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祭りの甘い余韻は、兵士の一言によって無残にも打ち砕かれた。
私とウルスラは、急いで館へと戻った。応接室では、王家の紋章が入った豪奢な服を着た使者が、尊大な態度で私を待っていた。
「クライネルト公爵令嬢にご挨拶申し上げる。私は、王室府長官の代理として参った」
「ご苦労様です。して、どのようなご用件で?」
私の問いに、使者はもったいぶるように一枚の封筒を取り出した。金色の縁取りがされた、最高級の羊皮紙。そこには、紛れもない王家の印璽が押されている。
「来るひと月後、アルフォンス王太子殿下と、リリアーナ・マイヤー様の婚礼の儀が執り行われる運びとなった。つきましては、ブリーナ様にも、ぜひご臨席賜りたく」
使者は、招待状を私に差し出した。
アルフォンスと、リリアーナの、結婚式。
その言葉は、まるで遠い国の物語のように、私の耳には響いた。もう、私には何の関係もない世界の話だ。
隣に立つウルスラが、息を呑むのが分かった。彼の視線が、心配そうに私に注がれている。私が、この招待状を受け取って、傷つくのではないかと案じているのだ。
私は、ゆっくりと招待状を受け取った。その招待状が、やけに重く感じる。
過去からの手紙。捨てたはずの世界からの、呼び声。
「…そうですか。ご丁寧に、ありがとうございます」
私は、表情一つ変えずに、使者に礼を言った。その冷静な態度に、使者の方が少し面食らったようだった。
「つきましては、ご出欠のお返事を、今すぐお聞かせ願いたい、と殿下は仰せで…」
「まあ、気が早いのですね」
私はふふっ、と軽く笑ってみせた。
(これは、試されているのね)
私があの婚約破棄をどう受け止めているのか。私が、今、幸せなのか、それとも不幸のどん底にいるのか。彼らは、それをこの目で確かめたいのだ。そしておそらく、私が惨めな姿で現れることを期待している。
(面白いじゃない)
断る、という選択肢は、最初から私の中にはなかった。逃げたと思われては、癪に障る。
私は、顔を上げた。そして、はっきりと、そこにいる全員に聞こえるように宣言した。
「もちろん、喜んで出席させていただきますわ」
私の声には、一片の迷いもなかった。
「えっ…」
隣で、ウルスラが小さく声を漏らす。彼の顔に、動揺と、そして私がまだ王太子に未練があるのではないか、という不安の色が浮かんだのを、私は見逃さなかった。
「元婚約者として、お二人の門出を盛大にお祝いしなくてはなりませんものね。王都へ伺うのが、今から楽しみですわ」
私は、完璧な淑女の笑みを浮かべて、そう言い切った。
これは、戦だ。感傷に浸っている暇はない。
捨てられた悪役令嬢が、惨めに涙を流す?冗談じゃない。
誰よりも輝く姿で、彼らの前に現れて、心からの祝福を送ってやる。それが、私のやり方。私の、最後の意地だった。
波乱の幕開けを告げる招待状を手に、私は静かに闘志を燃やしていた。
私とウルスラは、急いで館へと戻った。応接室では、王家の紋章が入った豪奢な服を着た使者が、尊大な態度で私を待っていた。
「クライネルト公爵令嬢にご挨拶申し上げる。私は、王室府長官の代理として参った」
「ご苦労様です。して、どのようなご用件で?」
私の問いに、使者はもったいぶるように一枚の封筒を取り出した。金色の縁取りがされた、最高級の羊皮紙。そこには、紛れもない王家の印璽が押されている。
「来るひと月後、アルフォンス王太子殿下と、リリアーナ・マイヤー様の婚礼の儀が執り行われる運びとなった。つきましては、ブリーナ様にも、ぜひご臨席賜りたく」
使者は、招待状を私に差し出した。
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その言葉は、まるで遠い国の物語のように、私の耳には響いた。もう、私には何の関係もない世界の話だ。
隣に立つウルスラが、息を呑むのが分かった。彼の視線が、心配そうに私に注がれている。私が、この招待状を受け取って、傷つくのではないかと案じているのだ。
私は、ゆっくりと招待状を受け取った。その招待状が、やけに重く感じる。
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「…そうですか。ご丁寧に、ありがとうございます」
私は、表情一つ変えずに、使者に礼を言った。その冷静な態度に、使者の方が少し面食らったようだった。
「つきましては、ご出欠のお返事を、今すぐお聞かせ願いたい、と殿下は仰せで…」
「まあ、気が早いのですね」
私はふふっ、と軽く笑ってみせた。
(これは、試されているのね)
私があの婚約破棄をどう受け止めているのか。私が、今、幸せなのか、それとも不幸のどん底にいるのか。彼らは、それをこの目で確かめたいのだ。そしておそらく、私が惨めな姿で現れることを期待している。
(面白いじゃない)
断る、という選択肢は、最初から私の中にはなかった。逃げたと思われては、癪に障る。
私は、顔を上げた。そして、はっきりと、そこにいる全員に聞こえるように宣言した。
「もちろん、喜んで出席させていただきますわ」
私の声には、一片の迷いもなかった。
「えっ…」
隣で、ウルスラが小さく声を漏らす。彼の顔に、動揺と、そして私がまだ王太子に未練があるのではないか、という不安の色が浮かんだのを、私は見逃さなかった。
「元婚約者として、お二人の門出を盛大にお祝いしなくてはなりませんものね。王都へ伺うのが、今から楽しみですわ」
私は、完璧な淑女の笑みを浮かべて、そう言い切った。
これは、戦だ。感傷に浸っている暇はない。
捨てられた悪役令嬢が、惨めに涙を流す?冗談じゃない。
誰よりも輝く姿で、彼らの前に現れて、心からの祝福を送ってやる。それが、私のやり方。私の、最後の意地だった。
波乱の幕開けを告げる招待状を手に、私は静かに闘志を燃やしていた。
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