22 / 30
22
しおりを挟む法廷の醜態が続く中、裁判長が次の証人を呼び出した。
「証人、ティール辺境伯を入廷させよ!」
その声と共に、大広間の扉が開き、父が堂々とした足取りで入ってきた。
辺境の厳しい風雪に鍛えられたその体躯と、鋭い眼光は、軟弱な王都の貴族たちを圧倒する、凄みがあった。
父は、証言台に立つと、まず被告席にいるヴォルグ侯爵を、射抜くような目で見据えた。
侯爵は、その視線に耐えきれず、サッと顔を伏せる。
「証人、ティール辺境伯。ヴォルグ侯爵家の武器密売によって、辺境がどのような被害を受けたか、証言を願いたい」
裁判長の言葉に、父はゆっくりと口を開いた。
その声は、怒りと悲しみに震えていた。
「我がティール辺境伯領は、長年、北の蛮族からの侵略に苦しめられてまいりました。彼らは、冬になると食料を求めて、我々の村を襲う。民は殺され、畑は焼かれ、家畜は奪われる。我々は、必死に抵抗してまいりました」
父は、一度言葉を切ると、再びヴォルグ侯爵を睨みつけた。
「しかし、ここ数年、彼らの武装は、明らかに強力になっておりました。我々の兵士が使うものと、同じ鉄で作られた剣。頑丈な盾。そのせいで、我々の犠牲は、増える一方だったのです」
父の声が、法廷に響き渡る。
それは、家族を、民を、守れなかった男の、魂の叫びだった。
「なぜだ、と我々は思っていた。痩せた土地に住む彼らが、どこからこれほどの武具を手に入れるのか、と。……その答えが、ここにあったとはな」
父は、被告席を指さした。
「ヴォルグ侯爵!貴様が私腹を肥やすために横流ししたその武器で、私の領民が、私の部下が、何人死んだと思っている!貴様の贅沢は、我々辺境の民の、血と涙の上に成り立っていたのだぞ!」
父の咆哮が、大広間を震わせた。
それは、これまで『沈黙』を強いられてきた、辺境からの、痛烈な告発だった。
「貴様は、この国を内側から食い荒らす、裏切り者だ!断じて、許すことはできませぬ!」
傍聴席の貴族たちは、息を呑んで父の証言に聞き入っていた。
彼らの多くは、辺境で起こっていることなど、遠い世界の出来事だと思っていたに違いない。
だが、父の言葉は、その現実を生々しく、彼らの目の前に突きつけたのだ。
私は、父の背中を見つめながら、拳を強く握りしめた。
そうだ。私たちの戦いは、このためだったのだ。
声なき民の、声となるために。
理不尽に命を奪われた人々の、無念を晴らすために。
父の怒りは、私の怒りでもあった。
212
あなたにおすすめの小説
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜
鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アリシア・ルナミアは、幼い頃から「癒しの聖女」として育てられ、オルティア王国の王太子ヴァレンティンの婚約者でした。
しかし、王太子は平民出身の才女フィオナを「真の聖女」と勘違いし、アリシアを「偽りの聖女」「無能」と罵倒して公衆の面前で婚約破棄。
王命により、彼女は辺境の荒廃したルミナス領へ追放されてしまいます。
絶望の淵で、アリシアは静かに真実を思い出す。
彼女の本当の能力は「呪い解き」——呪いを吸い取り、無効化する最強の力だったのです。
誰も信じてくれなかったその力を、追放された土地で発揮し始めます。
荒廃した領地を次々と浄化し、領民から「本物の聖女」として慕われるようになるアリシア。
一方、王都ではフィオナの「癒し」が効かず、魔物被害が急増。
王太子ヴァレンティンは、ついに自分の誤りを悟り、土下座して助けを求めにやってきます。
しかし、アリシアは冷たく拒否。
「私はもう、あなたの聖女ではありません」
そんな中、隣国レイヴン帝国の冷徹皇太子シルヴァン・レイヴンが現れ、幼馴染としてアリシアを激しく溺愛。
「俺がお前を守る。永遠に離さない」
勘違い王子の土下座、偽聖女の末路、国民の暴動……
追放された聖女が逆転し、究極の溺愛を得る、痛快スカッと恋愛ファンタジー!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
婚約破棄追放された公爵令嬢、前世は浪速のおばちゃんやった。 ―やかましい?知らんがな!飴ちゃん配って正義を粉もんにした結果―
ふわふわ
恋愛
公爵令嬢にして聖女――
そう呼ばれていたステラ・ダンクルは、
「聖女の資格に欠ける」という曖昧な理由で婚約破棄、そして追放される。
さらに何者かに階段から突き落とされ、意識を失ったその瞬間――
彼女は思い出してしまった。
前世が、
こてこての浪速のおばちゃんだったことを。
「ステラ?
うちが?
えらいハイカラな名前やな!
クッキーは売っとらんへんで?」
目を覚ました公爵令嬢の中身は、
ずけずけ物言い、歯に衣着せぬマシンガントーク、
懐から飴ちゃんが無限に出てくる“やかましいおばちゃん”。
静かなざまぁ?
上品な復讐?
――そんなもん、性に合いません。
正義を振りかざす教会、
数字と規定で人を裁く偽聖女、
声の大きい「正しさ」に潰される現場。
ステラが選んだのは、
聖女に戻ることでも、正義を叫ぶことでもなく――
腹が減った人に、飯を出すこと。
粉もん焼いて、
飴ちゃん配って、
やかましく笑って。
正義が壊れ、
人がつながり、
気づけば「聖女」も「正義」も要らなくなっていた。
これは、
静かなざまぁができない浪速のおばちゃんが、
正義を粉もんにして焼き上げる物語。
最後に残るのは、
奇跡でも裁きでもなく――
「ほな、食べていき」の一言だけ。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる