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しおりを挟むヴォルグ侯爵家を裁くための、特別法廷が開かれた。
場所は、王城の最も格式高い大広間。
傍聴席は、王国の主だった貴族たちで埋め尽くされている。
誰もが、歴史的な裁判の行方を見守っていた。
私も、兄のカイと共に、原告側の席に座っていた。
被告席には、ヴォルグ侯爵夫妻と、アイゼンが並んで座らされている。
三人の間には、もはや家族の絆など欠片も感じられなかった。
「では、尋問を開始する。まず、ヴォルグ侯爵!」
裁判長を務める、厳格な大法官の声が響く。
「被告は、王家直轄の鉱山から得られる利益を偽り、不正に蓄財していたこと、相違ないか!」
「……それは……」
ヴォルグ侯爵は、歯切れ悪く口ごもる。
「私の独断ではございません!家の財産を管理していたのは、妻であり……!」
「まあ、あなた!何を仰いますの!わたくしは、あなたが『家の運営のためだ』と仰るから、それに従っていただけではございませんこと!」
侯爵夫人が、甲高い声で反論する。
始まった。醜い、罪のなすりつけ合いだ。
「お前は、誰よりも贅沢を好み、毎日のように宝飾品を買い漁っていただろうが!」
「それは、侯爵夫人としての体面を保つためですわ!あなたこそ、愛人に屋敷を買い与えるために、多額の金子を横領していたではありませんの!」
次々と暴露される、夫婦の秘密。
傍聴席の貴族たちは、呆れたように、そして面白そうに、そのやり取りを見ている。
「静粛に!ここは、痴話喧嘩の場ではないぞ!」
裁判長が一喝する。
「次に、武器の密売についてだ!敵国に武器を横流しするなど、国家への反逆に等しい行為!これについて、申し開きはあるか!」
「それこそ、私ではございません!武器の取引に関しては、全て息子であるアイゼンに任せておりました!」
今度は、息子に罪を着せようとする父親。
「父上!何を言うか!俺は、父上の命令に従っただけだ!『これは王国の未来のためになる、重要な取引だ』と、そう言ったではないか!」
アイゼンが、怒りに顔を赤くして叫ぶ。
「お前が、もっと上手く立ち回っていれば、こんなことにはならなかったのだ!」
「俺のせいだとでも言うのか!」
法廷は、怒号と罵声が飛び交う、無法地帯と化した。
私は、その光景を、冷たい心で見ていた。
これが、権力と富に溺れた者たちの、哀れな末路。
彼らは、最後まで自らの罪を認めることなく、ただ互いを貶め合うことしかできないのだ。
その醜態は、何よりも雄弁に、彼らの罪の深さを物語っていた。
もはや、どんな言葉も必要なかった。
彼らは、自らの手で、その身の破滅を証明しているのだから。
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