意地悪令息は絶交された幼馴染みに救われる

るべ

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四章

四章(8)

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小さく溢した言葉はシグルドに聞かせると言うよりも、独白に近いものだろう。ベイルが一方的にふざけて怒らせてはいたが、二人は顔を合わせれば付かず離れず、互いに意識していたように思える。
「マグノリア様が居なくなったことでアロイス様がどうでるか……エンリケが心労で倒れたらからかいにでもいきますか」
頭を掻きながら軽く言う姿が微笑ましく映る。これでベイルなりに心配しているのだから、素直じゃない。
「僕もそれを心配してる。ただでさえ苦しんでる二人に何も起きなければいいけど……」
アロイスはマグノリア同様、フィンネルも冷遇していた筈だ。母を失った今後はどのように扱われるのか……少なくとも晩餐の二人を見ているに改善されることは無さそうに見えてしまう。
しかし睡眠薬を用意していたのだから、哀れむ気持ちはあるのだろうか?シグルドの疑問は膨らむばかりだ。
「……坊っちゃんも疲れたでしょう。薄情にも兄上様は既に御就寝のようですし、身体を洗い流してさっさと寝てください」
気分が落ち込み始めたところ、ベイルが露骨に明るい声を出してトントンと肩を叩かれながら浴室へ向かわされた。大浴場とは違い、小さいながらタイル張りの浴室には小振りの陶器で出来た浴槽が備え付けてあり、たっぷりの湯で満たされていた。真っ白な湯気を見て少し気を持ち直したシグルドは一日の疲れを取るべく休み支度をするのだった。


──────────  


『◯月◇日。シグルドとシグルドの父様が屋敷に遊びにきてくれた。学院の制服の話をしたり、ティータイムを楽しんだ。シグルドのお父様はぼくの父様とお仕事のお話をしていたみたい。』

『◯月◯日。ジルド様が母様にお薬を届けてくれた。父様とジルド様と、もう一人お友達が探してくれたものなんだって言ってた。よくなったらいいな。』

『◯月△日。母様の調子が昨日よりもとてもいい!今日は父様が朝から来てくれたって笑ってた。母様が嬉しそうで僕も嬉しい。』

『◯月✕日。今日は母様が怒っている日だった。宥めたくても怖くてなかなか近付けなかった。父様に連絡がいって、父様が母様に会いに行ったら落ち着いたみたい。父様が母様に優しくなってくれた、とても良いこと。』

『◯月』

『◯月◇◯日。今日は』

暗い寝室の奥、壁の一角に小さな明かりが灯されるなか、手に持った万年筆を机に置くとカタンと音が響いた。
日記を付けている手帳には日付を飛ばした中途半端な数字と文字が並んでいる。これ以上書く意志が無くなったそれをぼんやりと眺めると、机の奥の方、壁に寄せた燭台の明かりを見詰めた。
炎の先はユラユラと揺れ動いてまるで生きているようだ。
万年筆の代わりに花のデザインが施された真鍮製のスナッファーを手に取り、炎に覆い被せた。
闇に包まれた視界、何も見えない、音もない。
優しさとも恐れともとれる静寂の中で、小さく息を吐き出すと力が抜けて机にうつ伏せた。
ここ数日のフィンネルの環境はガラリと変わり、心も不安定になっている。
あの、母を失なってしまった日から────。
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