【完結】淋しいなら側に

サイ

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4朱国にて

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 もやもやと、気持ちが悪い。緋王は居室を抜けると、朝廷の行われる執務室の方へ直行した。向かったのは史朗のいる書記官庁。寝衣の緋王に侍官は驚いた様子だったが、何も言わず通してくれる。
「史郎!」
 明かりがついているのを見て、緋王は勢いよく扉を開けた。ここは史郎の職場兼仮眠室である。千との時間を過ごすようになる前はよく入り浸っていた。
 史郎は蝋燭の明かりで残業をしているようだった。寝間着姿の王に驚いたものの、一瞬目を見開いただけですぐ元の表情にもどる。
「お前は……どうしてそう鉄面皮なんだ!」
「陛下」
 開口一番言うことがそれか。史郎は呆れ果てて額に手をやるしかなかった。頭痛すら感じる。
「何があったんですか」
 いきなりやってきて面と向かって悪口を、しかも寝間着のまま、こちらの都合も考えずに。色々言いたいことはあったが、それを飲み込んでただ質問したのはやはり史郎の方が大人だったからだろう。だが今はそういうところもよけいに腹が立つ。
 緋王はたたみかけるように史郎に先ほど千と言い争いになったことを話した。
 お前のせいでどうして口論などしなければいけないだ、と。あまりに理不尽な責め方だったが、まあ今に始まったことではない。
「子供相手に喧嘩ですか」
 大人げない。さすがにそこまでは口にせず、史郎は溜息をついた。
「お前のそういった態度が腹が立つんだ。大体、そうやって残業してまで何で千の相手をする!」
「残業はいつものことですし、そんなに長時間稀千君のお相手をした覚えはありません。そもそも陛下は何が言いたくてここまでいらしたんですか」
 忙しいから用件をすませて早く帰れ、と言わんばかりである。
「腹が立ったからだ!」
「何にです」
「……何、に?」
 さて。改めて言われてみると分からない。千に?いや、それは違う。史郎に……確かに腹は立つが、それだけでもないし。
「稀千君に暴言を吐いた自分にですか」
 見透かしたように言われ、むっとする。
「暴言など吐いてない」
「本当に?稀千君が黙ってしまう前何と言ったんです」
「何だったか……。関係ないとか、そんな事か?」
「私に聞かないでくださいよ。自分の言った事でしょう。ちゃんと思い出してください」
 しばらく考えて、緋王はああ、と手を打った。
「どういうつもりでここにいるのだと」
「それはひどい」
 間髪入れず責められ、緋王は押し黙る。
「どういうつもりも何も、忘れたんですか?あの子は人質としてここにいるんですよ。自分の意思とは関係ないでしょう」
「別にそういうつもりで言ったんじゃない。ただ、何でお前をそこまで庇うのかと」
「陛下……日頃主張のなさらない稀千君が庇われるほど、私を貶めるようなことをおっしゃったのですか」
「いや……」
 ばつの悪そうな顔をする緋王に小さく首を振る。そういったわざとらしいところがまた腹が立つのだが、今はそれも言えない。
「まあ、それは置いておいて。———陛下。良いですか。自分がどんなつもりで言ったかなんて関係ないんですよ。相手がどう受け取るかです。稀千君は人質で側室。そういった言われ方をすれば、官吏でもないのに口を出すな、もしくは人質の分際で王の自分に意見するのか、などと……受け取ってしまうでしょうね」
「……………」
「前から何度も言っているでしょう」
「どうせ俺は考えなしで物を言う。そう言いたいんだろう」
「まだ何も言ってませんし、一国の王がどうせなどと口にしないでください。———さあ、分かったら行く場所があるでしょう」
 緋王はそろそろと重い腰を上げた。謝罪というのは苦手である。重い背中に、史郎は声を投げた。
「陛下。覚えておいてください。近頃ようやく子供らしさも見られますが、稀千君はそれほど無邪気な若君というわけではないのですよ。十三歳と言えば早いものは成人しているとはいえ、彼はきちんと子供でいることを許されないままに来た子です。心に闇があるんです。貴方を見るときはいつもどこか一歩引いている。大姫様のこともありますが、前王の事もあるのでしょうし」
「父上の?」
「お忘れですか?彼は不破家嫡男。先王が身罷られた戦で、黒王の命により軽装備で出陣し戦死した大老の子。貴方にして見れば、稀千君は父君と妹君の敵でしょう」
「下らぬ。今さら。直接のことではない」
「———初めにそれを植え付けたのは貴方自身です。稀千君は絶対に貴方には逆らえない。それを肝に銘じておいてください」
「………………」
 だからなんだとは、言えなかった。緋王はただ黙って部屋を後にした。
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