雄っぱいミルクで社畜のリーマンは、3児のママになる。

しゅうじつ

文字の大きさ
8 / 11
第1章 こういうわけで俺は3児のママになった編

第7話 少しの恐ろしい変化に俺は気づかない

しおりを挟む


 「あぁもう、なんで泣き止まないんだ」


今朝。
フライパンで卵焼きをひっくり返しながら、赤ん坊をあやす。


「どぅおんどぅおん!!」

「ああこら!いい加減ハシ返せ!」


走り回りながら箸を振り回す。
卵焼きを作っている最中にさえばしを奪われてしまったのだ。
取り返す時間も惜しいので、お椀ごと卵をジャアーと流し込んでは何とかフライパンでクルクルとしてみせる。
これじゃオムレツじゃないか。

早朝は赤ん坊のデカい泣き声で目が覚めた。
まだ5時だった。
クッソ眠いなか無理やり体を起こして
瞼は閉じたままあやしはじめた。  


「泣き止め~たのむから」


それが今日の一日の始まりだ。
そして、現在に至る。

しかし一向に泣き止む気配がない。
それにそんなに近くでわんわん泣きわめかれると…


「耳が壊れる…」


…しかしこんなに泣き止まないのもおかしい。

今までだったら抱っこしてポンポンして、母乳を与えれば大抵泣き止んだのに。

どうしてだ?

こいつは鼓膜クラッシャーだな


「朝メシできたぞー」


大声で2人を呼びながら、フライパンごとテーブルに持っていく。

俺が食器を使っていると、3歳のやつがうるさいので、もう俺もフライパンから食べることにした。
2人が席に着いたら食べ始めようと、
その間に植物に水をやったり靴下を履いたりして
時間をつぶす。


「……おい、できたぞ?」


なんで来ないんだ?
俺の声は届いているはずだ。
だが、こっちへ来る様子はない。


3歳のガキはぎゃはぎゃはと笑いながら走り回りそこら中の物を投げたり倒したりしている。


「おい、お前は家庭崩壊でもさせるつもりか!いいからここ座れ!食うぞ」


ツッテケテーとこっちへやってきたと思ったら、卵焼きを空中へぶん投げた。


「なんかーきったねぇ~」


「おいっ食い物は……!」


発狂しながら手当り次第の物を掴んで部屋を散らかす家庭崩壊ヤロウを目で追っては、一つの疑念が浮かぶ。

昨日までと何かが違うような気がする。
これ、なんか異常じゃないか…?
元気な子どもというより…

凶暴化してるような…?


「まあいい、おいそこのおまえ。こっち来て朝食食べにこい」


そう言って7歳のガキに手招きする。
しかし、動こうとしない。


来ないつもり…か?


今までそんなことはなかった。
こいつは声は出さないが、俺の言うことはちゃんと聞いていた。
声を出すこと以外だったら。
昨日だって俺の言う通りに従って朝みそ汁を飲んでいた。

なのに、どうして…


何が起きてるんだ…?


「わっなんだコレ。かっけ」


「あっおい返せ!それは俺が15年間大事にしてきた戦隊モノフィギュアの…」


ボキッ



「んがあぁぁあああああ!!!!」



ドンドン



「おいうっせぇぞ!!!!」



隣の部屋の田中さんだ。

  




「…すみません」





□□□□□




「せんぱ~い、また遅刻ッスか~?」



部長に謝罪を済ませた後、自分の席へ戻った俺に村上が話しかける。



「うわっ!!?てかクマやばいっすよ!寝てないんすか?」



「ああ、泣き声がうるさくてな…」



昨日の片付けが終わったのが午前3時。
それから寝て、泣き声で目が覚めたのが午前5時。
圧倒的寝不足だ。



「鳴き声っ!?せんぱいっ夜な夜な何やってんすか……!?」



なぜか顔を赤くして両手で口をおさえる上村。
何もおかしくないだろ。


あ~眠過ぎて頭が回らん。


うわぁ~と、上村は首を上下に動かしながら俺の体をじっくり観察する。



「そ、そのキズアトどうしたん、スか…?」



「噛みつかれた」 



家庭崩壊ヤロウからフィギュアを取り返そうとしたらガブッと。



「噛み!?こんな丸見えの所に!!?」



「丸見えのところだからするんだろ」



噛みつきやすいし。



「えぇっ!?せんぱいそういうプレイがお好みで……??!…その人、アグレッシブな方なんですねぇ…」



攻撃的?



「間違いない」



「この傷跡は…?」



「ひっかかれた」



昨日家庭崩壊ヤロウから強引に皿を取り上げた時に。



「ひっかかれた!?もう先輩!ちょっとは隠してくださいよ!!」



手で目を覆って、そのすき間から俺のことをチラチラと見てくる。



「悪い、気にしてなくて」



「せんぱい非常識すぎますよぉっ!!もう少しは成宮先輩を見習ってくださ…」




「きゃぁぁぁああぁ!!!」




甲高い女性たちの声が鼓膜に響く。

俺いつかほんとに鼓膜破れるんじゃないか…?




「噂をすれば…成宮先輩、またうちのオフィスの女子たちに囲まれてますよ」




声の方向を見ると、うちの上司とやり取りをしている成宮の姿があった。
いつも通り、にこやかな笑顔で爽やかな雰囲気をかもし出している。
今日も相変わらずイケメンだ。
その周りには頬を赤らめて成宮に話しかけんとする女性社員たちが待機している。


少し雑談出来たら○
連絡先を交換出来たら◎
今日のランチに誘えたらハナマル

川崎さんたち女性陣はそう言っていた。



「そういや、成宮先輩。今日なんか元気なくないっすか?ちょっと覇気がないというか…」



「そうか?」



気づかなかった。



「せんぱいにも話しかけてこないし、見向きもしないっスよ」



「あ~…」



俺に懲り懲りしたんだろう。
やっと成宮も理解してくれたのかもしれない。
重荷から解放されたように、肩が軽く感じた。



「よぉ~~っとわーったーなべっ」 



後ろからどしんと重くのしかかってくる。



「竹内…重い」



同期の竹内。
同じオフィスで働いていることもあって
たまに俺に話しかけてくる。



「うおっ!どしたそのクマ!?お前もかよ!?」



「お前もって?」



「成宮もさっき会ったらクマやばくてさぁ!!何かあったか聞いたんだけど、なにもないって」



「へー。そうなのか」



「なっ成宮先輩も昨日彼女と……」

  

上村が1人ブツブツ何かを呟いていた。



「まあお前も成宮もしっかりおカラダご自愛しろよ~?んでお前っ、今週の金曜同期飲み会行くっ!?」


「今週の金曜?」


「そっ!成宮も川崎さんもお前以外は全員来るってよ」


「やめとくわ」


「えっなんで!!?」



昨日あんなことがあったばっかりだ。
流石にまた子ども3人を夜遅くまで放置しておく気にはなれない。
それにまたマンションの住居人達に迷惑かけたら、最悪マンションから追い出されてしまう…
それに成宮との件もある



「おまっ珍しいな~今まで同期飲み会欠席したこと無かったのに」


上村が意味あり~げな視線を送ってくる。


「せんぱいは、家に待ってる人がいるんですもんね~…?」



「そうだな、あいつらをほっといたらまたどんな目にあうか…」



「また!?えっじゃあこのキズアトは罰…?お仕置プレイ?
てか複数っ!?複数いるんですかせんぱいっ!!?」



「3人」



「うおっ…おまえやるな…」



じゃあ、とそう言って竹内は引き気味に、自分の仕事場へ戻っていった。



その時


チャランポラン♪


着信がなった。


見慣れない番号だったが、出てみると
7歳のガキの通っている小学校からだった。
突然何の用だ。


「えっ今から…ですか!!?」



つい声を張り上げてしまったせいで、オフィス中から注目を浴びてしまう。
しまった、と直ぐに声の音量を小さくする。


「困りますよ…私いま仕事中で……」


ブチッ


切りやがった。
今すぐ小学校へ来て欲しいという要求だけおしつけて。

バックれたら…いや、よそう。


はぁ、こうなったら速攻で行って速攻で帰ってきて仕事に戻るしかない。



「ちょ、先輩どこ行くんスかっ!?」



急いでコートを羽織って身支度を整える俺に村上がビックリする。
ゆっくり話す時間が惜しい。
早足で外へ向かいながら、後ろにいる村上に大声で告げる。


「小学校っ!!!部長にはすぐ戻ると伝えといてくれ!」


「えっ?はっ!?しょうがっ……!?」


村上が大声で何か言ってるような気がするが、今はそれどころじゃない。
  

あー帰ってきたら部長に死ぬほど怒られる…
子どもがいるなんて言えないしな


先生の言ってた小学校ってどこにあるんだ?
今すぐスマホで調べねえと…
電車で行くか
うわっ750円もすんのかよ
あいつこんな遠い所まで徒歩で行ってんのか?

てか呼び出しって。なんかしたのか?
俺また怒られてしまうのだろうか

…最近こんなんばっかだな

色んな人に怒られてばかりだ
部長にも、マンションの住居人にも…

はあぁ、嫌になる……



なんで俺こんな目に…
そうだ、全ては「おっぱい星人」がガキ3人を


くそ。
なんでこんな目に。
急に子ども育てろなんて、ふざけすぎだろ。
無理だって。


ふらっ、と足元がよろける。


もう限界だし。
働くだけでもいっぱいいっぱいなのに。
なんで仕事ほっぽいて小学校になんて行かなきゃならないんだよ。

部長怖いんだぞ!!


てか呼び出しくらったけどあいつも待ってたりするのか?
会ったところで…
気まずいだけだ。

話しかけても、何も返してこないし。
結局、朝食たべなかったな
家庭崩壊ヤロウも
もう俺の手に負えない感じだった
俺たちは他人同士で
会った時から何も距離は縮まっちゃいない
懐かれてもいないし言うことも聞いてくれない

保護者ヅラして行けるのかよ…


…俺があいつらとちゃんと向き合ってなかったからだろうか



だって、そもそも俺母親じゃないし、血繋がってないし、男で働いたことしかないのに
 

今朝の光景が目に浮かぶ。
部屋はメチャクチャにされ、
俺の言うことを聞くやつは誰もいない。


お手上げだ
どうしようもない
俺ムリだって子育てなんて…


これから俺ずっと
こんな辛いの一人で背負わなくちゃいけないのか?



この先も一人で?




「……渡辺っ!」



後ろから誰かががしっと腕を掴んだ。
強制的に足が止められてしまう。
もう時間が無いんだって…



「上村、悪いけど……って、成宮?」



なんでこんなところに。
結構遠くにいたはずだろ。



「なに?」



えっ、とその言葉にビクッと固まる成宮。




「あっあの、えっと」




あたふたと言葉をつもらせる成宮。
引き止めたものの、うまく言葉がでないようだ。
時間が迫っている俺にとって
そのほんの少しがとても長く感じた。



「急いでるから」




「待……っっ!!」




ロスタイムを取り戻すように
更に足をはやめながら、オフィスから出た。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

記憶喪失のふりをしたら後輩が恋人を名乗り出た

キトー
BL
【BLです】 「俺と秋さんは恋人同士です!」「そうなの!?」  無気力でめんどくさがり屋な大学生、露田秋は交通事故に遭い一時的に記憶喪失になったがすぐに記憶を取り戻す。  そんな最中、大学の後輩である天杉夏から見舞いに来ると連絡があり、秋はほんの悪戯心で夏に記憶喪失のふりを続けたら、突然夏が手を握り「俺と秋さんは恋人同士です」と言ってきた。  もちろんそんな事実は無く、何の冗談だと啞然としている間にあれよあれよと話が進められてしまう。  記憶喪失が嘘だと明かすタイミングを逃してしまった秋は、流れ流され夏と同棲まで始めてしまうが案外夏との恋人生活は居心地が良い。  一方では、夏も秋を騙している罪悪感を抱えて悩むものの、一度手に入れた大切な人を手放す気はなくてあの手この手で秋を甘やかす。  あまり深く考えずにまぁ良いかと騙され続ける受けと、騙している事に罪悪感を持ちながらも必死に受けを繋ぎ止めようとする攻めのコメディ寄りの話です。 【主人公にだけ甘い後輩✕無気力な流され大学生】  反応いただけるととても喜びます!誤字報告もありがたいです。  ノベルアップ+、小説家になろうにも掲載中。

処理中です...