紅い薔薇 蒼い瞳 特別編

星河琉嘩

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愛するということ

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 放課後。
 昇降口を出て、学校を出て行く。グラウンドを見ては、ため息を吐く。そこには陸上部が練習をしていた。3年生は夏までだから、あまりいない。あたしの後輩たちが一生懸命に走ってる。その姿を羨ましいなんてことは、思わなくなってる。
 走ることはあたしにとって、生きているって意味を実感する術だった。
 でも今は違う。
 生きているって意味が、分からなくなってるから。


 学校から自宅まで歩いている途中で、スマホが音をたてて鳴った。画面には、と記されている。
 木下大樹はあたしの1コ上の先輩。去年、うちの学校を卒業して行った先輩。あたしの初めてを奪った相手だ。



「はい」
 あたしは電話に出ると、いつもの低い声が聞こえた。
『今夜、9時。倉庫にまで来い』
 それだけ言うと、ガチャッと電話を切られた。
 あたしは最早反論はしない。その電話が入ると、あたしは大樹に抱かれるってこと。別に付き合ってるわけじゃないけど、いつからかそうなった。


 初めての時はどうだったかなんて、覚えてるわけない。あたしにはそんなもん、必要ないし。


 大樹はのナンバー1。つい最近バイクの免許を取ったヤツは、高校にも行かずにフラフラしている。高校にはまだ籍はあるらしいが、辞めると言ってる。



 夜、8時に家を出る。
 家を出る時、母親は男とヤってた。


 今日は仕事は休みらしい。母親の部屋からは、母親と男の官能的な声が漏れていた。わざと聞かせているんじゃないかってくらい、大声で喘いでいた。
 その声にウンザリしてため息を吐く。
 そしてあたしはこれからこの母親と同じことをヤリに、倉庫にまで行くのかと思うと更にウンザリした。


 タクシーを使って、黒龍の溜まり場近くまで行く。そこまで行って後は歩いて倉庫まで行く。倉庫に行くまで暴走連合が溜まり場にしている、バーやクラブが建ち並ぶ。そして廃港の入り口に差し掛かると、見た顔が揃っていた。
 これから走りに行くんだろう。
 あたしはその間を通って、倉庫に近付く。そしてその中心にいる男を睨んだ。


「遅ぇ……」
 不機嫌丸出しのこの男が、大樹。あたしを性的処理の道具に使ってる男。
 大樹があたしを車に押し込むと、運転手に「行け」と告げた。車が走り出すと、バイクに跨ってる面々もエンジンを蒸かし走り出した。


 大樹は走りの後に、必ずあたしを抱く。でもその行為は、あたしは好きじゃない。乱暴に抱かれるその行為が、好きじゃない。


 今も車の後部座席で、大樹は偉そうに座り、右手であたしの太腿に触ってきている。
 あたしが何の反応がないのがムカツクらしく、その右手がエスカレートして来てスカートの中にまで入って来る。
 目の前には運転手の男がいる。その男はこんなことをされてるあたしに見向きもしないで、ただ車を走らせていた。


 大樹の手は、あたしの密部へと滑らせて来た。閉じていた足を無理矢理開かせて、その中へ指を入れて来る。

 こういうことも、慣れてしまって何も言わない。声を出すこともしない。

 だから大樹は、逆に面白がってあたしを車の中で犯す。後部座席にあたしを押し倒し、あたしの服を捲り上げる。
 まるでレイプでもされてるようなその行為。それでもあたしは何も言わないし、声を上げることもしない。



 車の揺れと大樹の身体の揺れ。その揺れがあたしの身体に伝わる。あたしの中に大樹のモノが入ってきても、あたしは何も言わない。声を上げることなく、大樹があたしの中に欲望を吐き出す。


 この行為はいつものこと。
 だから気にしない。
 あたしはこの行為を好きじゃないってことは、大樹は知ってる。知っててあたしを抱く。



 人はなぜセックスをするんだろう。



 この時に必ず思う。
 あたしはこの行為の意味が分からない。



     ◆◆◆◆◆



 いつの間にか車は、倉庫へ戻って来ていた。バイクは囮となってあちこちに散らばったらしく、倉庫には誰も戻って来ていない。


 車から降ろされたあたしは、大樹に引っ張られて倉庫の中へ入る。倉庫の中は、大樹たち幹部しか入れない部屋がある。
 あたしはそこには入ったことはないが、その隣の大樹だけが使ってる部屋に入れられる。

 その部屋はベッドがポツンと置かれている。この部屋は暴走が終わった大樹が、あたしを抱く場所。もしかしたらこの部屋には、他の女も連れ込んでいるのかもしれない。


 ベッドに叩きつけられるように押し倒されたあたしは、大樹の顔を見た。実際、大樹の顔を見ているのか見ていないのか分からないけど、大樹の顔を見ていた。
 その時の目が、とても冷たいと自分でも思っていた。
 そして、大樹の目も冷たかった。



 冷たい……というより、怖かった。





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