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プロローグ
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高幡輝が15の時に突然、妹が出来た。名は沙樹。
地元一の呉服店を営む家に産まれた輝は上にふたり、兄貴がいる。ひとりは高校三年生。ひとりは大学四年生。
そしてこの妹、まだ5歳。
◇◇◇◇◇
「私は知りません!世話なんかしません!」
そう一階の両親の部屋から響く声。母親の声だった。いつも厳しい母親は、毎日ピリピリと機嫌が悪かった。
「なんだろ……」
兄貴たちと顔を見合わせる。
長兄の糾が両親の部屋へと向かった。
「おふくろ。何ごぉぉぉ……っ?」
そう声をかけて言葉に詰まった。両親の部屋には珍しく父親がいて、その傍らに小さな女の子がいたのだ。
「なに、これ」
糾が両親に聞くと父親がぱぁと顔を明るくした。
「糾!いいところに」
女の子に向かって「お前の兄さんだよ」と言った。
「はぁ~!?」
糾の声が広い家中に響いた。
その声を聞いて次兄の柊と共に両親の部屋へと向かった。
状況が理解出来ないふたりも話を聞いて糾と同じように大声を出した。
「どういうことだよ!」
「意味わかんねぇ!」
「親父。大人としてやっちゃいけねぇことしてんだぞ!」
糾が一番怒ってる。母親はもう話にならないと、別の部屋に行ってしまった。
「親父が帰ってこないのは他に女がいるんだなとは思ってたさ!けど、これはまずいよな」
長兄にそう言われ、次男と三男にも冷たい目を向けられる。
ここらへんの住人は、知っている。この兄弟の父親は昔から女遊びが酷いことを。子供たちもそれを分かってて、放っておいた。
仕事をしに昼間は戻ってくる。お金もちゃんと入れる。だから放っておいたのがまずかった。
父親が他に家庭を持ち子供までいた。さすがにその事実に妻である由紀子は激怒していた。輝たちは驚愕していた。
「親父。俺たち今、大事な時期!」
高幡家の兄弟は、今年大事な年だった。
輝は高校受験。柊は大学受験。糾は就職活動…と、大事な年なのだ。その年にこんな面倒を起こしてくれた父に呆れ顔。
「仕方ないじゃないか。沙樹の母親が病気で亡くなってしまって……。親戚も引き取ることはしないって宣言しちゃってて……。このままじゃ施設行きだ」
父の傍らにいる沙樹は父の影から輝たちを見ている。
「お前たちからも母さんに言ってくれよ」
父親の情けない姿を見るのはもう何度目だろう。
輝の幼い頃からそうだったから、慣れてしまってる。だが、子供を作ったことに呆れ果ててる。
「知らないよ。俺、これから塾」
そう言って輝は塾の教材が詰まった鞄を持ち出す。
「柊」
「俺も予備校」
柊も同じように鞄を持ち出した。
「糾」
「課題やらないと」
糾は自分の部屋に逃げていく。
そんな三兄弟を見て父はがっくりとしていた。
◇◇◇◇◇
塾に行っても授業が全然耳に入ってこない状態に、輝は苛立った。
(どうしてくれんだよ……)
黒板を睨みながら、家にいる父親に対する怒りを手元にあるノートや消しゴムにぶつけていた。
「高幡!」
塾が終わり帰ろうと教材をカバンに詰めていた時、斜め後ろに座っていた女子が呆れて輝を見ていた。
「なんだよ」
「今日の授業、ちゃんと聞いてなかったでしょ?」
「だから何」
「ダメじゃん。ちゃんと勉強しなきゃ」
そう言われるが、反論出来ない。さすがに家でのことは話せない。この女子とは中学は違う。この塾で一緒になった子だ。何故かよく話しかけてくる。
輝はそんな女子にうんざりしていた。
「ねぇ、高幡!」
「お前には関係ないだろ」
そう言って教室を出る。
でも確かに今日は授業に集中出来なかった。
(このままじゃマズイのに)
輝は成績が悪いわけではない。かといって格段にいいわけでもない。普通の成績だった。だけど行きたい高校がこの県内でも有数の高校だったのだ。
光葉高校。ここを目指しているのは、友人がそこを受験するからだった。
愛川湊。輝の小学校からの一番の友人。その友人と同じ学校へ行きたいから頑張っている。
友人の湊は子供の頃から医者になると決めている。その為毎日勉強を頑張っている。それでも小学生の頃なんかは輝と一緒に泥まみれになって遊んでたりもしたのだ。
(なのに……)
大事な時期なのに、親の揉め事で気を乱されたくない。
「はぁ……」
大きくため息を吐いた輝は、ひとり帰り道を歩いた。
地元一の呉服店を営む家に産まれた輝は上にふたり、兄貴がいる。ひとりは高校三年生。ひとりは大学四年生。
そしてこの妹、まだ5歳。
◇◇◇◇◇
「私は知りません!世話なんかしません!」
そう一階の両親の部屋から響く声。母親の声だった。いつも厳しい母親は、毎日ピリピリと機嫌が悪かった。
「なんだろ……」
兄貴たちと顔を見合わせる。
長兄の糾が両親の部屋へと向かった。
「おふくろ。何ごぉぉぉ……っ?」
そう声をかけて言葉に詰まった。両親の部屋には珍しく父親がいて、その傍らに小さな女の子がいたのだ。
「なに、これ」
糾が両親に聞くと父親がぱぁと顔を明るくした。
「糾!いいところに」
女の子に向かって「お前の兄さんだよ」と言った。
「はぁ~!?」
糾の声が広い家中に響いた。
その声を聞いて次兄の柊と共に両親の部屋へと向かった。
状況が理解出来ないふたりも話を聞いて糾と同じように大声を出した。
「どういうことだよ!」
「意味わかんねぇ!」
「親父。大人としてやっちゃいけねぇことしてんだぞ!」
糾が一番怒ってる。母親はもう話にならないと、別の部屋に行ってしまった。
「親父が帰ってこないのは他に女がいるんだなとは思ってたさ!けど、これはまずいよな」
長兄にそう言われ、次男と三男にも冷たい目を向けられる。
ここらへんの住人は、知っている。この兄弟の父親は昔から女遊びが酷いことを。子供たちもそれを分かってて、放っておいた。
仕事をしに昼間は戻ってくる。お金もちゃんと入れる。だから放っておいたのがまずかった。
父親が他に家庭を持ち子供までいた。さすがにその事実に妻である由紀子は激怒していた。輝たちは驚愕していた。
「親父。俺たち今、大事な時期!」
高幡家の兄弟は、今年大事な年だった。
輝は高校受験。柊は大学受験。糾は就職活動…と、大事な年なのだ。その年にこんな面倒を起こしてくれた父に呆れ顔。
「仕方ないじゃないか。沙樹の母親が病気で亡くなってしまって……。親戚も引き取ることはしないって宣言しちゃってて……。このままじゃ施設行きだ」
父の傍らにいる沙樹は父の影から輝たちを見ている。
「お前たちからも母さんに言ってくれよ」
父親の情けない姿を見るのはもう何度目だろう。
輝の幼い頃からそうだったから、慣れてしまってる。だが、子供を作ったことに呆れ果ててる。
「知らないよ。俺、これから塾」
そう言って輝は塾の教材が詰まった鞄を持ち出す。
「柊」
「俺も予備校」
柊も同じように鞄を持ち出した。
「糾」
「課題やらないと」
糾は自分の部屋に逃げていく。
そんな三兄弟を見て父はがっくりとしていた。
◇◇◇◇◇
塾に行っても授業が全然耳に入ってこない状態に、輝は苛立った。
(どうしてくれんだよ……)
黒板を睨みながら、家にいる父親に対する怒りを手元にあるノートや消しゴムにぶつけていた。
「高幡!」
塾が終わり帰ろうと教材をカバンに詰めていた時、斜め後ろに座っていた女子が呆れて輝を見ていた。
「なんだよ」
「今日の授業、ちゃんと聞いてなかったでしょ?」
「だから何」
「ダメじゃん。ちゃんと勉強しなきゃ」
そう言われるが、反論出来ない。さすがに家でのことは話せない。この女子とは中学は違う。この塾で一緒になった子だ。何故かよく話しかけてくる。
輝はそんな女子にうんざりしていた。
「ねぇ、高幡!」
「お前には関係ないだろ」
そう言って教室を出る。
でも確かに今日は授業に集中出来なかった。
(このままじゃマズイのに)
輝は成績が悪いわけではない。かといって格段にいいわけでもない。普通の成績だった。だけど行きたい高校がこの県内でも有数の高校だったのだ。
光葉高校。ここを目指しているのは、友人がそこを受験するからだった。
愛川湊。輝の小学校からの一番の友人。その友人と同じ学校へ行きたいから頑張っている。
友人の湊は子供の頃から医者になると決めている。その為毎日勉強を頑張っている。それでも小学生の頃なんかは輝と一緒に泥まみれになって遊んでたりもしたのだ。
(なのに……)
大事な時期なのに、親の揉め事で気を乱されたくない。
「はぁ……」
大きくため息を吐いた輝は、ひとり帰り道を歩いた。
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