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しおりを挟むティール辺境伯の魂の叫びは、法廷の中だけに留まらなかった。
瞬く間に、王都の隅々にまで知れ渡ったのだ。
広場の掲示板に張り出された裁判の経過報告を、多くの民衆が食い入るように見つめていた。
「おい、聞いたか?ヴォルグの奴ら、敵に武器を売り渡してたんだとよ」
「なんてこった。辺境の兵隊さんたちが、そのせいで大勢死んでたって話だ」
「ひでえ話だ!俺たちの税金で、あいつらは贅沢三昧して、その上、国を売ってたってのか!」
酒場に集まった人々は、口々にヴォルG家への怒りをぶちまけた。
これまで、大貴族の悪事など、噂話として消費するだけだった彼らが、明確な怒りを持って、ヴォルグ家を非難し始めたのだ。
「それに引き換え、ティール辺境伯様は立派な方だ」
「ああ。それに、そのお嬢様もな。たった一人で、あのでけえ悪事を暴いたんだとよ」
「婚約破棄された腹いせかと思ったが、とんでもねえ。国を思う、本物の貴族様だったんだな」
私、ローズ・ティールへの評価も、一夜にして変わっていた。
陰気で嫉妬深い悪役令嬢から、国を救った英雄へ。
その変化に、私は戸惑いを禁じ得なかった。
「ヴォルグ家を許すな!」
「ティール辺境伯、万歳!」
やがて、民衆の怒りは、行動となって現れた。
何百人という人々が、ヴォルグ侯爵家の壮麗な屋敷を取り囲み、怒りの声を上げ始めたのだ。
彼らは、石を投げ、門を叩き、ヴォルグ家の名を罵った。
それは、これまで虐げられてきた民衆による、初めての審判だった。
騎士団が駆けつけ、騒ぎを鎮圧したが、民衆の怒りの炎は、もはや誰にも消すことはできない。
この声は、必ずや、国王陛下の耳にも、そして裁判官たちの耳にも届くだろう。
ティール家の屋敷の窓から、その光景を眺めていた兄が、ぽつりと言った。
「民衆が、動いたな」
「ええ、お兄様」
「彼らの声が、ヴォル...グ家への、何よりの判決となるだろう。ローズ、お前の『沈黙』は、多くの人々の心に火をつけたんだ」
民衆の怒号を聞きながら、私は静かに目を閉じた。
私が望んだのは、こんな騒ぎではない。
ただ、法の正義が下されること、それだけだった。
だが、彼らの声が、この国の未来を、少しでも良い方向へ導いてくれるのなら。
それもまた、この戦いの、一つの結果なのかもしれないと思った。
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