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第3章 蠢動
13: 新任教師桜田
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神無月は放課後、自分が顧問を受け持っている男子バレーボール部の練習を、体育館を二つに別けたネット壁の側でぼんやり見つめていた。
部員達はスパイクの練習をしていて、体育館シューズが床面をキュッとこする高い音や、ボールが掌に打ち付けられる音、床にバウンドする音等が聞こえている。
本来、こんな時には、スパイクの際の掌の向きとか腕の振り出し方などをアドバイスしてやるべきなのだが、それが出来ない。
どうしても昼間の事が頭から離れないのでいるのだ。
今の神無月には、体育館に響き渡っている子ども達の甲高い複数の声もどこか遠くに聞こえた。
そんな神無月の側に、同期で新任で入った桜田が近寄って来た。
正真正銘の美人だ。
神無月は大学時代に怪我で入院したことがあるが、その時に、すこぶる付きの綺麗な看護師に世話を受けたことがある。
看護師という仕事もハードで肉体労働だが、何より、排泄支援など、直接生身の人間の身体に対するケアがあったりして、相当なタフさが要求され使命感がなければ出来ない職業だと思えた。
その体験から神無月は、人が羨むような美貌を持つことと、その人物が自分の職業になにを選ぶかは、全く別の事なのだと気付かされたものだった。
桜田は女子バレーボールの顧問をやっている。
英語を教えていて、学年は一年に所属している。
今日は体育館を二つに割り男子と女子が練習をしているのだ。
「カムイ先生、なんだか元気ないですね。」
「そうすっか、、でもそのカムイ先生っての止めません?生徒みたいですよ。」
「えーーこの前、新任の武器は、生徒と近い目線で物を見たり感じれる事だよ、って言ってたのカムイ先生じゃないですか。」
確かに、下手をするとアイドル歌手に見えかねない桜田は生徒に人気があった。
教師歴が5年にも満たぬまだ若い神無月が、生徒に煙たがられるのとは正反対だった。
勿論、人気があるということと、指導力があるということとは別だ。
桜田の方は、勤務先で一番自分に年齢が近く、同期としてこの学校に赴任した神無月に親近感を抱いているようだった。
公立学校というものは、画一的なもののように見えて、実はそれぞれに文化を持っていいるから、転任して来た神無月もある意味では桜田と同じ新任のようなものだった。
「今日、鉄馬君を昼休みプール裏に呼び出したんでしょ?」
神無月は驚いたように桜田の顔を見た。
神無月の見立てでは、今日の出来事は表沙汰にならないと思っていた。
何よりも鉄馬のメンツが、それを許さないだろうと考えていたからだ。
「カジローちゃんが、そっと教えてくれたんです。なんだか彼、私と先生が同期で入って来たし、独身同士だからって、子どもっぽい幻想を私達に持ってるみたいです。それで桜田ちゃんだけに教えるから、カムイを慰めてやれって。」
神無月は、カジローのいかにもヘラヘラした口調を思い出す。
テレビドラマなどで登場する、そういった人物を真似ているのだろうが、それがカジローの本質にならなければ良いがと、神無月は妙な所でこの生徒を心配していた。
悪い奴ではない、何故、不良をやっているのか不思議な生徒だった。
おそらく友達思いが過ぎるのだろう。
「、、、馬鹿かアイツ。なんで俺が慰められるわけ、」
ひょっとしたら鉄馬が、"カムイなんてちょろかった"と、カジローの手前そう喋ったのかも知れなかった。
「まあいいや。でも良いですね。桜田先生の所には色々、生徒達の裏情報が流れて来るんでしょ。」
「ええ、、、それで私がカムイ先生に言いたいのは、ガンちゃんの事なんです。いえ、クラブの子が言ってるのを聞いただけなんで正確かどうか判らないんですけど、耳に入れておいた方がいいかなって。」
又、驚いて神無月は桜田の顔を見た。
「ガンちゃん、中国の子達の不良グループに目を付けられているんですって。」
「中国?それにその情報元、女バレの誰?それとも俺の教えてる子?」
神無月はその話を自分で確かめたいと思った。
不確実な情報で動くわけにはいかない、かと言って「中国」という言葉は聞き流せない固さがあった。
「言えません。その子、別にカムイ先生へこの事言ってくれって私にたのんじゃわけじゃないし、、。でも、彼女の家族の親戚が噂になってる商店街で商売をしてるらしいんですよ。それでその親戚が自分の店を中国の人に売るかどうかを迷って、それを彼女の家に相談に来てて、そんな話の流れの中でガンちゃんの事が出てきたらしいんです。それに、その中国の人の買い占め話って、他の子達も何人か知っているようでした。」
神無月はまほろば食堂での金田の姿を思い出した。
「私、話聞いてて、その中国の子たちって、その人達の手足みたいに動いてるんじゃないかって、まあ、ここからは私の想像なんですけどね。あの子達の話の切れ端を繋ぐと、どうもそういう感じなので、もしソレが当たってるなら、ガンちゃん、凄くヤバイなって。私、このことを加賀美先生に話してもいいんだけど。私、加賀美先生が怖くて、」
最後の桜田の台詞はよく判った。
怖いというのは、加賀美の前に立つと、教師としての自分の至らなさを思い知らされて、近づけないと言う意味だ。
神無月が副担ではなくて、遠くで加賀美を見ているだけなら、自分もそう感じるだろうと思った。
よくある事だとも、神無月は思った。
人間の評価なんてお互いの立場や距離感によっていくらでも変わる。
現に今、この自分たちの会話シーンを見ている筈のクラブの生徒達は、思春期真っ直中の思考でもって、とんでもない恋物語を「カムイとサクラダ」の間に造り上げている筈だった。
部員達はスパイクの練習をしていて、体育館シューズが床面をキュッとこする高い音や、ボールが掌に打ち付けられる音、床にバウンドする音等が聞こえている。
本来、こんな時には、スパイクの際の掌の向きとか腕の振り出し方などをアドバイスしてやるべきなのだが、それが出来ない。
どうしても昼間の事が頭から離れないのでいるのだ。
今の神無月には、体育館に響き渡っている子ども達の甲高い複数の声もどこか遠くに聞こえた。
そんな神無月の側に、同期で新任で入った桜田が近寄って来た。
正真正銘の美人だ。
神無月は大学時代に怪我で入院したことがあるが、その時に、すこぶる付きの綺麗な看護師に世話を受けたことがある。
看護師という仕事もハードで肉体労働だが、何より、排泄支援など、直接生身の人間の身体に対するケアがあったりして、相当なタフさが要求され使命感がなければ出来ない職業だと思えた。
その体験から神無月は、人が羨むような美貌を持つことと、その人物が自分の職業になにを選ぶかは、全く別の事なのだと気付かされたものだった。
桜田は女子バレーボールの顧問をやっている。
英語を教えていて、学年は一年に所属している。
今日は体育館を二つに割り男子と女子が練習をしているのだ。
「カムイ先生、なんだか元気ないですね。」
「そうすっか、、でもそのカムイ先生っての止めません?生徒みたいですよ。」
「えーーこの前、新任の武器は、生徒と近い目線で物を見たり感じれる事だよ、って言ってたのカムイ先生じゃないですか。」
確かに、下手をするとアイドル歌手に見えかねない桜田は生徒に人気があった。
教師歴が5年にも満たぬまだ若い神無月が、生徒に煙たがられるのとは正反対だった。
勿論、人気があるということと、指導力があるということとは別だ。
桜田の方は、勤務先で一番自分に年齢が近く、同期としてこの学校に赴任した神無月に親近感を抱いているようだった。
公立学校というものは、画一的なもののように見えて、実はそれぞれに文化を持っていいるから、転任して来た神無月もある意味では桜田と同じ新任のようなものだった。
「今日、鉄馬君を昼休みプール裏に呼び出したんでしょ?」
神無月は驚いたように桜田の顔を見た。
神無月の見立てでは、今日の出来事は表沙汰にならないと思っていた。
何よりも鉄馬のメンツが、それを許さないだろうと考えていたからだ。
「カジローちゃんが、そっと教えてくれたんです。なんだか彼、私と先生が同期で入って来たし、独身同士だからって、子どもっぽい幻想を私達に持ってるみたいです。それで桜田ちゃんだけに教えるから、カムイを慰めてやれって。」
神無月は、カジローのいかにもヘラヘラした口調を思い出す。
テレビドラマなどで登場する、そういった人物を真似ているのだろうが、それがカジローの本質にならなければ良いがと、神無月は妙な所でこの生徒を心配していた。
悪い奴ではない、何故、不良をやっているのか不思議な生徒だった。
おそらく友達思いが過ぎるのだろう。
「、、、馬鹿かアイツ。なんで俺が慰められるわけ、」
ひょっとしたら鉄馬が、"カムイなんてちょろかった"と、カジローの手前そう喋ったのかも知れなかった。
「まあいいや。でも良いですね。桜田先生の所には色々、生徒達の裏情報が流れて来るんでしょ。」
「ええ、、、それで私がカムイ先生に言いたいのは、ガンちゃんの事なんです。いえ、クラブの子が言ってるのを聞いただけなんで正確かどうか判らないんですけど、耳に入れておいた方がいいかなって。」
又、驚いて神無月は桜田の顔を見た。
「ガンちゃん、中国の子達の不良グループに目を付けられているんですって。」
「中国?それにその情報元、女バレの誰?それとも俺の教えてる子?」
神無月はその話を自分で確かめたいと思った。
不確実な情報で動くわけにはいかない、かと言って「中国」という言葉は聞き流せない固さがあった。
「言えません。その子、別にカムイ先生へこの事言ってくれって私にたのんじゃわけじゃないし、、。でも、彼女の家族の親戚が噂になってる商店街で商売をしてるらしいんですよ。それでその親戚が自分の店を中国の人に売るかどうかを迷って、それを彼女の家に相談に来てて、そんな話の流れの中でガンちゃんの事が出てきたらしいんです。それに、その中国の人の買い占め話って、他の子達も何人か知っているようでした。」
神無月はまほろば食堂での金田の姿を思い出した。
「私、話聞いてて、その中国の子たちって、その人達の手足みたいに動いてるんじゃないかって、まあ、ここからは私の想像なんですけどね。あの子達の話の切れ端を繋ぐと、どうもそういう感じなので、もしソレが当たってるなら、ガンちゃん、凄くヤバイなって。私、このことを加賀美先生に話してもいいんだけど。私、加賀美先生が怖くて、」
最後の桜田の台詞はよく判った。
怖いというのは、加賀美の前に立つと、教師としての自分の至らなさを思い知らされて、近づけないと言う意味だ。
神無月が副担ではなくて、遠くで加賀美を見ているだけなら、自分もそう感じるだろうと思った。
よくある事だとも、神無月は思った。
人間の評価なんてお互いの立場や距離感によっていくらでも変わる。
現に今、この自分たちの会話シーンを見ている筈のクラブの生徒達は、思春期真っ直中の思考でもって、とんでもない恋物語を「カムイとサクラダ」の間に造り上げている筈だった。
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