【完結】淋しいなら側に

サイ

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4朱国にて

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「千、入るぞ……」
 そっと入った部屋は、もう明かりが消えていた。手持ちの燭台を机に置き、その薄暗い明かりの中で寝台に近寄った。返事はない。
 布団の合間から千の髪が流れていた。それにそっと触れる。寝息は聞こえない。
「千、寝たか」
 わずかに首を振る。まだ起きている。
「怒っているのか?千、こっちを向け」
 千はただ頭を振るだけだった。
「怒らせるつもりはなかった。傷つけるつもりも。俺はやはり言葉が足りぬ。ただ、腹が立ったのだ。お前が最近史郎の話ばかりするから。王である俺よりも史郎を頼るお前に。だからどういうつもりかなどと……」
 千はまた首を振った。顔を枕に押しつけ、こちらを見ようともしない。
 緋王は焦れて、力づくで千を起こした。細い身体は簡単に引き起こされる。
「千……お前、泣いていたのか」
 暗がりでも、うっすら頬が濡れているのが分かる。
 千はまた首を振った。
「俺はそれほど傷つけていたか」
「違います」
 か細く掠れてはいたが、しっかりした声だった。
「陛下は悪くない。謝らないでください」
「何故泣く。俺は史郎と違って鈍いのだ。言われねば分からぬ」
 視線は合わせないまま、千はぽつりと呟くように言った。
「情けないのです。俺は、あまりに勝手で」
「勝手?お前が?」
「俺は……幸せだったんです。父がしたことも知らず、毅旺様のしたことも分からず。その本当の意味も考えないまま、ここまで来てしまった。周りの人の優しさに甘え、自分の幸せに目がくらんで、何も見えてない。自分の立場も、周りの人たちも」
「やめろ」
 胸がえぐられそうになって、緋王は思わず千を抱いた。あまりに力を込めすぎて、千がわずかにうめく。
「そんな風に話すな。お前じゃないだろう。戦へ行ったのも、大姫を殺したのも。何故自分の罪のように話す。下らぬ!」
 緋王の怒りを感じ、千はますます力を失った。
「でも……決めたのは俺です。毅旺様の側室になることも、ここへ来ることも。決めたのは———」
「やめろ。お前が選べなかったことなど知っている。———皆がいつまでもお前の後ろを見ている訳じゃない。もう、いいんだ。頼むから忘れてくれ。俺が悪かった。初めにお前を責めた。心のやり場を求めて、ただ子供のようにお前に当たった。俺が悪かった。頼むから、自分を責めるな」
 千は首を振った。涙がまた流れてくる。
「陛下が何故謝るんです」
「後悔している。大人げなくお前に当たったこと。これほど、己の言った言葉がお前につき刺さるとは考えていなかった。それが俺に返ってくるなど」
「陛下に?」
 緋王は千を抱く手を緩め、千を見つめた。
「俺は史郎に妬いていただけだ。俺の放つ言葉に深い意味など無かった」
「妬いて、って……でも」
 緋王はそっと千の涙をぬぐった。柔らかい頬は、冷たくすっと緋王の指を滑らせる。
「千、お前を愛している。これは真実だぞ」
「陛下……」
「愛しているんだ」
 千はまじまじと緋王の目を見つめ返すと、またその瞳から涙をこぼした。緋王が怪訝な顔をする。
「何だ、まだ泣いているのか」
「本当ですか」
「何を疑う。俺がお前に嘘を言ったことがあったか」
「いいえ。———俺が信じられないんです。嬉しくて」
「こんな感情を持つなんて、俺も想像していなかった。頼る者もなくただ一人ここへ来たお前を、守ってやらねばと思っていた。そう思わせるほど、庭で震えていたお前は弱々しく幼かった。それが、花開くようにどんどん輝いていった。いつまでも俺の手で守ってやりたかったものが、あちこちへ出かけてゆくのをどれほど心配して見送ったか」
 苦々しく言う緋王に、千は少し笑った。
「俺は、王というのは黒王しか見たことがないから、王とは、ただ恐ろしいものだと思っていました。でも、緋王を見て本当に驚いたんです。家臣らと気兼ねなく話して、議論して、出した決断に揺るぎない自信を持って当たっていた。黒王の身の縮むような威厳とは違って、緋王の燃えるような王気に当てられて、いつでも俺は酔ったような気持ちで貴方を見ていたんです」
 千はまたふわりと笑った、頬にうっすらと赤みが差している。
「夢のようです。陛下」
時暁ときあきと呼べ。今ではもう誰一人呼ばぬ、俺の名だ」
「時暁様……」
 再び緋王に抱かれ、千は緋王の背に手を滑らせ、しっかりと緋王に抱きついた。広い背中は暖かく、安心する。緋王が小さく千の名を呼んだ。
 千が顔を上げると、緋王の唇が千に重なった。ゆっくりと、突然だが静かな口づけだった。唇が重なった途端、千の身体に満ち足りた感覚が走る。幸せすぎてまた、目の端から涙が落ちた。
 緋王の唇がそれを掬った。たまらなくなって、千は緋王にしがみついた。
「時暁様……好きです」
「俺もだ。———千、お前を抱く。良いか」
「はい」
 そんなことを聞かれたのは初めてで、千は照れくさいように笑った。緋王がその返事をほとんど待たず、千に強く口づけした。
 緋王はゆっくりと千の着物の襟を開いた。細く白い肩が現れ、帯を取ると、胸の突起が露わになる。千は恥じ入るように顔を背けた。
 緋王は安心させるようにまた千に口づけすると、片手で胸の突起を探り当て、優しくそこをいじり始めた。
「んっ……」
 唇を奪われているためくぐもった声しか出ない。次第に気持ちよくなって熱を帯びてくる身体は、もどかしく燃え始めていた。緋王の舌が首筋を伝い、胸の突起を探り当てた。舌で転がされ、優しく吸われ、千はつい緋王の肩に爪を立ててしまう。
「へいか……時暁、様」
 かろうじて名を呼ぶと、緋王は目線だけで千を見てくる。緋王の手が腰を滑り、千の下部に触れた途端、千は暑い息を吐いた。緋王の大きな手が千のものを包み込むと、ゆっくりと優しくさすり始める。
 緋王に触れられているというだけで、千のそこはすぐに立ち上がり先走りを漏らしていた。緋王はその滑りを借り、少し強くこすり始める。
千は気が遠くなりそうな意識を必死でとどめ、緋王の身体を押しやると、呼吸を整えた。
「どうした」
「俺、もう……我慢できません」
 言うと、千は緋王の帯を取り払い、緋王の着物をはだけさせた。筋肉質の身体が露わになり、すでに起きあがっている緋王のものもしっかりと見える。
 千は躊躇いなくそこに顔を埋めた。
「千……」
 緋王の驚いたような声も、耳にはほとんど入らなかった。なぞるように舐め、くびれを吸い、緋王のそれを咥える。舌を必死で動かした。緋王に喜んでもらいたい一心だった。
「うっ……せ、ん」
 緋王の苦しそうな声がする。緋王は今まで感じたことのないほどの快感の渦の中にいた。千の舌の巧妙さに戸惑いながらも快楽に身をゆだねるしかできない。
 千のさらさらした髪に手を差し入れ、思わず握ってしまう。自分の股に顔を埋める千が美しく妖艶で、さらに欲情を煽る。
「千……もう」
 余裕のない声に、千は舌使いをやめた。身を起こす千を寝台に押し倒すとそれに乗りかかる形で、緋王は十分に滑りを良くした自分のものを、千の秘部にあてがった。
「いいか?」
「早く……おねが…い」
 千の声にも余裕がなかった。緋王はゆっくりと、ぐっと千の中に入っていく。
「ふっ……う……」
 千の苦しそうな声に、一瞬緋王は怯んだ。しかしすぐに千が首を振る。緋王はとうとうすべてを千の中に入れてしまった。
「熱い、な……千、大丈夫か」
「だいじょ、ぶ」
 千の胸から腹にかけて手を這わせる。千の身体はびくりと反応し、それと同時に後ろもぐっと締め付けられる。緋王はたまらなくなって千に深い口づけをした。互いに舌を絡め吸い合いながら、緋王は徐々に身体を動かし始めた。
「ふっ、は……あ、そ、こ……」
 苦しげな声の中で、千がたまらない嬌声を上げた。
「ここか」
「はっ……も、わかん、な」
 突き上げるたび、千の色っぽい声が上がる。緋王にも余裕が無くなっていた。二人の息づかいが、交わり、早くなっていく。
「うっ、あ、もう……いっ」
「行くぞ、千……!」
 動きを早め、緋王は千の身体を抱いた。
「ああ、んっ……あああ!」
 千の声が叫びに変わった。その叫びに緋王は千のものを握りしめた。
「いや、そん、な……も……」
 千が激しく首を振った。それと同時に、緋王の手の中に多量の精子が放たれる。緋王もすぐに達した。
 二人は抱き合ったまま、横になった。
 しばらく息も荒く話もできなかったが、何もしゃべらなくても心は満ち足りていた。
「愛している、千」
 緋王のささやきに千はまた目頭が熱くなるのを感じた。
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