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好きなひと
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「アキちゃん!」
ある夜。繁華街をひとりで歩いていた。
いつもはタカシがいるその繁華街に、今日はタカシの姿はなくて。リナはヨシキさんと一緒にいるから、私はひとりで、ブラブラとしていた。そんなひとりの夜に、ヒデさんが私に声をかけて来た。
WHITE ANGLEのナンバー1のヒデさん。フルネームは山村英明。ヨシキさんの中学時代の友人。
「ヒデさん」
私はヒデさんに笑顔を向ける。ヒデさんは私に負い目を感じているらしく、会うといつもご飯を奢ってくれる。遠慮して「いらない」と告げても、ファミレスに連れて行かれる。そして半ば強引に私にご飯を奢ってくれる。
ヒデさんが負い目を感じる理由はひとつ。
私の母親のこと。
そしてヒデさんの父親のこと。
私の初めてはこの人の父親。
私の母親のお得意さんだ。
そのことを知った時、びっくりして言葉にもならなかった。でもヒデさんはあの人とは違う笑顔を、私に向けてくれる。私が心許せる男の人のうちのひとり。
この人は、無理矢理なにかをしてくることはないって、確証があるから。どうしてそんな確証があるのかって、それは黒龍の傘下のチームのナンバー1だから。キングと呼ばれているヨシキさんが、信頼しているメンバーのひとりだから。
じゃなきゃ私が、この人に警戒もしないで一緒にいられるわけない。
「ひとり?」
ヒデさんは私にそう言うと、目を細める。
「はい。リナはダーリンのとこ。コウはきっと、シュンイチさんの後追ってます」
「アキちゃんは青薔薇の溜まり場に、行かなくていいの?」
「今日は特別なにかあるわけじゃないから」
私が答えると、ヒデさんは「そうか」と呟くように言う。
そしてその後決まってこう言う。
「メシ、食った?」
その言葉の後、私はヒデさんに連れられて、ファミレスに向かう。
最近は断らない。断っても、この人は絶対に私をファミレスに連れて行くから。
「アキちゃんってリナちゃんと長い付き合いなんだよね」
ファミレスの窓側の席にふたり。座って私を見る、ヒデさんがそう言った。
「小学校の時からですね」
私がそう答えると、ヒデさんがまた言った。
「リナちゃんってどんな感じのコだった?」
その言葉に私の胸は、チクッと痛んだ。なんで痛むのか、私には分からなかった。
でもヒデさんがリナの話をする度に、心の奥に何かが出来ていた。その何かが渦巻いていて、私は苛立った。何に苛立つのかも、分からないくらいに苛立った。
その苛立ちが、特別な感情の所為だなんて気付くのは、その日から数週間経ってから。黒龍の溜まり場に、ヒデさんが女と一緒に現れた。
その日はユリさんも黒龍の溜まり場にいて、私はユリさんの後をついて、黒龍の溜まり場にいた。相変わらず幹部の部屋で、リナはヨシキさんの隣に座り、コウは何故かシュンイチさんに話しかけて、カズキさんはそんなみんなの行動を見ては笑ってて、ユリさんも笑いながらソファーに座っていた。
そんな状況の中、急にヒデさんが女を連れて現れたことに、みんなが驚いた。
噂でヒデさんは女を連れて歩くことはないと、聞いていたから。
本気になる女の人はいない。
そういう噂があちこちで聞いていたから。
「ヒデ?」
カズキさんが驚き目を丸くして、女を見ていた。そのカズキさんに、ヒデさんは露骨にムカついた顔をして見せた。
「お前、その態度はねーだろ」
カズキさんに威嚇するヒデさん。だけどやっぱりみんなが、不思議そうに女に視線を向けていた。
「その女、誰だ?」
ヨシキさんがリナの肩から手を離し、大きく開いた足を組み、ヒデさんを見ていた。
「お前の女か?」
ヨシキさんの言葉に、私の胸が痛んだ。それがなんなのか分からない私は、ぎゅっと手に力を入れて耐えていた。
「そんなんじゃねぇよ」
ヒデさんはそう言うと、ヨシキさんから視線を外す。
「お前の女じゃねぇなら!ここに連れて来んな」
その声は黒龍ナンバー1としての声だった。
「怖いよぉ、ヒデく~ん」
女が発した声に、私はムカついた。ヒデさんの腕に、自分の腕を絡ませている姿にもムカついた。
「この人、なんなの~?ミユ、怖~い」
甘い声で言う女に、ヨシキを始めとするみんなが嫌そうな顔をする。
そんな雰囲気を感じ取ったのか、ヒデさんは女から離れ、ヨシキさんに顔を向ける。
私はそんないような空気の中にいられなくて、部屋から出て行った。
見たくなかった。
ヒデさんが女と一緒に歩く姿。
女と腕を組む姿。
見たくなかった。
それがどういう気持ちから来るものなのか、私はその時に気付いてしまった。
──私、ヒデさんが好きだ。
ある夜。繁華街をひとりで歩いていた。
いつもはタカシがいるその繁華街に、今日はタカシの姿はなくて。リナはヨシキさんと一緒にいるから、私はひとりで、ブラブラとしていた。そんなひとりの夜に、ヒデさんが私に声をかけて来た。
WHITE ANGLEのナンバー1のヒデさん。フルネームは山村英明。ヨシキさんの中学時代の友人。
「ヒデさん」
私はヒデさんに笑顔を向ける。ヒデさんは私に負い目を感じているらしく、会うといつもご飯を奢ってくれる。遠慮して「いらない」と告げても、ファミレスに連れて行かれる。そして半ば強引に私にご飯を奢ってくれる。
ヒデさんが負い目を感じる理由はひとつ。
私の母親のこと。
そしてヒデさんの父親のこと。
私の初めてはこの人の父親。
私の母親のお得意さんだ。
そのことを知った時、びっくりして言葉にもならなかった。でもヒデさんはあの人とは違う笑顔を、私に向けてくれる。私が心許せる男の人のうちのひとり。
この人は、無理矢理なにかをしてくることはないって、確証があるから。どうしてそんな確証があるのかって、それは黒龍の傘下のチームのナンバー1だから。キングと呼ばれているヨシキさんが、信頼しているメンバーのひとりだから。
じゃなきゃ私が、この人に警戒もしないで一緒にいられるわけない。
「ひとり?」
ヒデさんは私にそう言うと、目を細める。
「はい。リナはダーリンのとこ。コウはきっと、シュンイチさんの後追ってます」
「アキちゃんは青薔薇の溜まり場に、行かなくていいの?」
「今日は特別なにかあるわけじゃないから」
私が答えると、ヒデさんは「そうか」と呟くように言う。
そしてその後決まってこう言う。
「メシ、食った?」
その言葉の後、私はヒデさんに連れられて、ファミレスに向かう。
最近は断らない。断っても、この人は絶対に私をファミレスに連れて行くから。
「アキちゃんってリナちゃんと長い付き合いなんだよね」
ファミレスの窓側の席にふたり。座って私を見る、ヒデさんがそう言った。
「小学校の時からですね」
私がそう答えると、ヒデさんがまた言った。
「リナちゃんってどんな感じのコだった?」
その言葉に私の胸は、チクッと痛んだ。なんで痛むのか、私には分からなかった。
でもヒデさんがリナの話をする度に、心の奥に何かが出来ていた。その何かが渦巻いていて、私は苛立った。何に苛立つのかも、分からないくらいに苛立った。
その苛立ちが、特別な感情の所為だなんて気付くのは、その日から数週間経ってから。黒龍の溜まり場に、ヒデさんが女と一緒に現れた。
その日はユリさんも黒龍の溜まり場にいて、私はユリさんの後をついて、黒龍の溜まり場にいた。相変わらず幹部の部屋で、リナはヨシキさんの隣に座り、コウは何故かシュンイチさんに話しかけて、カズキさんはそんなみんなの行動を見ては笑ってて、ユリさんも笑いながらソファーに座っていた。
そんな状況の中、急にヒデさんが女を連れて現れたことに、みんなが驚いた。
噂でヒデさんは女を連れて歩くことはないと、聞いていたから。
本気になる女の人はいない。
そういう噂があちこちで聞いていたから。
「ヒデ?」
カズキさんが驚き目を丸くして、女を見ていた。そのカズキさんに、ヒデさんは露骨にムカついた顔をして見せた。
「お前、その態度はねーだろ」
カズキさんに威嚇するヒデさん。だけどやっぱりみんなが、不思議そうに女に視線を向けていた。
「その女、誰だ?」
ヨシキさんがリナの肩から手を離し、大きく開いた足を組み、ヒデさんを見ていた。
「お前の女か?」
ヨシキさんの言葉に、私の胸が痛んだ。それがなんなのか分からない私は、ぎゅっと手に力を入れて耐えていた。
「そんなんじゃねぇよ」
ヒデさんはそう言うと、ヨシキさんから視線を外す。
「お前の女じゃねぇなら!ここに連れて来んな」
その声は黒龍ナンバー1としての声だった。
「怖いよぉ、ヒデく~ん」
女が発した声に、私はムカついた。ヒデさんの腕に、自分の腕を絡ませている姿にもムカついた。
「この人、なんなの~?ミユ、怖~い」
甘い声で言う女に、ヨシキを始めとするみんなが嫌そうな顔をする。
そんな雰囲気を感じ取ったのか、ヒデさんは女から離れ、ヨシキさんに顔を向ける。
私はそんないような空気の中にいられなくて、部屋から出て行った。
見たくなかった。
ヒデさんが女と一緒に歩く姿。
女と腕を組む姿。
見たくなかった。
それがどういう気持ちから来るものなのか、私はその時に気付いてしまった。
──私、ヒデさんが好きだ。
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