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四章
四章(7)
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「エンリケは、悪くないのに、自分が悪いんだって……ずっと言ってて……ぼくが……ぼくがかあさまを……ころ」
「それは違う!フィンネル、お願いだから自分を悪く言わないで……全部不幸な事故だったんだよ……!」
胸を掻きむしりながら自責の念で苦しみだしたフィンネルをシグルドが慰めるように抱き締める。
きっと何度言っても心に刻まれた傷が癒えることはないかもしれない、けれどフィンネルだって被害者の筈だ。ぎゅっと力を込めればぐすぐすと鼻を啜る音が聞こえてきた。
「ぼく、母様のこと、大好きだった」
「うん」
「でも、だんだん怖くなった、んだ」
「うん」
「怒って、物を壊して、わからないことばかり言う母様が、怖かった……!」
「……うん」
「ぼくは……ぼくは……かぁさまになんてあやまれば……う……うぁ……」
ついには大声で泣き出してしまったフィンネルの背中を撫でながら、シグルドも涙が溢れてきてしまう。もしも自分と母が同じ境遇であったなら……そう考えただけでも恐ろしい。
暫く慰めていると、エンリケが帰ってきた。目は赤く腫れており、彼もまた泣いていたのが見てとれる。
シグルドが居たことに驚いたようだが、腕に抱かれながら泣いているフィンネルを見て事情を察したらしい。頭を下げると二人の前に跪き、何も言わずにフィンネルの頭を撫でた。
エンリケに気付いたフィンネルが顔を上げると、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。それを見たエンリケは声を僅かに震わせながら言った。
「フィンネル様、そろそろ就寝の時間ですよ」
「エンリケ、ぼく」
「大丈夫です、何も怖くないですからね。旦那様が寝る前に飲ませるようにと、お薬を用意してくれたんです。よく眠れるそうですから安心してください」
エンリケがポケットから小瓶を取り出してフィンネルに手渡すと、フィンネルは不安そうに両手でその中身の液体に口付ける。ほんのり甘い香りがシグルドの鼻腔にも届いた。甘い味付けの睡眠薬といったところだろうか。
「シグルド様も今日はお疲れでしょう、お部屋にお戻りになってお休みください」
「そうだね……ところでベイルは一緒じゃなかった?」
「先程まで共にいました。お恥ずかしながら、気弱になっていたところだったので……いつも通りの彼に慰められていました」
照れ臭そうに顔を半分てで覆い隠して苦笑した。その様子を見るにベイルはエンリケの支えになれたようだ。シグルドは知らずと笑みが込み上げてくる。
「フィンネル、僕は部屋に戻るけど大丈夫?」
「……うん、泣いちゃってごめんね」
「謝ることなんてないよ。悲しみを洗い流すためにも泣くのは大事だって、僕のお母様も言ってた」
「……うん」
視線を合わすことなく俯いたまま頷いたフィンネルは、飲みきっていない小瓶の中身を揺らすように弄んでいた。そして目を合わせることなく顔を軽く上げて少しだけ口角を上げてみせた。
「今日は……有難う。また明日ね」
「うん、お休み。フィンネル」
「お休みなさい」
扉が閉じるまで手を振って別れを告げ与えられている客室へ戻れば、ミケルとベイルが茶を飲んで寛いでいた。ベイルはシグルドが何処に向かったか伝え聞いていたからか、落ち着いて出迎えてくれる。
「お帰りなさい、坊っちゃん」
「ただいま。エンリケと会えた?」
「ええ、随分と弱っていたみたいですから甘えさせて本音を吐かせてやりましたよ……とは言え、今後が不安ですがね」
「それは違う!フィンネル、お願いだから自分を悪く言わないで……全部不幸な事故だったんだよ……!」
胸を掻きむしりながら自責の念で苦しみだしたフィンネルをシグルドが慰めるように抱き締める。
きっと何度言っても心に刻まれた傷が癒えることはないかもしれない、けれどフィンネルだって被害者の筈だ。ぎゅっと力を込めればぐすぐすと鼻を啜る音が聞こえてきた。
「ぼく、母様のこと、大好きだった」
「うん」
「でも、だんだん怖くなった、んだ」
「うん」
「怒って、物を壊して、わからないことばかり言う母様が、怖かった……!」
「……うん」
「ぼくは……ぼくは……かぁさまになんてあやまれば……う……うぁ……」
ついには大声で泣き出してしまったフィンネルの背中を撫でながら、シグルドも涙が溢れてきてしまう。もしも自分と母が同じ境遇であったなら……そう考えただけでも恐ろしい。
暫く慰めていると、エンリケが帰ってきた。目は赤く腫れており、彼もまた泣いていたのが見てとれる。
シグルドが居たことに驚いたようだが、腕に抱かれながら泣いているフィンネルを見て事情を察したらしい。頭を下げると二人の前に跪き、何も言わずにフィンネルの頭を撫でた。
エンリケに気付いたフィンネルが顔を上げると、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。それを見たエンリケは声を僅かに震わせながら言った。
「フィンネル様、そろそろ就寝の時間ですよ」
「エンリケ、ぼく」
「大丈夫です、何も怖くないですからね。旦那様が寝る前に飲ませるようにと、お薬を用意してくれたんです。よく眠れるそうですから安心してください」
エンリケがポケットから小瓶を取り出してフィンネルに手渡すと、フィンネルは不安そうに両手でその中身の液体に口付ける。ほんのり甘い香りがシグルドの鼻腔にも届いた。甘い味付けの睡眠薬といったところだろうか。
「シグルド様も今日はお疲れでしょう、お部屋にお戻りになってお休みください」
「そうだね……ところでベイルは一緒じゃなかった?」
「先程まで共にいました。お恥ずかしながら、気弱になっていたところだったので……いつも通りの彼に慰められていました」
照れ臭そうに顔を半分てで覆い隠して苦笑した。その様子を見るにベイルはエンリケの支えになれたようだ。シグルドは知らずと笑みが込み上げてくる。
「フィンネル、僕は部屋に戻るけど大丈夫?」
「……うん、泣いちゃってごめんね」
「謝ることなんてないよ。悲しみを洗い流すためにも泣くのは大事だって、僕のお母様も言ってた」
「……うん」
視線を合わすことなく俯いたまま頷いたフィンネルは、飲みきっていない小瓶の中身を揺らすように弄んでいた。そして目を合わせることなく顔を軽く上げて少しだけ口角を上げてみせた。
「今日は……有難う。また明日ね」
「うん、お休み。フィンネル」
「お休みなさい」
扉が閉じるまで手を振って別れを告げ与えられている客室へ戻れば、ミケルとベイルが茶を飲んで寛いでいた。ベイルはシグルドが何処に向かったか伝え聞いていたからか、落ち着いて出迎えてくれる。
「お帰りなさい、坊っちゃん」
「ただいま。エンリケと会えた?」
「ええ、随分と弱っていたみたいですから甘えさせて本音を吐かせてやりましたよ……とは言え、今後が不安ですがね」
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