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5暗雲たちこめる
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会談の日取りはすぐに決まった。
国境の村へ出かける準備が着々と進む。史郎も全宇も同行するという。
「俺も行く」
そう言った千を、初め緋王は頑として許さなかった。しかし、これだけは千も譲れなかった。毎日散々話し合ったあげく、やっと同行を許された。最後にはほとんど無理矢理、千が押し倒す形で了承を得た。
緋王は最後まで納得していなかったが、当事者の自分が避けて通って良いはずがなかった。
出発してもまだ緋王は不服そうだった。やはり残れ、と一度許可したことを取り消すような事は言わないが、いつまでも不機嫌なままだった。
「怒ってます……よね」
旅程も終盤にさしかかって、夜。とうとうその雰囲気に耐えられなくなり千は呟いた。
「ああ、怒っている」
「時暁様……」
がっかりした声を上げる千に、緋王は乱暴な溜息をついた。
「姉を案じる気持ちは分かる。だがそれほど俺は信用がないか」
「違います」
千は慌てて否定した。
「いうとおりにすれば、この呪具がお前の身を焼くことはない」、黒王はそう言った。毅旺は暗に、来いと言っている。それが分かるから、自分が行かなければいけないと思う。行かなければ毅旺の目の前でこの身を焼かれるのだろうか。黒王はためらいなくこの呪いを発動するのだろう。初めから何も期待していなった、というように。
千に来るなと言うからには、時暁にもきっと考えがあるのだろう。姉達のことも、自分の事も守ろうと、この会談のために連日夜を徹して話し合っていたのは知っている。
だが呪具のことは呪により話せないし、そうなると黒王の意図も、時暁に説明するのは難しかった。緋王は背中を向けたまま、ろくに千を見ようとはしない。
「時暁様」
千は緋王の広い背中に抱きついた。
「怒っていると言っただろう」
「お願いです、許してください。———守られているだけなんて、俺には耐えられない」
緋王は答えない。泣きたくなるのを千は必死でこらえた。
「時暁様。分かってください。黒王は無情なお方です。とても時暁様お一人では」
「分かっている。奴の非道な様は、大姫、父上の件を見るまでもない」
「……………」
「今また、俺の大切なお前をどんな非情な手で奪わんとするのか、俺には想像が付かぬ。故にお前を連れては行きたくなかった。お前だけは」
「けれど、俺は逃げられない」
しっかりと、固い決意の表れた声音に、緋王は更に深刻な顔をする。
「……分かっている。一度許したものを、今さら帰れなど言わぬ。———怒っているのはお前を守ってやると確信し断言できぬ己の弱さにだ。それに腹が立つのだ」
「時暁様」
千はさっと緋王の前に回った。膝立ちすると、ちょうど緋王を見下ろす形となる。
「時暁様は立派なお方です。俺が今まで会った誰よりも、立派な王です。ご自分に腹を立てることなどありません」
恐る恐る、千は緋王の頬に手を当てた。
「俺は、時暁様の為なら何でもできます。俺にも時暁様を守らせてください。それくらいしなくては、こんなにいっぱい受けたご恩を、どうやってお返しすればいいのか」
緋王はしばらく黙って、ふと表情を和らげた。仕方ない、と言っているようだった。
「もう返してもらっている。———が、あと少し足りないか」
そう言って促すように、挑むような目で見てくる。千は少し顔を赤らめて、一瞬躊躇した。千からすることは滅多にないのだ。どうしても戸惑ってしまう。千は身を乗り出し、そっと緋王の唇と重ねた。自分が下を向くのも変な感じだった。少しずつ、緋王の唇を割って入り、舌を滑らせる。すぐに緋王は千の舌に答え、数秒後、耐えられなくなってその場に千を押し倒したのだった。
———これが最期かもしれない。
千はその思いを感づかれないよう、必死で平常を装った。
国境の村へ出かける準備が着々と進む。史郎も全宇も同行するという。
「俺も行く」
そう言った千を、初め緋王は頑として許さなかった。しかし、これだけは千も譲れなかった。毎日散々話し合ったあげく、やっと同行を許された。最後にはほとんど無理矢理、千が押し倒す形で了承を得た。
緋王は最後まで納得していなかったが、当事者の自分が避けて通って良いはずがなかった。
出発してもまだ緋王は不服そうだった。やはり残れ、と一度許可したことを取り消すような事は言わないが、いつまでも不機嫌なままだった。
「怒ってます……よね」
旅程も終盤にさしかかって、夜。とうとうその雰囲気に耐えられなくなり千は呟いた。
「ああ、怒っている」
「時暁様……」
がっかりした声を上げる千に、緋王は乱暴な溜息をついた。
「姉を案じる気持ちは分かる。だがそれほど俺は信用がないか」
「違います」
千は慌てて否定した。
「いうとおりにすれば、この呪具がお前の身を焼くことはない」、黒王はそう言った。毅旺は暗に、来いと言っている。それが分かるから、自分が行かなければいけないと思う。行かなければ毅旺の目の前でこの身を焼かれるのだろうか。黒王はためらいなくこの呪いを発動するのだろう。初めから何も期待していなった、というように。
千に来るなと言うからには、時暁にもきっと考えがあるのだろう。姉達のことも、自分の事も守ろうと、この会談のために連日夜を徹して話し合っていたのは知っている。
だが呪具のことは呪により話せないし、そうなると黒王の意図も、時暁に説明するのは難しかった。緋王は背中を向けたまま、ろくに千を見ようとはしない。
「時暁様」
千は緋王の広い背中に抱きついた。
「怒っていると言っただろう」
「お願いです、許してください。———守られているだけなんて、俺には耐えられない」
緋王は答えない。泣きたくなるのを千は必死でこらえた。
「時暁様。分かってください。黒王は無情なお方です。とても時暁様お一人では」
「分かっている。奴の非道な様は、大姫、父上の件を見るまでもない」
「……………」
「今また、俺の大切なお前をどんな非情な手で奪わんとするのか、俺には想像が付かぬ。故にお前を連れては行きたくなかった。お前だけは」
「けれど、俺は逃げられない」
しっかりと、固い決意の表れた声音に、緋王は更に深刻な顔をする。
「……分かっている。一度許したものを、今さら帰れなど言わぬ。———怒っているのはお前を守ってやると確信し断言できぬ己の弱さにだ。それに腹が立つのだ」
「時暁様」
千はさっと緋王の前に回った。膝立ちすると、ちょうど緋王を見下ろす形となる。
「時暁様は立派なお方です。俺が今まで会った誰よりも、立派な王です。ご自分に腹を立てることなどありません」
恐る恐る、千は緋王の頬に手を当てた。
「俺は、時暁様の為なら何でもできます。俺にも時暁様を守らせてください。それくらいしなくては、こんなにいっぱい受けたご恩を、どうやってお返しすればいいのか」
緋王はしばらく黙って、ふと表情を和らげた。仕方ない、と言っているようだった。
「もう返してもらっている。———が、あと少し足りないか」
そう言って促すように、挑むような目で見てくる。千は少し顔を赤らめて、一瞬躊躇した。千からすることは滅多にないのだ。どうしても戸惑ってしまう。千は身を乗り出し、そっと緋王の唇と重ねた。自分が下を向くのも変な感じだった。少しずつ、緋王の唇を割って入り、舌を滑らせる。すぐに緋王は千の舌に答え、数秒後、耐えられなくなってその場に千を押し倒したのだった。
———これが最期かもしれない。
千はその思いを感づかれないよう、必死で平常を装った。
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