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愛するということ
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夏休み最後の日。
あたしはマキ先輩に、青薔薇の集会に連れて行かれた。3代目だという総長のアヤメさん。その人に紹介された。
「よろしく。アヤメよ」
そう言われて差し出された手を、あたしは握り返してアヤメさんに挨拶した。
「この子、あたしの後輩なんすよ」
マキ先輩はアヤメさんに言った。そのマキ先輩を見て、アヤメさんが笑う。
「随分と可愛がってんだな」
「はい。ちょっと複雑な子なんですよ。放っとけないっていうか」
「先輩。だからあたしに構うんですか」
「そうだよ」
「ガキ扱いされてるみたいだ」
ボソッと言うと、アヤメさんが大声で笑い出した。アヤメさんの笑い方は、意外と豪快だった。
集会にはユリもいた。ユリはあたしに気付くと、手を振ってきていた。無免のユリは、他の人のバイクの後ろに跨っていた。
「あんたはこっち」
マキ先輩はあたしにそう言って、あたしを車の後部座席に乗せた。そこにはアヤメさんが乗っていて、あたしが乗った後にマキ先輩は助手席に乗り込んだ。
「あんたを青薔薇に入れたいんだ」
あたしに振り返って言う。
「アヤメさん。この子、入れたいんです」
アヤメさんはあたしを見ていた。
「あんた、いい目してんな」
そう言ってあたしの頬に触れる。そんなことを言われたのは初めてだ。
「行け」
アヤメさんは運転手にそう言うと、車は走り出した。そしてそれに続くように、バイクも走り出した。
「バイクはうちらを逃がす為のもんなんだ」
マキ先輩がそう言った。その言葉の通り、車を守るようにバイクは走ってる。遠くでパトカーのサイレンが聞こえて来た。
「今日は早いな」
ポツリと言うとアヤメさんは、窓を開けた。そのすぐ隣を走っていたバイクに向かって、「散れ」と言う。その言葉にバイク達は、散り散りになって走って行く。
「夏休み最後だからか」
アヤメさんはそう言って、窓を閉める。そしてあたしを見て笑った。
「予定より早く終わって申し訳ない」
本当はもっと長く走ってる筈だったと、アヤメさんは言った。でもパトカーが出てきてしまったから、散り散りに走って行ったバイク達。その中にユリもいる。
「平気だよ。こういう時の為にそれなりにコースが決まってる」
散っていく為の道。どうやって青薔薇の倉庫まで戻るかってこと。それが決まってるらしい。
「ジュンコ」
アヤメさんがあたしを呼んだ。
「あんた、黒龍の大樹とセフレだって?」
「セフレってワケじゃ……」
そんな言葉とは違う。あたしにはそんなもんはいらないし。大樹の玩具と言った方が、正しいのかもしれない。
「あんた、あの大樹を降ろす為の役割に関わらない?」
アヤメさんはそう言うと、笑顔をあたしに向けた。
「それって……」
あたしはアヤメさんに顔を向ける。
「ああ。青薔薇に入らないか」
真っ直ぐな瞳で言うこの人の言葉に、思わず「うん」って言ったのは何故だろうか。
あたしにはよく分からなかった。
「やった!」
助手席でマキ先輩がそう叫んでいた。
何がそんなに楽しいのか、よく笑い叫んでいた。
◆◆◆◆◆
倉庫に着くと、マキ先輩とアヤメさんに連れられて2階に上がる。そこは黒龍の2階とは違う部屋。女の場所だって分かるような場所。
ま、黒龍の2階はあの例の部屋しか入ったことがないから、なんとも言えないけど。
白いソファーが置いてあり、ローテーブルがある。冷蔵庫があり、TVも置いてある。そしてその周りには、色々な可愛らしい雑貨が置いてあった。
「なんかまた増えてる。誰だよ、こういうの置いていくのは……」
アヤメさんが呆れているところを見ると、これはアヤメさんの趣味じゃないってことだ。
メイク道具が散らばるローテーブル。そのメイク道具を片付けると、そのテーブルに、冷蔵庫から出したビールを置く。
「ジュンコ。これからよろしく」
アヤメさんは、そうあたしに言うと笑った。缶ビールを開けて乾杯する。それがなんか嬉しかった。
あたしに居場所で出来た。
そう思ってしまったから。だから、あたしはここに入り浸ることになった。
あたしが青薔薇に入ったってことを、大樹には言ってない。というより、あたしから大樹に連絡を入れることはないから、言う必要もない。大樹はそんなの教えられたって、迷惑だって思うだろう。
だからあたしからは教えなかった。
──そのうち、耳に入るだろうけど……
ヨシキにも言わないでいた。どうせユリから聞くだろうから。学校の屋上に行くと、あの笑顔で聞いてくるだろう。
「青薔薇に入ったって?」
その笑顔を想像すると、なんだか嬉しくなる。
屋上の他に居場所が出来たあたし。
その時はただそれが嬉しかった。
あたしはマキ先輩に、青薔薇の集会に連れて行かれた。3代目だという総長のアヤメさん。その人に紹介された。
「よろしく。アヤメよ」
そう言われて差し出された手を、あたしは握り返してアヤメさんに挨拶した。
「この子、あたしの後輩なんすよ」
マキ先輩はアヤメさんに言った。そのマキ先輩を見て、アヤメさんが笑う。
「随分と可愛がってんだな」
「はい。ちょっと複雑な子なんですよ。放っとけないっていうか」
「先輩。だからあたしに構うんですか」
「そうだよ」
「ガキ扱いされてるみたいだ」
ボソッと言うと、アヤメさんが大声で笑い出した。アヤメさんの笑い方は、意外と豪快だった。
集会にはユリもいた。ユリはあたしに気付くと、手を振ってきていた。無免のユリは、他の人のバイクの後ろに跨っていた。
「あんたはこっち」
マキ先輩はあたしにそう言って、あたしを車の後部座席に乗せた。そこにはアヤメさんが乗っていて、あたしが乗った後にマキ先輩は助手席に乗り込んだ。
「あんたを青薔薇に入れたいんだ」
あたしに振り返って言う。
「アヤメさん。この子、入れたいんです」
アヤメさんはあたしを見ていた。
「あんた、いい目してんな」
そう言ってあたしの頬に触れる。そんなことを言われたのは初めてだ。
「行け」
アヤメさんは運転手にそう言うと、車は走り出した。そしてそれに続くように、バイクも走り出した。
「バイクはうちらを逃がす為のもんなんだ」
マキ先輩がそう言った。その言葉の通り、車を守るようにバイクは走ってる。遠くでパトカーのサイレンが聞こえて来た。
「今日は早いな」
ポツリと言うとアヤメさんは、窓を開けた。そのすぐ隣を走っていたバイクに向かって、「散れ」と言う。その言葉にバイク達は、散り散りになって走って行く。
「夏休み最後だからか」
アヤメさんはそう言って、窓を閉める。そしてあたしを見て笑った。
「予定より早く終わって申し訳ない」
本当はもっと長く走ってる筈だったと、アヤメさんは言った。でもパトカーが出てきてしまったから、散り散りに走って行ったバイク達。その中にユリもいる。
「平気だよ。こういう時の為にそれなりにコースが決まってる」
散っていく為の道。どうやって青薔薇の倉庫まで戻るかってこと。それが決まってるらしい。
「ジュンコ」
アヤメさんがあたしを呼んだ。
「あんた、黒龍の大樹とセフレだって?」
「セフレってワケじゃ……」
そんな言葉とは違う。あたしにはそんなもんはいらないし。大樹の玩具と言った方が、正しいのかもしれない。
「あんた、あの大樹を降ろす為の役割に関わらない?」
アヤメさんはそう言うと、笑顔をあたしに向けた。
「それって……」
あたしはアヤメさんに顔を向ける。
「ああ。青薔薇に入らないか」
真っ直ぐな瞳で言うこの人の言葉に、思わず「うん」って言ったのは何故だろうか。
あたしにはよく分からなかった。
「やった!」
助手席でマキ先輩がそう叫んでいた。
何がそんなに楽しいのか、よく笑い叫んでいた。
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倉庫に着くと、マキ先輩とアヤメさんに連れられて2階に上がる。そこは黒龍の2階とは違う部屋。女の場所だって分かるような場所。
ま、黒龍の2階はあの例の部屋しか入ったことがないから、なんとも言えないけど。
白いソファーが置いてあり、ローテーブルがある。冷蔵庫があり、TVも置いてある。そしてその周りには、色々な可愛らしい雑貨が置いてあった。
「なんかまた増えてる。誰だよ、こういうの置いていくのは……」
アヤメさんが呆れているところを見ると、これはアヤメさんの趣味じゃないってことだ。
メイク道具が散らばるローテーブル。そのメイク道具を片付けると、そのテーブルに、冷蔵庫から出したビールを置く。
「ジュンコ。これからよろしく」
アヤメさんは、そうあたしに言うと笑った。缶ビールを開けて乾杯する。それがなんか嬉しかった。
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そう思ってしまったから。だから、あたしはここに入り浸ることになった。
あたしが青薔薇に入ったってことを、大樹には言ってない。というより、あたしから大樹に連絡を入れることはないから、言う必要もない。大樹はそんなの教えられたって、迷惑だって思うだろう。
だからあたしからは教えなかった。
──そのうち、耳に入るだろうけど……
ヨシキにも言わないでいた。どうせユリから聞くだろうから。学校の屋上に行くと、あの笑顔で聞いてくるだろう。
「青薔薇に入ったって?」
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