悪役令嬢は求婚しない

東山りえる

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「出席する!?ブリーナ、お前、正気か!?」

私の決意を聞いた兄ジークフリートが、案の定、血相を変えて叫んだ。父も、そしてウルスラも、信じられないという顔で私を見ている。

「ええ、もちろん正気ですわ、お兄様。これほど面白い見世物、見逃す手はございませんでしょう?」

「見世物だと!?晒し者にされるのはお前なんだぞ!わざわざ自分から屈辱を受けに行くようなものだ!」

兄の言うことも無理はない。世間一般の考えでは、そうだろう。捨てられた元婚約者が、元婚約者の結婚式にのこのこ現れるなど、物笑いの種になるだけだ。

「いいえ、お兄様。晒し者になるのは、私ではございませんわ」

私は、静かに、しかしはっきりと告げた。その瞳には、絶対的な自信が宿っている。

「本当に惨めなのは、どちらでしょうね。過去の婚約者に憐れみの目を向けられなければプライドを保てない、小さな王太子殿下でしょうか。それとも、新しい人生を謳歌し、心からの祝福を贈ることができる、私でしょうか」

私の言葉に、兄はぐっと息を呑んだ。

父である公爵は、黙って私の顔を見つめていたが、やがて深いため息をついた。

「…ブリーナ。お前の覚悟は分かった。だが、辛くはないのか?」

「お父様。辛いか辛くないか、ではございませんの。これは、私のけじめです。この手で、過去に完全に終止符を打つのです。そうしなければ、私はいつまでも『可哀想な元婚約者』のままですから」

私の真剣な眼差しに、父も兄も、もう何も言えなかった。彼らは、私がただの意地や見栄で出席しようとしているのではないことを、ようやく理解してくれたのだ。

「…分かった。お前の好きにしなさい。クライネルト家の名に懸けて、お前がみすぼらしい思いをすることだけはないように、最大限の準備をさせよう」

「ありがとうございます、お父様」

話がまとまったところで、私はずっと黙っていたウルスラの方へ向き直った。

彼の顔には、まだ納得のいかないような、複雑な色が浮かんでいる。

「ウルスラ。心配してくれてありがとう。でも、大丈夫よ」

私がそう言うと、彼は何かを言いたそうに口を開きかけたが、結局、何も言わずに唇を結んだ。

彼の不安は、痛いほど伝わってきた。私がまだ、アルフォンス殿下に未練があるのではないか。王都へ戻って、彼の心も離れてしまうのではないか。そんな不安が、彼の瞳を揺らしていた。

その不安を、今は言葉で拭ってやることはできない。

行動で示すしかないのだ。

私が、誰を選び、どんな未来を生きていきたいのか。それを、あの王都で、はっきりと見せつけるために。

私は、窓の外に広がる領地の穏やかな景色を見つめながら、静かに決意を固めた。この戦いは、誰のためでもない。私自身の、未来のための戦いなのだと。
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