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1 . 襲撃と討伐
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しおりを挟むドン!!!!
飛行機が堕ちたかのようなものすごい音の後、十数秒ぐらいしてから、キラキラと光るソレはボクのちょっと先に転がってきた。
ボクは二・三歩前に出てその光るモノを拾う。ソレは親指の先ぐらいの大きさで、虹のように色々な色を内側にとどめているみたいに見えた。すごくキレイ。ボクはソレから目が離せなくなってしまった。
「なんだソレ? ガラスの破片? ダイヤ?」
急に話しかけられ、ボクはビクッと肩を揺らす。ソレに見惚れるあまり、そばに親友がいたことを忘れてしまっていたようだ。手の中を覗きこまれてボクは咄嗟にソレを握りしめる。
「なんだよ。 取らないって!」
親友は気を悪くしたのか、ムッとした顔をして、もうボクのほうは見ずに遠くをしきりに気にしていた。
ソレを握りしめていると不思議と力が湧いてくる感じがする。温かい。
ボクはソレをお守りとしていつもポケットに入れて持ち歩くようになった。それから、ボクの調子はすごくいい。いつもは遠慮して言えないことがスラスラと言えたりする。
だんだんとソレと離れるのが不安になる。例えばお風呂がわりに水浴びをするときとか、着替えるときとか……ちょっとでも離したくない。
どうしたらいいか考えていたら、すごくイイことを思いついた!
コレを食べたらいいんだ!
コレを体の中に入れてしまえば、もう離れて心細くなることも、失くす心配もしなくていい。
ボク、天才かも!!
ソレを食べてからのボクは体の内側から力が湧いてくるようで、オドオドすることもなくなり、何にでも積極的になり、自分でもびっくりするほど明るくなれた。アレを食べたのは正しかったんだ。
やっぱりボクは天才だった!!!
*********
「はぁ はぁ はぁ はぁ」
(もう走るのを止めたい……)
少女は涙目になりながらも、懸命に走り続けていたが、心臓も足も精神的にも限界がきており、これ以上、走るのは難しくなっていた。
そうして、ついには足を止め、膝に手をついて肩で息をする。全身汗だくだった。
その時、後ろから腕を取られる。
「もう少し、がんばれ日奈! 川の向こうまで行こう!!」
日奈は少年の余韻を残す青年に腕ごと引かれて走りながら、うしろをふり返る。
遠くに腕をふり回しながら、建物を破壊している鬼が見えた。大きさは二階建ての建物と同じぐらい。口に何かを咥えているのが見えて、慌てて、前を向く。
腕を引いてくれている青年に尋ねる。
「……樹兄ちゃん、花音お姉ちゃんは?」
日奈が尋ねると、樹は痛みを我慢するように顔を歪め、
「喰われた」
ただ、一言、そう答えた。
日奈はそれ以上何も言えず、泣きながら走り続ける。もしも、足を止めれば、次は自分の番かもしれなかった。
水がゆうゆうと流れる川にかかった橋を渡り、またしばらく走り林の中に紛れ込む。そこで日奈と樹はようやく、足を止めた。その日奈のもとに軽くウェーブのかかった髪の少女が走りよる。
「日奈!」
「麗那!」
2人はお互いの無事を確かめ合うように強く抱きしめあった。
「花音お姉ちゃんが……お姉ちゃんが……」
「……!!」
麗那はサッと、そばにいる樹を見る。樹は唇を噛み、険しい顔をし、下を向いたまま首をふった。それを見た麗那は顔を歪め、いよいよきつく日奈を抱きしめる。しばらくの間、3人は嗚咽をもらし、頬をぬらしていた。
人類の天敵、鬼があらわれてから、声を上げて泣くことさえ憚られていた。大声を上げて、鬼を呼びよせないようにと。
「どうだった?」
「ここに避難して来てるのは26人。海沿いの中町に行くって人もいるし、ここに残る人もいるみたいだな。」
そう言って、樹は日奈と麗那のむかい側に腰を下ろした。ここは町にある消防団の詰所。鬼に襲われたとき用の避難所のうちのひとつだ。
樹は日奈と麗那に寄合で配られたおにぎりを渡してから、話を続ける。
「今回、出た鬼は二人、しかも一人は町の中でどこからか突然、湧いて出た。そいつが建物をかなり壊しやがったから、もう小河内地区は住めないと思う。なかには明日にでも確認しに行くって人達もいたけど……外から来たんじゃなくて、中から湧いて出たのがいると……、あそこを住処にする可能性が高いからな……」
樹は深く息をはいてから、おにぎりを頬張る。食事はあるときに食べておかないと、いつ食べられるか分からないからだ。米粒一つ無駄にはしたくなかった。
「せっかく、野菜が育ってきてたのにね……お米も……」
麗那が手元のおにぎりを見つめたまま呟いた。
「ああ、そうだな。明日、様子を見に行くって人たちは、せっかく、あそこまで稲の育った田を手放したくないんだろ。あと、1ヶ月もすれば稲刈りだしな……それは分かるんだけどさ……」
三人ともが暗く落ち込んだまま、少ない食事をすませる。
日奈は朝食の前に鬼の襲撃に遭い、それから何も食べておらず、もう陽が暮れる時間になっていた。
それでも、何も食べる気はしなかったが、食べないと酷く怒られるので、なんとか頑張って食べてしまう。無理矢理、口に押し込んだおにぎりは砂を噛むようで、お腹が空いているはずなのに、ちっとも美味しいとは思えなかった。
日奈たちのいる避難所は、避難所といっても、少しの食糧とブランケットやホータイ、ガーゼ等のわずかな医療品しか置いておらず、中で人が寝れるようなスペースはほとんどない。
そのため、避難して来た人たちは中には入りきらず、外で野宿する人も多い。避難所の側では蚊取り線香が焚かれており、避難して来た人たちは二・三人づつに分かれて、煙のとどく範囲で横になっていた。
樹、日奈、麗那も配布されたブランケット一枚を三人にかけ、横になる。
日奈は横になり、ずいぶんと時間がたっても、眠気はいっこうに訪れる気配はなかった。どこを見るともなく、木々の間から星の瞬く夜空を眺める。
(電気がないからこんなに星空が綺麗なんだよね…… これから、どうなるんだろう…… 生きてて、どうするの?でも、痛いのも死ぬのも嫌だ。鬼に食べられるのはもっとイヤ!!)
星ふるような夜空を見ても、ちっとも嬉しくない。地球に流星群がふりそそいだ5年前、あの日以前はこんなに綺麗な星空を見たら、大喜びしていたのに、今では忌々しくもある。それはこの満天の星空が失われた物、永遠に別れた人たちの象徴のような気がするからだ。
電気は流星群の被弾をまぬがれ、鬼の襲撃に遭遇していないところにはあったが、たいていは小規模な太陽光発電ばかり、つまり、住宅に整備されている物ばかりで、工場や病院などを動かす規模の発電所は残っておらず、以前は消耗品と言われた物は、今では貴重品として扱われていた。
(これからどうする…… もう姉ちゃんもいない。姉ちゃんはこれから幸せになるはずだったのに……)
樹は数日前
「私、結婚しようと思うの。翔さんのこと、どう思う?」
と、はにかみながら相談して来た姉のことを思った。
姉が翔さんのことを好きなのは知っていたし、元ラガーマンだと言う翔さんは身長が高く、がっちりと全身に筋肉もついており、いかにも頼れそうな人だった。
いつ鬼の襲撃があるか、常に不安と隣りあわせの今、見るからに頼もしそうな人はそれだけで安心感を与えてくれる。
それに、翔さんはスポーツマンらしく、気持ちの良いさっぱりとした性格の人で、姉を任せるのに、最適だと思っていた。姉にベタ惚れなのも見てて丸分かりだったし、反対する要素なんてどこにもなかった。
こらえようとしても、涙は溢れ、頬を濡らす。せめて、隣で横になっている日奈に気付かれないようにと、唇を噛みしめる。
(日奈と麗那、どうやったら守れる? ……父さん、母さん、姉ちゃん…… どうしたらいい?)
樹も眠れないまま夜が過ぎていく。
(私たち、みんな独りづつになってしまったわ。もう、これ以上、誰も喪いたくない。安全な場所がどこかにあったら……そこで、樹さんと日奈と一緒に暮らせたらいいのに……)
麗那は軽く現実逃避しながら目をとじる。それでも、尊敬していた花音の死と、間近で見た鬼の襲撃の衝撃で、精神は休まらない。隣に感じる日奈の温もりがなければ、叫び出しそうな気もしていた。
誰もが心身ともに疲弊し、これから先を憂いていた。
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