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翌日の昼下がり、王宮から一通の手紙が届いた。アルフォンス殿下からのものだ。
「ブリーナ様、王太子殿下より呼び出しでございます。『昨夜の件について、慰謝料等の話し合いがしたい。急ぎ登城されたし』と…」
父である公爵が、苦々しい顔で手紙の内容を読み上げる。
「ふん、どの口が言うか。散々ブリーナを侮辱しておいて、今更なんだ」
兄のジークフリートが、鼻を鳴らして吐き捨てた。
「お父様、お兄様。そのお話、私にお任せいただけませんこと?」
私が申し出ると、二人は意外そうな顔で私を見た。
「ブリーナ、お前が行くことはない。あんな奴の顔など見たくもないだろう」
「ええ、ですから参りませんわ。お返事を書くだけです」
私はにっこり笑うと、侍女に自分の愛用しているレターセットを持ってこさせた。優雅な花の装飾が施された、お気に入りの便箋だ。
さらさらとペンを走らせ、私は返事を書き上げた。
それを父と兄に読んで聞かせる。
「拝啓、アルフォンス王太子殿下。この度はご丁重なお申し出、痛み入ります。ですが、慰謝料などというお心遣いは無用でございます」
「ほう…」
「昨夜の件で、私は何一つ傷ついてはおりませんし、むしろ長年の責務から解放してくださった殿下には、感謝しているほど。つきましては、慰謝料としてご用意くださるはずだった金品は、どうぞお納めになり、リリアーナ様との新しい『愛の巣』でもお建てになる足しになさってくださいませ。末筆ではございますが、お二人の輝かしい未来を心よりお祈り申し上げております。かしこ。ブリーナ・フォン・クライネルト」
「「…………」」
私の手紙を最後まで聞き終えた父と兄は、揃って絶句していた。
やがて、兄の肩がぷるぷると震え始めたかと思うと、こらえきれないといった様子で噴き出した。
「ぶはっ!はははは!最高だ、ブリーナ!傑作だ!」
腹を抱えて笑う兄とは対照的に、父はこめかみを押さえている。
「ブリーナ…お前という娘は…。これは、王太子への返信としては、あまりにも…」
「皮肉が効きすぎている、と仰りたいのですか?」
「……分かりきったことを聞くな」
父は深いため息をついたが、その口元はわずかに笑みの形を描いていた。
「ですが、これで殿下も、私が本気で気にしていないということをご理解くださるでしょう。これ以上、無駄な干渉をされずに済みますわ」
私の言葉に、父も納得せざるを得なかったようだ。
「…分かった。その手紙を送ることを許可しよう。ただし、王家への正式な抗議は、これとは別に行うからな」
「ありがとうございます、お父様」
こうして、私の書いた手紙は王宮へと届けられた。
後から聞いた話では、手紙を読んだアルフォンス殿下は、しばらく言葉もなく立ち尽くし、やがて「あの女…!」と怒りにわなわなと震えながら、執務室の高級な花瓶を叩き割ったそうだ。
その報告を聞いた私は、優雅に紅茶を一口飲みながら、ただ静かに微笑んだ。
「ブリーナ様、王太子殿下より呼び出しでございます。『昨夜の件について、慰謝料等の話し合いがしたい。急ぎ登城されたし』と…」
父である公爵が、苦々しい顔で手紙の内容を読み上げる。
「ふん、どの口が言うか。散々ブリーナを侮辱しておいて、今更なんだ」
兄のジークフリートが、鼻を鳴らして吐き捨てた。
「お父様、お兄様。そのお話、私にお任せいただけませんこと?」
私が申し出ると、二人は意外そうな顔で私を見た。
「ブリーナ、お前が行くことはない。あんな奴の顔など見たくもないだろう」
「ええ、ですから参りませんわ。お返事を書くだけです」
私はにっこり笑うと、侍女に自分の愛用しているレターセットを持ってこさせた。優雅な花の装飾が施された、お気に入りの便箋だ。
さらさらとペンを走らせ、私は返事を書き上げた。
それを父と兄に読んで聞かせる。
「拝啓、アルフォンス王太子殿下。この度はご丁重なお申し出、痛み入ります。ですが、慰謝料などというお心遣いは無用でございます」
「ほう…」
「昨夜の件で、私は何一つ傷ついてはおりませんし、むしろ長年の責務から解放してくださった殿下には、感謝しているほど。つきましては、慰謝料としてご用意くださるはずだった金品は、どうぞお納めになり、リリアーナ様との新しい『愛の巣』でもお建てになる足しになさってくださいませ。末筆ではございますが、お二人の輝かしい未来を心よりお祈り申し上げております。かしこ。ブリーナ・フォン・クライネルト」
「「…………」」
私の手紙を最後まで聞き終えた父と兄は、揃って絶句していた。
やがて、兄の肩がぷるぷると震え始めたかと思うと、こらえきれないといった様子で噴き出した。
「ぶはっ!はははは!最高だ、ブリーナ!傑作だ!」
腹を抱えて笑う兄とは対照的に、父はこめかみを押さえている。
「ブリーナ…お前という娘は…。これは、王太子への返信としては、あまりにも…」
「皮肉が効きすぎている、と仰りたいのですか?」
「……分かりきったことを聞くな」
父は深いため息をついたが、その口元はわずかに笑みの形を描いていた。
「ですが、これで殿下も、私が本気で気にしていないということをご理解くださるでしょう。これ以上、無駄な干渉をされずに済みますわ」
私の言葉に、父も納得せざるを得なかったようだ。
「…分かった。その手紙を送ることを許可しよう。ただし、王家への正式な抗議は、これとは別に行うからな」
「ありがとうございます、お父様」
こうして、私の書いた手紙は王宮へと届けられた。
後から聞いた話では、手紙を読んだアルフォンス殿下は、しばらく言葉もなく立ち尽くし、やがて「あの女…!」と怒りにわなわなと震えながら、執務室の高級な花瓶を叩き割ったそうだ。
その報告を聞いた私は、優雅に紅茶を一口飲みながら、ただ静かに微笑んだ。
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