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クライネルト公爵家の屋敷に帰り着くと、玄関ホールで仁王立ちになった兄、ジークフリートが私を待っていた。
「ブリーナ!無事か!」
私の姿を認めると、兄は血相を変えて駆け寄ってきた。その手には、愛用のサーベルが握られている。今にも王宮に斬り込みに行きそうな勢いだ。
「ええ、お兄様。私はこの通り、ピンピンしておりますわ」
「しかし、あのアルフォンスのクソ野郎……!よくも公衆の面前で我が妹に恥をかかせたな!許さん!絶対に許さんぞ!」
地団駄を踏む兄を、父であるクライネルト公爵がやんわりと諌める。
「ジークフリート、落ち着きなさい。ここは玄関だ」
父は冷静を装っているが、その眉間には深い皺が刻まれており、内心が穏やかでないことは明らかだった。
「ですが父上!ブリーナが!可哀想なブリーナが!」
「お兄様、私は少しも可哀想ではございませんわ」
私がきっぱりと言うと、兄は悲痛な顔で私を見た。
「何を言うんだ、ブリーナ。無理しなくていい。辛かっただろう。泣きたい時は泣いていいんだぞ」
「ですから、辛くなどないのです。むしろ……」
私はにっこりと微笑んで、爆弾を投下した。
「せいせいいたしましたわ!」
「「……は?」」
父と兄の声が、綺麗にハモった。
私は構わず続ける。
「これでやっと、王太子妃教育という名の退屈な日々から解放されます。領地に帰って、やりたいことがたくさんあるんですもの。殿下には感謝しなくては」
「か、感謝……だと?」
兄は信じられないという顔で私を凝視している。無理もない。これまで私は、完璧な王太子妃候補として、文句一つ言わずに努めてきたのだから。
「ブリーナ、本気で言っているのか?」
父が、探るような目で私を見る。
「ええ、お父様。本気ですわ。あの方との婚約は、クライネルト家のために必要なことだと理解しておりました。ですが、もうその必要もなくなった。ならば、これからの人生は、私が好きなように生きてもよろしいでしょう?」
私の真剣な眼差しに、父は何かを察したようだった。長いため息を一つつくと、諦めたように首を振る。
「……お前がそれでいいと言うのなら、父として反対はしない。王家には、私から正式に抗議し、相応の落とし前はつけさせる」
「まあ、お父様!ありがとうございます!」
「だが、納得できん!」
話がまとまりかけたところで、兄が再び吠えた。
「アルフォンスは許せんが、お前もだ、ブリーナ!なぜあんな奴のために、これまでずっと我慢してきたんだ!嫌なら嫌だと、なぜ言わなかった!」
「言えるわけないでしょう、お兄様。これは、私たちの家のための婚約ですもの」
「だが!」
「それに、我慢がいつか報われるかもしれない、なんて淡い期待も、ほんの少しは……まあ、一ミリくらいはありましたし?」
おどけて言うと、兄はぐっと言葉に詰まった。
「……すまない、ブリーナ。俺は、お前の気持ちに全く気づいてやれなかった」
しょんぼりと肩を落とす兄に、私は苦笑する。
「お兄様が謝ることではありませんわ。さあ、それよりも祝杯をあげましょう!私の新しい門出に!」
私はパチンと指を鳴らし、侍女にシャンパンの用意を命じた。
呆気に取られる父と兄をよそに、私の心は晴れやかだった。ようやく手に入れた自由。これから始まる新しい生活。考えただけで、胸が躍る。
婚約破棄?結構じゃない。私の本当の人生は、ここから始まるのだから。
「ブリーナ!無事か!」
私の姿を認めると、兄は血相を変えて駆け寄ってきた。その手には、愛用のサーベルが握られている。今にも王宮に斬り込みに行きそうな勢いだ。
「ええ、お兄様。私はこの通り、ピンピンしておりますわ」
「しかし、あのアルフォンスのクソ野郎……!よくも公衆の面前で我が妹に恥をかかせたな!許さん!絶対に許さんぞ!」
地団駄を踏む兄を、父であるクライネルト公爵がやんわりと諌める。
「ジークフリート、落ち着きなさい。ここは玄関だ」
父は冷静を装っているが、その眉間には深い皺が刻まれており、内心が穏やかでないことは明らかだった。
「ですが父上!ブリーナが!可哀想なブリーナが!」
「お兄様、私は少しも可哀想ではございませんわ」
私がきっぱりと言うと、兄は悲痛な顔で私を見た。
「何を言うんだ、ブリーナ。無理しなくていい。辛かっただろう。泣きたい時は泣いていいんだぞ」
「ですから、辛くなどないのです。むしろ……」
私はにっこりと微笑んで、爆弾を投下した。
「せいせいいたしましたわ!」
「「……は?」」
父と兄の声が、綺麗にハモった。
私は構わず続ける。
「これでやっと、王太子妃教育という名の退屈な日々から解放されます。領地に帰って、やりたいことがたくさんあるんですもの。殿下には感謝しなくては」
「か、感謝……だと?」
兄は信じられないという顔で私を凝視している。無理もない。これまで私は、完璧な王太子妃候補として、文句一つ言わずに努めてきたのだから。
「ブリーナ、本気で言っているのか?」
父が、探るような目で私を見る。
「ええ、お父様。本気ですわ。あの方との婚約は、クライネルト家のために必要なことだと理解しておりました。ですが、もうその必要もなくなった。ならば、これからの人生は、私が好きなように生きてもよろしいでしょう?」
私の真剣な眼差しに、父は何かを察したようだった。長いため息を一つつくと、諦めたように首を振る。
「……お前がそれでいいと言うのなら、父として反対はしない。王家には、私から正式に抗議し、相応の落とし前はつけさせる」
「まあ、お父様!ありがとうございます!」
「だが、納得できん!」
話がまとまりかけたところで、兄が再び吠えた。
「アルフォンスは許せんが、お前もだ、ブリーナ!なぜあんな奴のために、これまでずっと我慢してきたんだ!嫌なら嫌だと、なぜ言わなかった!」
「言えるわけないでしょう、お兄様。これは、私たちの家のための婚約ですもの」
「だが!」
「それに、我慢がいつか報われるかもしれない、なんて淡い期待も、ほんの少しは……まあ、一ミリくらいはありましたし?」
おどけて言うと、兄はぐっと言葉に詰まった。
「……すまない、ブリーナ。俺は、お前の気持ちに全く気づいてやれなかった」
しょんぼりと肩を落とす兄に、私は苦笑する。
「お兄様が謝ることではありませんわ。さあ、それよりも祝杯をあげましょう!私の新しい門出に!」
私はパチンと指を鳴らし、侍女にシャンパンの用意を命じた。
呆気に取られる父と兄をよそに、私の心は晴れやかだった。ようやく手に入れた自由。これから始まる新しい生活。考えただけで、胸が躍る。
婚約破棄?結構じゃない。私の本当の人生は、ここから始まるのだから。
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