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第1章

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 リナの抱える何かが、動き出したのはあの日から数週間経ってからだった。
 学校にはいつもの通りに通っていたが、教室に入ることはしないで屋上に行っていた。屋上にはクマがいつもいて、リナが顔を出すとちらっと横目でリナを見る。
「どうした?」
 クマはリナの顔を見て何かに気付いたように言う。だけど、そのに気付かないリナは答えられない。
 キョトンとした顔をクマに向けるだけ。
「顔の感じが違う」
「え?」
「何かにぶち当たってるそんな顔」
 そう言われてはっとする。ぶち当たってると言われてもぶち当たってるのかまでは分からないが、行き場のない思いが何かに当たって動けないのだ。

 ふっと微かに笑ってリナを見た。
「オレはお前が羨ましいよ」
 クマはポツリと話し出す。
 ちょこんと、クマから少し離れた場所に座り込み膝を抱える。
「シュンイチさんは、凄ぇ人だ。そんな人の傍にいることが出来るお前が」
 クマはシュンイチに憧れてるひとりなのだ。

 黒龍にいる面子は、シュンイチとヨシキとカズキの3人は憧れの存在。その3人を目指して生きてる。


「オレたち黒龍は、ケンカはしないんだよ」
 暴走族なのにケンカはしない。そう決めたのはヨシキ。その前は結構他のチームとのケンカがあった。それを一切禁止にしたのはヨシキだった。
「仲間内でいざこざがあることはあるんだよ。けど、外の連中とケンカしたらマジでヤバくて。吹っ掛けられることはあっても吹っ掛けることはしないんだよ」
 ケンカはしないとはこっちからケンカはしないという意味。その他にも黒龍には掟が存在する。そのすべてをヨシキが決めた。
 黒龍が出来た時からの掟もあるが、変更していったのはヨシキだった。そしてシュンイチとカズキがそれに倣ったから、下っ端が着いてきてる。

「もちろんヨシキさんもカズキさんも凄いんだけど」
 付け加えるように言ったクマは、リナに優しい顔を向けた。

 こんなに優しい笑顔をするのに、黒龍に所属する不良ヤンキー。それがリナには信じられなかった。
 それはシュンイチやヨシキにも感じることだった。
 
(だけど……)
 昨日のヨシキやシュンイチは、自分の知らない顔をしていてそれがリナにとっては信じがたいことだった。

「なんでなんだろう……」
 ポツリと小声で呟くリナに、クマは何も言わなかった。



     ◆◆◆◆◆



 自分の部屋のベッドに横になってると、外からバイクの音が響いてきた。
 こんな時間に珍しいと思いつつ、窓から外を見る。バイクに跨がってるシュンイチの姿が見えてきた。
 あんな風に走ってる姿と、リナに見せる姿が違い過ぎてまだそのふたつの姿が合致しない。

(気持ちよさそう……)
 バイクに乗って風を受けるシュンイチの姿を見て、リナはそう感じた。


 バタンっ!
 少し乱暴に玄関のドアが開くと、ドタドタと階段を上がってくる音が聞こえる。
 部屋のドアを開けると、シュンイチが不機嫌な顔をしていた。
「……どうしたの?」
 リナの方を向かずに「なんでもねぇよ」と答える。そのまま向かいの部屋に入っていく。
(なんかあった……のかな?)
 不思議に思うリナだが、これ以上なにも言えない。

 珍しく不機嫌なのだ。
 家に帰ってくる時はそんな顔をしてないことのが多い。
 それはシュンイチなりの気遣い。リナを不安にさせない為のことだった。
 だけど今日は不機嫌な顔をして帰って来て部屋に籠ってしまった。
 リナはどうすればいいのか分からなくなっていた。


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