雄っぱいミルクで社畜のリーマンは、3児のママになる。

しゅうじつ

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第1章 こういうわけで俺は3児のママになった編

第2話 全ての元凶、世界で一番憎い男

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 ある日突然、乳首から母乳がでるようになった。

原因は分からない、死ぬほど困惑した。
揉んでみるとムニムニとした感触にも死ぬほど困惑したし、男から母乳が出るなんて、プライドはズタボロだ。
男としての尊厳が失われた日である。

そしてカノジョにも速攻気づかれ、それが別れの原因となった。


「うっわ~……あんたがあの超イケメンでエリートの成宮さんと付き合ってたから今まで付き合ってきたけど……流石にもう無理だわ」


そんなことを吐き捨てて、アッサリと俺の元を去った。
別にそんなに落ち込みはしなかったのは元々冷めた関係だったのと俺の性格でもあるだろう。
成宮というのは俺の元カレだ。
優秀で顔もイケメンだから女性社員達の人気は高い。すごく高い。圧倒的に。

なんでそんな奴が俺と付き合おうと思ったのかは今でもよく分からないが、成宮がスマホの待受かなんかを俺の写真にしていたみたいで、そこから成宮を突き詰めて彼女は知ったらしい。

徹底的に隠し通した成果で、おそらく俺たちの関係を知るものは彼女ひとりだけだと思われる。会社内での恋愛はバレたら面倒で、しかも相手が成宮となるとトラブルに発展しかねないのだ。


 乳首からミルクが出て、カノジョには振られた、なんてことは序章に過ぎない。
話はここからだ。

いつものように仕事でクタクタになって帰宅しようと会社を出ると、ある1人の男が俺を待ち伏せていた。

スラッとした俺より年下のイケメンだ。
会社の者では無い、初めて見る顔だ。


「やっと姿を見せましたねおっぱい星人」


「おっぱ……!?」


そこから強引に腕を引かれあの恐ろしい空間へと連れていかれたのだ。
それを成宮が目撃していたことは後に知ることになる。



「母体増加促進計画」


それが彼らのいう計画だった。
なんとおぞましい計画だろうか。

政府が秘密裏に遂行していたもので、未婚既婚関係なく、男女性別関係なく、母体を生産するというものだった。
なんかよく分からんが少子化対策だのなんだの。

20年ほど前から計画されていたそうで、丁度その年くらいに生まれる予定の、俺たちの体の中にヘンなDNAが埋め込まれた。

そのDNAを埋め込まれた実験体は、長い年月が経つと子どもを育てるのに適した体と作り替えられていく。

その変化のひとつが母乳だ。

そして、その母体へと変化した人間は「子どもを育てる」のが義務であると言う。

ふざけるな。
勿論抗議した。
俺が育児なんてゴメンだ。

時間も自分自身も束縛される。

それが嫌だから俺は結婚はしないし、一生未婚でいるつもりだった。
1人で気楽に自由な生活を過ごしたいのに。
だから成宮とだって……


必死で抗議を試みたが、俺の事を「おっぱい星人」と言った野郎は聞く耳を持たなかった。
ぽけーっとした顔で聞き流していた。ムカつく。
しかし、彼女は違った。
彼の隣にいた胸のでかいセクシーなお姉さんは、俺のこの状況に対して少し同情しているような態度を見せたのだ。
チャンスだと思った。
だから、俺のビジネスで積み上げてきた「交渉術」をふんだんに使えば、上手くこの義務から逃れることができるはずだった。


「ちょっと電話でてきますね」


この言葉を言われるまでは。
そう言って彼女は一瞬、ほんの少し席を立った。
今思えばこの時点で俺の敗北は決定していた。


なぜなら「おっぱい星人」と呼んだやつと2人きり、この部屋に取り残されたからだ。
奴は唯一のストッパーである「上司の目」から解放されるやいなや、強硬手段に講じた。

ドアがしまった途端、
俺の口が奴の手で押えられてしまう。

んぐうううぅ、んむううう!!!

と唸る傍らで彼は

「今なんとおっしゃいましたー?」

「えぇっ!?同意していただけるー?」

「うわあありがとうございます、物分りのいい方で助かりましたー」

そう言って必死に抵抗する俺の指を掴み、インクをちょんちょんと付けると書類にベタっと指紋を貼り付けた。

こいつ、やりやがった。
もういっそ清々しいほどの強引さに殺意を覚える。
殺してやる。
俺も一応社会人であり、書類上の拇印やらなんやらの重大性は身に染みて理解している。
この書類で俺の運命は決定してしまったのだ。
こいつ、爪を1枚1枚剥ぎ取ってから末代まで祟ってやる。


やがて「おまたせ~」と戻ってきた上司に説明する間も彼は背中で隠しながら俺にナイフを突き立てていた。
「喋ったら殺す」とでもいうように。
さっき人の同意なしに拇印をつけさせた奴だ、こいつはただの脅しではなく喋ったらほんとにナイスで俺を刺すつもりなのだ。
今度は俺の運命ではなく、命を握られている。


ナイフで脅された俺は「おっぱい星人」と言ったやつを睨みつけながら
ことの収集が終わるのをただ黙って待つことしか出来なかった。


殺す…あいつ絶対殺してやる…俺の手で!



□□□



「殺す、殺す、死んでも殺す…」


「えっ先輩…?」


怯えた顔をして、隣の席でパソコンに向かっていた、後輩の上村が俺を見てくる。
上村だけじゃない、周囲にいた社員たちがチラチラとこちらを気にしているようだった。
いけないいけない、恨みのあまり声に出ちまってたか。


「まあ、でも殺したくもなりますよねえ…部長、俺たちの間でもかなり評判悪いっす」


部長?ああ、今朝のことか。
どうやら俺が部長に寄越された残業のことでブツブツ言っているのだろうと、勝手に解釈してくれた。


「いっぺんガツンと言ってやってくださいよ~オレたちも部長の無茶ぶりにはだいぶめいってて~」


そう言って俺の脇腹をツンツンとつついてきた刹那……


「い゛ッッ痛でぇぇぇえええ!!!!!!」


椅子から転げ落ち、床の上でのたうち回る。


「っっえっ!?えっ??せんぱいっ!?」


アイツに刺された痛みで奇声を上げながら悶え続けた。

クソ「おっぱい星人」め!

あいつ結局刺しやがったのだ。

嘘にまみれた成り行きを、セクシーな上司に説明している間、ふと下を見た時に気づいたのだ。俺の足元に潜んでいたデッカイ虫の存在を。ぎゃあっと悲鳴を上げながら俺に抱きついてきて、

その拍子に俺の脇腹にブスッと。


「あ…」


なにが「あ…」だふざけんな!
ぶっ殺す、絶対殺す…!


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す」


「ひゃあぁあ先輩許してください!すみませんんん!!!」


上村が許しを乞うように俺を揺さぶる。
その時に彼の腕が胸に触れる。


「………っ!?!?うわあああああああ!!」


異常な程に敏感になっているそこに、恥ずかしさで過剰に反応してしまう。
胸に変化がおとずれてから、俺の胸はとても敏感になってしまっていた。


「ひぃぃぃ!!?今度はなんですかぁ!!?もうせんぱいどうしちゃったんですかああ」


上村がうわんうわんと慌てふためく。


俺は痛さと恥ずかしさで気づかなかった。
後輩があらぬ誤解をして俺に土下座して謝罪をしていることに。


俺は気づかなかった。
痛がる俺と、それに懸命に謝罪し続ける上村の様子を、遠くからずっと見ていた成宮の存在に。
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