま豪快に叩き落とす――

「ぐあっ!」

 総重量で数十キロもありそうな鎧を纏った騎士は、落下に加えた自重で地面に衝突して悶絶した。

 明らかな敵対行動に、唖然としていた騎士たちも即座に武器を構える。

「勇者殿、御免!」

 数人の騎士が斬りかかったが、叔父はフェブを持ち上げたまま、片手でその攻撃すべてを捌いていた。

 同じ動画をリピート再生するように、襲いかかった騎士たちは宙を舞い、先の騎士と同じ道を辿っている。

「おのれっ……!」

 焦ったのは副団長のダナンだ。
 目論見が外れたのか、必死の形相で叔父を睨みつけていた。
 とはいえ、突っ込めば同じ末路になることは自明で、悔しそうに地団太を踏んでいる。

 俺とリオちゃんは少し離れていた位置で状況を窺っていたが、不意にダナンと目が合った。

 にやり、とダナンの容貌が歪む。

「退けいっ!」

 ダナンが剣を振り上げながら、突っ込んできた。

「うわっ!?」

 突進自体は間一髪で避けられたが、弾みでリオちゃんと繋いでいた手が離れてしまった。

 リオちゃんはいまだに寝ぼけたままだ。
 俺という支えをなくしてすとんと地面に座り込んだところに、ダナンが駆け寄ってその小さな体躯を抱き上げ――高々と歓喜の声を上げた。

「見よっ、勇者殿! 大人しく我らの言うことを聞かねば――」

「ダメぇ! それ一番の悪手だからー!」

 叫んだときには遅かった。

 叔父の背後から澱んだオーラが噴出していた。
 そこにいたのは勇者ではなく――魔王の降臨だった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

処理中です...