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クライネルト領地の収穫祭は、領内で最も大きな祭りだ。一年間の収穫に感謝し、領民たちが身分に関係なく、一緒になって楽しむ特別な日。
その日、ウルスラは少しだけお洒落をして、ブリーナを迎えに行った。
「よう、ブリーナ。行くぞ」
「ええ、待っていたわ」
現れたブリーナは、いつもより少し華やかな、花の刺繍が施されたワンピースを着ていた。髪には、可憐な花飾りをつけている。その姿は、ハッとするほど美しく、ウルスラは思わず見とれてしまった。
祭りの会場である街の中心広場は、大変な賑わいだった。陽気な音楽が鳴り響き、あちこちの屋台から、美味しそうな匂いが漂ってくる。
「すごい人出ね!」
人の多さに、ブリーナが少し驚いたように言う。
「ああ。はぐれるなよ」
ウルスラは、ごく自然に、ブリーナの手を取った。
「!」
ブリーナの肩が、びくりと震えるのが分かった。繋がれた手から、彼女の緊張と、そして熱が伝わってくる。ウルスラの心臓も、早鐘を打っていた。
「こ、こうしないと、迷子になるだろ」
言い訳のように言うと、ブリーナは「…そうね」と小さく呟いて、俯いてしまった。その耳が、ほんのり赤く染まっているのを、ウルスラは見逃さなかった。
二人は、手を繋いだまま、祭りを回った。
焼きたてのソーセージを頬張り、甘いリンゴ飴に舌鼓を打つ。射的では、ウルスラが見事な腕前で大きなぬいぐるみを獲得し、ブリーナにプレゼントした。
「まあ、可愛い…!ありがとう、ウルスラ」
ぬいぐるみを抱きしめて、無邪気にはしゃぐブリーナ。それは、領主の令嬢でも、敏腕な事業家でもない、年頃の少女の顔だった。ウルスラは、そんな彼女の姿を、愛おしく見つめていた。
日が暮れて、広場に焚かれたかがり火が、幻想的に辺りを照らし出す頃。音楽が、ゆったりとしたワルツの曲に変わった。
広場の中央では、人々が思い思いにペアになって、楽しげに踊り始めている。
「なあ、ブリーナ」
ウルスラは、意を決して言った。
「俺と、一曲、踊ってくれないか?」
ブリーナは、少し驚いたように目を見開いた。
「でも、私…」
「大丈夫だ。俺がリードするから」
ウルスラは、ブリーナの空いている方の手をとり、優しく広場の中心へと導いた。
ぎこちなくステップを踏む二人。ウルスラは、王都の貴族のようにスマートには踊れない。だが、彼は一生懸命、ブリーナをリードした。
彼の腕の中にいる。その事実だけで、ブリーナの胸はいっぱいだった。見上げると、かがり火に照らされた彼の真剣な顔があった。その瞳が、熱っぽく自分を見つめている。
音楽が終わり、二人は見つめ合ったまま、しばらく動けなかった。
どちらからともなく、どちらかが何かを言おうとした、その時。
「ブリーナ様!」
一人の兵士が、息を切らして二人の元へ駆け寄ってきた。
「た、大変です!王都から、至急の使いが!」
その言葉に、二人の甘い時間は、唐突に終わりを告げた。何かが、また始まろうとしていた。
その日、ウルスラは少しだけお洒落をして、ブリーナを迎えに行った。
「よう、ブリーナ。行くぞ」
「ええ、待っていたわ」
現れたブリーナは、いつもより少し華やかな、花の刺繍が施されたワンピースを着ていた。髪には、可憐な花飾りをつけている。その姿は、ハッとするほど美しく、ウルスラは思わず見とれてしまった。
祭りの会場である街の中心広場は、大変な賑わいだった。陽気な音楽が鳴り響き、あちこちの屋台から、美味しそうな匂いが漂ってくる。
「すごい人出ね!」
人の多さに、ブリーナが少し驚いたように言う。
「ああ。はぐれるなよ」
ウルスラは、ごく自然に、ブリーナの手を取った。
「!」
ブリーナの肩が、びくりと震えるのが分かった。繋がれた手から、彼女の緊張と、そして熱が伝わってくる。ウルスラの心臓も、早鐘を打っていた。
「こ、こうしないと、迷子になるだろ」
言い訳のように言うと、ブリーナは「…そうね」と小さく呟いて、俯いてしまった。その耳が、ほんのり赤く染まっているのを、ウルスラは見逃さなかった。
二人は、手を繋いだまま、祭りを回った。
焼きたてのソーセージを頬張り、甘いリンゴ飴に舌鼓を打つ。射的では、ウルスラが見事な腕前で大きなぬいぐるみを獲得し、ブリーナにプレゼントした。
「まあ、可愛い…!ありがとう、ウルスラ」
ぬいぐるみを抱きしめて、無邪気にはしゃぐブリーナ。それは、領主の令嬢でも、敏腕な事業家でもない、年頃の少女の顔だった。ウルスラは、そんな彼女の姿を、愛おしく見つめていた。
日が暮れて、広場に焚かれたかがり火が、幻想的に辺りを照らし出す頃。音楽が、ゆったりとしたワルツの曲に変わった。
広場の中央では、人々が思い思いにペアになって、楽しげに踊り始めている。
「なあ、ブリーナ」
ウルスラは、意を決して言った。
「俺と、一曲、踊ってくれないか?」
ブリーナは、少し驚いたように目を見開いた。
「でも、私…」
「大丈夫だ。俺がリードするから」
ウルスラは、ブリーナの空いている方の手をとり、優しく広場の中心へと導いた。
ぎこちなくステップを踏む二人。ウルスラは、王都の貴族のようにスマートには踊れない。だが、彼は一生懸命、ブリーナをリードした。
彼の腕の中にいる。その事実だけで、ブリーナの胸はいっぱいだった。見上げると、かがり火に照らされた彼の真剣な顔があった。その瞳が、熱っぽく自分を見つめている。
音楽が終わり、二人は見つめ合ったまま、しばらく動けなかった。
どちらからともなく、どちらかが何かを言おうとした、その時。
「ブリーナ様!」
一人の兵士が、息を切らして二人の元へ駆け寄ってきた。
「た、大変です!王都から、至急の使いが!」
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