紅い薔薇 蒼い瞳 特別編

星河琉嘩

文字の大きさ
13 / 52
愛するということ

12

しおりを挟む
 大樹から電話が入った。
 いつものように「倉庫に来い」とだけ。だからあたしは、大樹のところへと向かった。
 タクシーで黒龍の倉庫近くまで行き、歩いて倉庫まで行く。歩いているあたしは、違和感を感じた。


 黒龍の面子がいない。
 誰もいない。
 あのヨシキもカズキも姿を見ない。
 今日はのかもしれない。



「遅い」
 倉庫前に立っていた大樹が、あたしを見ていた。あたしの腕を掴むと、倉庫の中へズンズン入っていく。
「痛いっ」
「黙れ」
 大樹は機嫌が悪かった。それが分かるくらい、掴まれた腕から苛々が伝わってきていた。

「今日、誰もいないの?」
 あたしは大樹にそう聞いていた。
 あの日。
 ユリが大樹に文句を言ってから、あたしと大樹は会っていなかった。久しぶりに会う大樹は、ほんとに機嫌が悪く、ピリピリとしていた。大樹の総長降ろしの噂が、耳に入っているのかもしれない。


 だったら、そんな時になんであたしを呼んだ?
 あたしは大樹のストレスの捌け口になる為に呼ばれたのか?


「大樹」
 名前を呼ぶと、こっちを振り返りその顔がかなり怒っているのが分かる。名前を呼ぶなと言われていたのにも関わらず、名前を呼んだからかもしれない。
「お前ぇ……」
 あたしに顔を近づけ、何かを言おうとしてやめた。そしてちっと舌打ちをして、階段を上っていく。あたしはそんな大樹の後ろを追うようにして着いていく。


 いつものようにいつのも部屋。ベッドしかない部屋。その部屋に入れられてすぐ、大樹はあたしにひとこと言った。


「脱げ」
 乱暴な言い方は相変わらず。
 あたしは大樹を軽く睨んで、着ていた衣服を脱ぎだした。下着まで脱ぐと、大樹はあたしをベッドに押し倒した。いつものことだから、何をされようと関係ない。


 でも、この日は違った。
 乱暴に抱くことは変わらないけど、あたしをベッドに縛り付けたんだ。両手両足をベッドに紐で縛りつけて、動けないようにした。そのあたしに馬乗りになり、乱暴に胸を掴む。胸の突起を摘み、あたしは顔を歪ませる。


 大樹の抱き方は、気持ちのいいもんじゃない。
 それはもう随分前から思っていたこと。それが当たり前だと思っていたこと。



「大樹……」
 いつもの大樹とは違うこと。
 何も言わないこと。
 普段もあまりしゃべらないこの男が、あたしが名前を読んでも怒鳴らないってことだ。
 怒ってはいる。
 だけど、大声出して怒鳴らないってこと。それが不気味だった。


「お前……。青薔薇に入ったって?」
 突然、そう言って来た。
 何も話さなかった大樹がそれだけ聞くと、またあたしの胸を強く掴み、突起を強く噛む。

「…………っ」
 痛みに耐えあたしは大樹を見た。
「マキ……先輩に……」
「マキ?あのバカか」
 呟くように言うと、あたしの密部に指を入れてきた。濡れていないその部分を無理矢理入れると、あたしは痛みで顔を歪ませる。


「青薔薇に入ってどうする気だ」
「別に……」
 話すことなんかない。
 大樹を降ろすってことは、あたしには関係ない。大樹が黒龍のリーダーじゃなくなっても、あたしはこうして大樹に抱かれるんだろうから。


 指を抜いてあたしに不適に笑う。無理矢理抱かれるあたしが、感じることはない。
 大樹の玩具にしかならないあたし。
 大樹が気が済めば終わる。
 ただそれだけの存在。


 でも身体は正直なのか、何度か指を入れられてはあたしの蜜が溢れてきていた。
 それを確認したかのように、大樹は自分のモノを入れた。
 強く乱暴に。
 あたしの中へ入って何度も律動する。



「…………っ」
 顔を歪ませるあたしとは逆に、甘い声を出す大樹。胸を掴み口に含むと、突起を口内で転がす。


「……ぁ……っ」
 その行為に微かに声が洩れる。その声を聞いて、大樹は笑いを見せる。
 歓喜の笑いとはまた違う。不適な笑い。



「……はぁ……っ」
 耳元で聞こえる大樹の声。
 軋むベッドの音。
 いやらしい水音。


「……んっ」
 大樹の切ない目を見て、あたしの中が熱くなってる。何度も何度も、あたしは大樹を受け入れていた。


 自分の手足の自由が利かないから、ただヤられるだけなのに。それが気持ちいいと感じているのか。自分でも分からないくらい、頭の中は真っ白だった。



「あっ……」


 ドサッとあたしの上に、大樹の身体が倒れてくる。あたしの中には、大樹の熱くなったものが放出されていた。


「大樹……」
 あたしの上にいる大樹に、声をかける。
「……ん」
「今……中で」
「それがどうした」
 別にたいしたことないって言い方。それはいつものことだけど、いつもはこんなことしない。

 いくらなんでも後が面倒だからって、ちゃんとゴムはつけるのに。今日は違うのは、大樹が何かに怒ってるから。そしてそのまま中でシたのは、怒りに任せてあたしを抱いたから。



「なんでこんなこと、すんの」
「あ?」
「だからなんで中で……」
「いいだろ」
「だって」
「デキてたら堕ろせよ」



 そう言うと、大樹はシャワーをしに部屋を出て行く。
 あたしをベッドに縛り付けたまま。


 あたしは考えていた。
 この世に産まれてきた意味を。
 そしてこの男と出逢った意味を。


 でも。
 考えても考えても、答えは見つからない。



「デキてたら堕ろせ」と、いとも簡単に言うこの男と、何故出逢ったんだろう。そしてどうしてヤってしまったんだろう。


 もう随分前の話で、ヤってしまった経緯なんか思い出せない。その頃のあたしって、もう全てのことに関して「どうでもいい」と思っていた。だから別に大樹とヤっても、何も思わなかったんだ。

 大樹が酷い男だってことも、知ってはいた。黒龍のリーダーやってて、とんでもねぇことしてるのを知ってても。



 でも。
 まさか、ここまで人の気持ちなんか考えねぇヤツだなんて思わなかった。



 命張って族なんてやってるヤツが、命を軽くみてる。それが悲しかった。
 命を軽くみてるってことは、うちの母親も同じ。だから何処の誰だか分からないあたしを産んで、そのままにした。そして産んでからも、母親は他の男とヤりまくって、更に子供を作って。その時は流石に育てられねぇってんで、堕ろした。

 そういえば、あたしが中1の時も子供堕ろしてた。
 ごく簡単に。
 当たり前のように。



 あたしもそうなっていたのかもしれないと思ったら、悲しかった。だから、簡単に「堕ろせ」なんて言って欲しくなかった。
 それがたとえ酷い男でも。



 天井を見上げて、堪えきれなくなったあたしは涙を流していた。
 悔しくて。
 涙が出た。


 あたし、なんの為に生きているんだろう。


「なに泣いてやがる」
 冷たい声が響いた。
 あたしを見下ろし、冷たい目つきでこっちを睨んでいる。


「なにも」
 そう言うあたしに、更に眉を吊り上げて睨む。
「お前に感情は必要ねぇ」
 その言葉が降りてきて、あたしは更に悲しくなった。



 あたしはただの性道具。
 そう思わされた瞬間だった。



「お前に怒りの感情も、喜びの感情も悲しみの感情も、何もいらねぇ……」
 凄味のある声で威嚇してきて、それがますますあたしの胸に突き刺さる。優しい言葉なんか、かけられたことなんかない。
 それでもあたしは大樹の傍にいた。
 大樹に抱かれてる間だけは、あたしが存在しているって思ったから。



 でも。
 そうじゃなかった。
 そうじゃなかったんだ──……。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...