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神の訓練Ⅴ

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「結論から言うと、坊主は出せないと思っているだろ?」

「いやだって出せないでしょ」

「それが駄目だ。普段から出せないと思っていたら、一生出せないぞ? ユニークスキルと言うか、能力の覚醒は大きな目標や願望などが出来た時に、絶対に達成したいという想いが応えてくれて突然使えるようになるもんなんだ。絶対に達成したいと思っている時に、自分が出せないモノを無意識に除外していたら、一生出てこないだろ?」

「――確かに」

「深く考えすぎなんだよ坊主は。ガープもそうだっただろ? だから能力が覚醒した状態で坊主に知性・記憶の略奪と献上メーティスが渡ったんだ。そうだろ?」

「ガープは俺に目標を託したからな」

「そうだ。記憶も継承されていなければ、坊主はアードルハイム皇帝を必ず倒すという強い意志は生まれてなかった筈だ。あの時の坊主は完璧だったからな。ガープの死がなければ、アードルハイム皇帝を殺し損ねていた可能性があった」

「まあ――そうかもな」

「だから日頃から出す意識をしろ。そうだな――水を出すとか手軽でいいんじゃないか?」

「分かったよ。やってみる」

 俺がそう返すとブラフマーは満足気な笑みを浮かべていた。

「じゃあそろそろ行ってこい」

「ああ。色々ありがとうな。インドラも今度はゆっくり喋ろうな」

「俺は餓鬼と喋る気は無い」

「本当は喋りたい。と、言うか戦いたいらしいです」

 メーティスがそう補足すると、インドラは「うるせえ優等生!」と怒号散らしていた。褒めているのかけなしているのか分からん。暴言は吐きたくないから、インドラなりの最大限の暴言なんだろう。そして逆上するって事は喋りたいって事か。マジのツンデレなんだな。

「今度来るときはお茶でもしようぜ!」

「メーティスが淹れる茶は絶品だ。是非味わってくれ」

「ナリユキ君の為に愛を込めます」

 そうメーティスは笑みを浮かべていた。愛――どんな形の愛か知らんがここは触れんでおこう。ポーカーフェイス、ポーカーフェイス。

「じゃあな!」

 ブラフマーは笑みを浮かべ、メーティスは小さく手を振ってくれた。インドラはふんと鼻を鳴らして背を向けた。その瞬間俺は現実に戻った。

「どうだったかな?」

「お陰様で会えたよ。それにどんな能力を使えるかも」

「そうか。それなら良かった」

「ありがとう。随分と待たせたんじゃないか?」

「全くだよ。一秒足らずだからね。例え、それに私は1時間だろうが、24時間だろうが、8,760時間だろうが876,000時間だろうが大して長い時間では無いのだよ。世界始まってから終わるまでの時間は、私の瞬き一回分と等しい程尊いものなのだよ」

「――スケールが大きすぎて意味分からん。8,760時間で1年、876,000時間で100年だろ?」

「君達が来た世界と違って私を含めた様々な種族は500年、1,000年と生きている。君とこう言った話をするのもほんの一瞬の出来事だ。だからこそ尊いものなのだよ」

「成程――それは維持神ヴィシュヌの特性か何か?」

「そんなところだね。既知の通り、私は長きに渡る神々の戦争を終わらせるためにゼウス、アルカナ、アースを維持神ヴィシュヌのユニークスキルで鎮める事が出来た。これにより、神々の能力をスキルと云う呼び名に変更したんだ。ちょうどこれが15,000年くらい前の話だったかな。しかしながら、君と出会うまでは一瞬の出来事だったよ」

「――信じられねえ」

「だろうね。人間の寿命は短いから」

 ミロクはそう言って笑みを浮かべていたが一つ疑問が浮かび上がった。

「待て待て。冷静に考えたら森妖精エルフのアンタがどうやって維持神ヴィシュヌを手に入れたんだ?」

「私は維持神ヴィシュヌの生まれ変わりなんだよ。もっと簡単に言うと二人目の維持神ヴィシュヌだ。」

「ちょっと待って、意味が分からなくなってきた」

 こんなに頭がこんがらがるのはいつぶりだろう。

「つまり、ヴィシュヌ自身って事でいいのか!?」

「そう云う事」

「神じゃん――」

「だからそう言っているじゃないか。一方的に敵対視されているようだけど、私は君達と争う気はないんだ」

「ヴィシュヌって呼ばなくてもいいのか?」

「まあ、私の名前はミロクだからね」

「ややこしいな本当に――」

 俺がそう言うとミロクは「無理も無いさ」と笑みを零していた。

「確かに閣下とは価値観が違うかもしれない。それで閣下が私に敵対心を抱く気持ちは分かる。しかし私の使命は全世界の平和の維持だ。私の維持の力と君の創造の力があれば、私が生み出してしまった怪物を倒せる」

 怪物とは――コヴィー・S・ウィズダムの事だ。

 確かに創世ジェスがやっている事を許したわけでは無い。だからと言って一番危険なコヴィー・S・ウィズダムを放っておく訳にはいかない。何を優先すべきか何て小学生でも分かる。

「分かった。ただし協力するには条件が一つだけある」

「何かな?」

「今すぐ実験を止めろ」

 俺がそう言うとミロクは首を横に振った。

「駄目だ。あの実験もコヴィー・S・ウィズダムを倒す為に必要な戦力増強でもあるんだ」

「ヴィシュヌならそんな事をしなくても平気だろ?」

「君は奈落神タルタロスの恐ろしさを知らないから言えるんだ。だから約束しよう。コヴィー・S・ウィズダムさえ倒せば実験を止めると」

 ミロクはそう言って小指を出してきた。意図が分からない。

「不思議な顔をするな。君達の世界で指切りげんまんと言うのだろう?」

「――分かったよ。約束破ったら針千本飲ますからな」

「分かってるよ」

 こうしてミロクと指切りげんまんをして指を切った。同時に俺はミロクから奈落神タルタロスがどんな神でだったかを知る事になった。



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