追い出された妹の幸せ

瀬織董李

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8.声が聞こえた

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 若干歪んではいるものの、籠を完成させたエルヴィは、目についた薬草や果物を無造作に籠へ次々と入れていく。籠は売り物ではない為出来よりスピードで作ったのだが、十分実用に耐えられる出来だ。

 流石に領都で宿泊した事は無いので料金は把握していないが、食事は何度もしている。物価の目安は大体付いている。

 エルヴィは薬草採取をしながら、先程のテオドルとのやり取りを思いだし、ダールグレン領へ向かおうと決めた。幸いというか、ポーション作りは得意だ。

 基本のポーションの作り方は差程難しいものではない。回復力の強い薬草を刻んで純水に入れ、回復の魔法をかけながら煮出すのだ。ただ、薬草の量や水の純度、そして回復魔法の練度によってポーションの出来に差が出る。エルヴィの作るポーションは、非常に出来が良いと卸していた領都の薬屋では評判だった。

 エルヴィは幼い頃、ハンナマリばかりを可愛がる両親に少しでも認めて貰いたくて、初級魔法しか使えなくても出来る事を模索した事がある。ポーション作りはその一つだ。

 残念ながら何をやっても端から誉める気の無いテオドルには『下らないことをするな』と叱られてしまっただけに終わったが、思いの外エルヴィの性に合っていた様で、お陰で随分と家計の役に立ってくれた。今行っている一見無造作に見える薬草の採取も、実は鑑定魔法を使いながら摘んでいる。

 ダールグレンならきっとこれまでのポーション作りの経験が活かせるだろう。

 そんなことをつらつらと考えていると、何処か遠くで人の声が聞こえた様な気がした。本来この森はマルククセラ家の敷地である為、領民がやって来る事はない。居るとしたら密猟か窃取目的の者だろう。

 ただ、森の奥には今でも魔獣が居る筈なのだ。下手に刺激してスタンピードでも起こされたらたまったものではない。マルククセラの屋敷がこの地にあるのは何も領都を見下ろせるからだけではないのだ。

 これまで人が立ち入ることの無いように、時折エルヴィが脅しの幻影魔法を仕掛けておいたが、森全てをカバーしている訳ではない。

 そっと気を付けながら、声がした方へと歩いていく。すると人の声だけでなく、獣の叫び声も聞こえる。

「……これはワイルドボアの鳴き声?」
 
 ワイルドボアは魔獣ではないが、獣の中では対処が割と面倒な生き物だ。普段は夜行性なので出会うことは少ないが、まったく居ないという訳ではない。何度かニアミスをし、ヒヤリとした経験がある。何せ巨体で突進してくるのだ。誰か遭遇して追いかけられているのだろうか?

 そう思いつつ近づくと、今度はハッキリと声が聞こえた。

「くっ……来るなあぁっ‼ 来るなよおぉぉ‼」

「……子供の声?」

 僅かに高い声は女性というより子供の声に聞こえる。何故子供がこんなところに?とは思ったが、襲われているのなら大変だ。特にこんな高い声で叫ばれては余計にボアを興奮せるだけだ。慌てて下草を掻き分けながら駆け寄ると、少し開けた場所に出た。
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