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(また求婚か…)
ブリーナが騎士団長をあしらっているのを見て、ウルスラは安堵しながらも、胸の中にもやもやとした感情が渦巻くのを感じていた。
彼女の婚約が破棄されて以来、求婚者が後を絶たない。公爵家の令息、辺境伯、大富豪、そして今度は騎士団長。誰もが、それぞれのやり方で彼女を手に入れようと必死だ。
(当たり前だ。あんなに綺麗で、頭が良くて、面白い女を、他の男が放っておくわけがねえ)
だが、自分はどうだ?
俺はただの平民の商人だ。家柄も、称号も、騎士のような名誉もない。あるのは、自分の腕一本で稼いできた金と、この商会だけ。
ブリーナは、仕事のパートナーとして、対等に接してくれる。だが、それはあくまでビジネス上の話だ。彼女の結婚相手として、俺は相応しいのだろうか。
彼女は、クライネルト公爵家の令嬢なのだ。元はと言えば、この国の王妃になるはずだった人だ。そんな彼女の隣に、俺が立つことなど許されるのだろうか。
初めて感じる、自分の立場の不甲斐なさ。いつもは自信に満ちているはずの心が、揺らいでいた。
その日の夕方、ウルスラは商会の事務所で一人、帳簿を眺めながら深いため息をついていた。
「旦那様、どうかなさいましたか?らしくもありませんぜ」
声をかけてきたのは、商会の番頭を勤める、年配のゲオルグだった。彼は、ウルスラが裸一貫で商売を始めた時からの、一番の腹心だ。
「…ゲオルグか。いや、何でもない」
「何でもない、という顔ではございませんな。ブリーナ様のことでしょう?」
図星を突かれて、ウルスラはぐっと言葉に詰まる。
ゲオルグは、呆れたように笑った。
「旦那様。あんたはいつも、『身分や家柄なんざ、クソ食らえだ』って言ってるじゃありませんか。いざ自分のことになったら、それを気にするんですかい?」
「……」
「ブリーナ様は、そんなことで旦那様を判断するようなお方ですかい?俺には、そうは見えやせんがね」
ゲオルグの言葉が、ウルスラの胸に突き刺さる。
そうだ。ブリーナは、そんな女じゃない。彼女は、俺の商才を、俺という人間そのものを評価してくれた。そんな彼女を、俺自身が信じないでどうする。
「…そうだな。俺は、馬鹿だった」
ウルスラは、顔を上げた。その瞳には、いつもの力強い光が戻っていた。
「いつまでも、こんな風にうじうじ悩んでても始まらねえ。他の男どもに、彼女をかっさらわれるわけにはいかねえからな」
「おお、やっとその気になりましたな!」
「ああ。俺は、俺のやり方で、彼女を手に入れてみせる。商人らしく、な」
彼は、不敵な笑みを浮かべた。
何をすべきか。答えはもう、決まっていた。ぐずぐずしている時間はない。
ウルスラは、一つの決意を胸に、椅子から立ち上がった。まずは、彼女の心を、もっとこちらに引き寄せなければ。幸い、もうすぐ絶好の機会がやってくる。
年に一度の、領地の収穫祭だ。
ブリーナが騎士団長をあしらっているのを見て、ウルスラは安堵しながらも、胸の中にもやもやとした感情が渦巻くのを感じていた。
彼女の婚約が破棄されて以来、求婚者が後を絶たない。公爵家の令息、辺境伯、大富豪、そして今度は騎士団長。誰もが、それぞれのやり方で彼女を手に入れようと必死だ。
(当たり前だ。あんなに綺麗で、頭が良くて、面白い女を、他の男が放っておくわけがねえ)
だが、自分はどうだ?
俺はただの平民の商人だ。家柄も、称号も、騎士のような名誉もない。あるのは、自分の腕一本で稼いできた金と、この商会だけ。
ブリーナは、仕事のパートナーとして、対等に接してくれる。だが、それはあくまでビジネス上の話だ。彼女の結婚相手として、俺は相応しいのだろうか。
彼女は、クライネルト公爵家の令嬢なのだ。元はと言えば、この国の王妃になるはずだった人だ。そんな彼女の隣に、俺が立つことなど許されるのだろうか。
初めて感じる、自分の立場の不甲斐なさ。いつもは自信に満ちているはずの心が、揺らいでいた。
その日の夕方、ウルスラは商会の事務所で一人、帳簿を眺めながら深いため息をついていた。
「旦那様、どうかなさいましたか?らしくもありませんぜ」
声をかけてきたのは、商会の番頭を勤める、年配のゲオルグだった。彼は、ウルスラが裸一貫で商売を始めた時からの、一番の腹心だ。
「…ゲオルグか。いや、何でもない」
「何でもない、という顔ではございませんな。ブリーナ様のことでしょう?」
図星を突かれて、ウルスラはぐっと言葉に詰まる。
ゲオルグは、呆れたように笑った。
「旦那様。あんたはいつも、『身分や家柄なんざ、クソ食らえだ』って言ってるじゃありませんか。いざ自分のことになったら、それを気にするんですかい?」
「……」
「ブリーナ様は、そんなことで旦那様を判断するようなお方ですかい?俺には、そうは見えやせんがね」
ゲオルグの言葉が、ウルスラの胸に突き刺さる。
そうだ。ブリーナは、そんな女じゃない。彼女は、俺の商才を、俺という人間そのものを評価してくれた。そんな彼女を、俺自身が信じないでどうする。
「…そうだな。俺は、馬鹿だった」
ウルスラは、顔を上げた。その瞳には、いつもの力強い光が戻っていた。
「いつまでも、こんな風にうじうじ悩んでても始まらねえ。他の男どもに、彼女をかっさらわれるわけにはいかねえからな」
「おお、やっとその気になりましたな!」
「ああ。俺は、俺のやり方で、彼女を手に入れてみせる。商人らしく、な」
彼は、不敵な笑みを浮かべた。
何をすべきか。答えはもう、決まっていた。ぐずぐずしている時間はない。
ウルスラは、一つの決意を胸に、椅子から立ち上がった。まずは、彼女の心を、もっとこちらに引き寄せなければ。幸い、もうすぐ絶好の機会がやってくる。
年に一度の、領地の収穫祭だ。
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