紅い薔薇 蒼い瞳 特別編

星河琉嘩

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愛するということ

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 遺書を書いた。
 なんでかなんて分からない。ただあたしはここにいたんだって、思ってて欲しかったから。



     ◆◆◆◆◆



 あたしが求めているものは、なんてものじゃない。ただあたしの存在を認めて欲しいというだけ。それに一体、どれだけの人が理解してくれるんだろうか。



 マキ先輩に呼び出されることが多くなったあたし。
 マキ先輩と一緒にお金を使うことが多くなったあたし。
 マキ先輩と一緒に汚いこともするようになったあたし。



 でもあたしは身体は売らない。
 マキ先輩もそれだけはしない。



 だけど、違うカタチであたし達は快感を得ようとしていた。



 あたしは知っていた。
 マキ先輩が大樹が好きなこと。でも大樹は、女なら誰でもいいと思っていた。
 大樹には本命の彼女はいた。でも他にも女はいた。
 それはみんなヤるだけの女。
 そんな人に自分の気持ちを言っても、ただ遊ばれるだけって、マキ先輩は知っていた。




「遺書、書いた」
 マキ先輩にそう告げると、目を見開いてこっちを見た。
「何で!?」
「書いておきたかった。あたしがにいたっていう証」
 夜の街を眺めながらビールを飲む。そんなあたしを見て、「あたしも書こうかな」ってマキ先輩も言う。
「でもマキ先輩は、死ぬ理由なんてないでしょ」
 その問いに笑って「あるよ」と言った。その目が寂しさをまとっていた。
「いつまでも大樹を想ってても虚しいだけだ。あたしを女と思ってねーとこがムカツク」
 煙草をコンクリートの地面で揉み消して、ビールを飲む。
 ふたりしてこうして夜の街にいると、声がかかる。
 ナンパの声。
 でもそれにはムシするあたし達。そんなことよりも、もっと快感を得る方法があるから。


「でも、何書いたの」
 隣を振り返ると、真っ直ぐ前を向いたままの先輩が言った。
「遺書。何書くの」
「ん~……。遺書って感じじゃないかもしれない。あたしの今の心境書いた」
「今の心境?」
「ん。今まで生きてきたこととか、親や学校に対してとか、今あたしがやってることとか。大樹のこともヨシキのこともユリのことも書いた」
「ユリってあのユリ?」
 その言葉にあたしはマキ先輩を見た。
「あ。ユリ、知ってるんだよね?」
「だって、ヤツはあたしの幼馴染み。それに青薔薇の後輩だしな」
 そういえば、青薔薇だった。
 マキ先輩も青薔薇だ。


「なぁ、ジュンコ。青薔薇来いよ」
 マキ先輩がそう言うと立ち上がる。
「でもあたし、死ぬ気でいるんですよ」
「死ぬ気じゃなきゃ族やれねー」
 ニカッと笑ったマキ先輩は、あたしに手を差し出す。その手を取ってあたしも立ち上がる。


「バイクの乗り方、教えるし」
 そう言ってはある駐車場に来た。そこに停めてある、何台もののバイクや車。所有者は誰だか分からない。その中の原付に近寄った。
 鍵はついてない。
 マキ先輩はその鍵を壊して、どうにかエンジンをかけた。


「座って」
 座席に座らせ運転の仕方を説明する。
「やってみ?」
「先輩、これ」
「誰のだか分かんねーよ」
 やっぱり盗むんだと思った。
 あたしは先輩に言われた通り運転してみた。スピードを上げると、風が頬に当たる。その風が心地よかった。
「やるじゃん」
 先輩があたしを見てそう笑った。


「最近、大樹と会ってんの?」
 バイクから降りたあたしは、マキ先輩から煙草を貰って吸っていた。
「大樹とですか?」
「うん」
「あ─……。会ってないですね」
「連絡は?」
「ないです」
 きっぱりと言うあたしを見て、肩を落とす。
 やっぱり大樹が好きなんだって思う。 
 あたしとは違う感情。




 あたしのと、先輩のは違うと思う。






「この前、言ったよね?」
 マキ先輩が煙草に火をつけた。その仕草はとても色っぽい。
「アイツを黒龍から降ろすって話」
「うん」
「いよいよ動き出してる」
 その目は真剣で、何処を見ているのか分からない。
「上手くいくとは思えないけど、いつまでかかるかは分からない。でも、準備をしている。アイツは歴代総長の中で最強で最狂だ」
 マキ先輩の言葉の意味が、理解出来ない。
「強いけど、狂ってる。アイツはほんと強い。誰よりも強い。だから降ろせないかもしれない。寧ろ、降ろせない方のが高い」
 マキ先輩は唇を噛んだ。噛んだ拍子に、唇から血が出てきていた。



「だからあたしも遺書が必要かもしれない」



 マキ先輩の遺書は大樹に対しての。好きな人への
 ああ見えて大樹は黒龍を、大切にしている。それを知っている。だけど、降ろさなきゃいけないと思ってるから、その為の覚悟の



 あたしとは違う。



 あたしは、この世から早く消えたいというからだ。
 だから遺書を書いた。
 その中に母への感謝の言葉なんか、ひとつもない。書いてなんかやらない。






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