12 / 52
愛するということ
11
しおりを挟む
新学期。始業式をサボって、屋上で煙草を吸う。その隣にはヨシキとカズキとユリがいた。それから、ヨシキとカズキの友達だっていうシュンイチ。こいつも学校で有名だった。
静かだった屋上が、また騒がしくなった。
「なんであんたらがいんの」
呆れてため息しか出ない。そんなあたしに、ニコニコと笑うのはカズキ。カズキはヨシキとは、正反対の性格をしていた。
でもカズキも結構なワル。ふたりで万引きした話とか、喧嘩した話とかを平気でする。
ま、人のことは言えないけど。人前で平気で煙草吸うし。この前バイク盗んだし。
ここの屋上の鍵は、マキ先輩にもらった。マキ先輩と他の数人の先輩たちが、ここにいた。でもあたしの学年は珍しくグレた感じの子はいなくて、あたしだけがここに出入りしていた。
だからあたしに鍵をくれた。たぶん、あたしはユリかヨシキに渡すんだろうと思う。
そんな予感が今からある。
「ジュンコさんは高校どうするの?」
ユリはそう聞いてきた。その言葉に微かに笑う。
あの親が高校に行かせてくれるとは、とても思わない。中学までは義務教育だから、仕方ないって思って行かせてくれてるらしい。産んだことの責任は、そこまでっ思ってるのかもしれない。
「行かない」
あたしはそう言って、煙草の煙を吐き出した。
「え」
「行かないの?」
「金、ねぇ」
「え」
「生活すんのには足りてるけど、高校行く金は、出さねぇんじゃねーかな」
あたしが誰かにそう言うのは、マキ先輩の他には初めてだった。
「聞き流してくれていい」
そう言って始まった、あたしの昔話。産まれてから今までの話。
「あたしには母親しかいねー……」
その言葉に、みんながこっちを見ていた。
「父親は知らねー。顔も名前知らねー。多分、母親も知らねーんじゃねーの」
煙草の煙を吐き出しながら言う。
「母親は夜の仕事をしてる。男と寝てその金であたしは生活してる」
気付いた時には、もうそれが当たり前で。悲しいとか寂しいとかの感情も、持ち合わせていなくて。母親を母親だと感じたこともないくらい、あたしはひとりでいた。
「家にいると、母親と男がヤってのを見んだよ」
そんなことを話していても、こいつらは黙って聞いている。煙草を吸いながら聞いている。
「あたしはいつも思ってた」
「いつ死んでやろうと」
「どんなやり方で死んでやろうと」
「いつも考えてる」
そう言うと、ヨシキが悲しい顔をしていた。
「……んなことさせねぇ」
その声は酷く悲しく、そして強い言葉だった。
「あんたがそう言ってくれても、こればっかりはどうしもねぇんだ」
そう思う生き方をしてきてしまった。
いつもそうだった。
だから、不良にはなりたくなくてもそっち側にいる。不良って感じじゃなくても、そういう先輩と付き合ってる。そういう男と一緒にいる。
だから世間からは、そういう目で見られる。
「ヨシキ」
あたしはヨシキを見て言った。
「これがあたしなんだ」
全てを諦めた女。
それがあたし。
諦めた……って言い方、可笑しいかもしれない。
諦めさせられた……って言い方が合ってんのかもしんない。
あたしは母親に、世間に、生きるということを諦めさせられた。
ただのガキ。
もし、このまま。
ここから飛び降りて死んでも。
もし、このまま。
自分を刺して死んでも。
母親は、世間は。
いなくなって当たり前っていうツラして見るんだろう。
それが悔しくないのかっていうと、実のところ、悔しい。
でもそれが当たり前だって言われると、「ああ。そうかもしんない」って思う。
だって、そうやって生きてきた。
そう生きるようになってきた。
昔はね、悪あがきのように母親に愛ってヤツを求めた。
だけど、母親が向ける愛ってやつは、あたしにじゃなくて男にだった。
あたしのことは、見て見ぬフリ。
あたしの存在はいないフリ。
あたしが中学に上がってすぐ、母親はあたしに言った。
「あたしの男を寝取るマネはすんなよ」
その意味が、分からないわけじゃなかった。あたしは母親に、子供としてみられてなかったってことだ。
だから、あたしは自殺願望が強くなった。
その日まであたしは、ここにいるってことを主張している。
静かだった屋上が、また騒がしくなった。
「なんであんたらがいんの」
呆れてため息しか出ない。そんなあたしに、ニコニコと笑うのはカズキ。カズキはヨシキとは、正反対の性格をしていた。
でもカズキも結構なワル。ふたりで万引きした話とか、喧嘩した話とかを平気でする。
ま、人のことは言えないけど。人前で平気で煙草吸うし。この前バイク盗んだし。
ここの屋上の鍵は、マキ先輩にもらった。マキ先輩と他の数人の先輩たちが、ここにいた。でもあたしの学年は珍しくグレた感じの子はいなくて、あたしだけがここに出入りしていた。
だからあたしに鍵をくれた。たぶん、あたしはユリかヨシキに渡すんだろうと思う。
そんな予感が今からある。
「ジュンコさんは高校どうするの?」
ユリはそう聞いてきた。その言葉に微かに笑う。
あの親が高校に行かせてくれるとは、とても思わない。中学までは義務教育だから、仕方ないって思って行かせてくれてるらしい。産んだことの責任は、そこまでっ思ってるのかもしれない。
「行かない」
あたしはそう言って、煙草の煙を吐き出した。
「え」
「行かないの?」
「金、ねぇ」
「え」
「生活すんのには足りてるけど、高校行く金は、出さねぇんじゃねーかな」
あたしが誰かにそう言うのは、マキ先輩の他には初めてだった。
「聞き流してくれていい」
そう言って始まった、あたしの昔話。産まれてから今までの話。
「あたしには母親しかいねー……」
その言葉に、みんながこっちを見ていた。
「父親は知らねー。顔も名前知らねー。多分、母親も知らねーんじゃねーの」
煙草の煙を吐き出しながら言う。
「母親は夜の仕事をしてる。男と寝てその金であたしは生活してる」
気付いた時には、もうそれが当たり前で。悲しいとか寂しいとかの感情も、持ち合わせていなくて。母親を母親だと感じたこともないくらい、あたしはひとりでいた。
「家にいると、母親と男がヤってのを見んだよ」
そんなことを話していても、こいつらは黙って聞いている。煙草を吸いながら聞いている。
「あたしはいつも思ってた」
「いつ死んでやろうと」
「どんなやり方で死んでやろうと」
「いつも考えてる」
そう言うと、ヨシキが悲しい顔をしていた。
「……んなことさせねぇ」
その声は酷く悲しく、そして強い言葉だった。
「あんたがそう言ってくれても、こればっかりはどうしもねぇんだ」
そう思う生き方をしてきてしまった。
いつもそうだった。
だから、不良にはなりたくなくてもそっち側にいる。不良って感じじゃなくても、そういう先輩と付き合ってる。そういう男と一緒にいる。
だから世間からは、そういう目で見られる。
「ヨシキ」
あたしはヨシキを見て言った。
「これがあたしなんだ」
全てを諦めた女。
それがあたし。
諦めた……って言い方、可笑しいかもしれない。
諦めさせられた……って言い方が合ってんのかもしんない。
あたしは母親に、世間に、生きるということを諦めさせられた。
ただのガキ。
もし、このまま。
ここから飛び降りて死んでも。
もし、このまま。
自分を刺して死んでも。
母親は、世間は。
いなくなって当たり前っていうツラして見るんだろう。
それが悔しくないのかっていうと、実のところ、悔しい。
でもそれが当たり前だって言われると、「ああ。そうかもしんない」って思う。
だって、そうやって生きてきた。
そう生きるようになってきた。
昔はね、悪あがきのように母親に愛ってヤツを求めた。
だけど、母親が向ける愛ってやつは、あたしにじゃなくて男にだった。
あたしのことは、見て見ぬフリ。
あたしの存在はいないフリ。
あたしが中学に上がってすぐ、母親はあたしに言った。
「あたしの男を寝取るマネはすんなよ」
その意味が、分からないわけじゃなかった。あたしは母親に、子供としてみられてなかったってことだ。
だから、あたしは自殺願望が強くなった。
その日まであたしは、ここにいるってことを主張している。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる