26 / 29
8夢か現か
1
しおりを挟む
繰り返し、同じ夢を見た。
父が現れた。
「お前は、どんな大人になるのだろうなあ」
そっと撫でてくれた手は大きくて温かい。
母が現れた。
「父上のように、立派な男になるのですよ」
温かい手が、自分を抱きしめてくれる。
姉が現れ、優しく叱ってくれる。今まで会った、いろんな人がいろんな事を行っ言って去っていった。
声をかけられる温かさと去っていってしまう寂しさに、胸がちりちりと痛む。
そして、毅旺が現れる。
「毅旺様!」
千は自分から声をかけた。
毅旺はなかなか振り向かない。黒い袖をつかもうとして……手がのびなかった。
「あれ……」
毅旺が、背を向けたまま去っていこうとする。
「毅旺さま?どこへ行かれるのですか?お供を」
「供などいらぬ」
背を向けたままの、毅旺の声。
「でも、お一人ではないですか。危ないです」
「いいのだ、これで……」
声が遠のいていく。必死で追いすがろうとするのに、足が動かなかった。
「毅旺様!」
叫んでも、毅旺は振り向きもしない。後ろ姿しか見せず、どんどん行ってしまい、ついには見えなくなってしまった。
急に哀しくなって、千は涙をこぼした。
どうして置いていってしまうのだ。一緒に行くと行ったのに。行く……行く?どこにだったのだろう。
「———ろ、千!」
名を呼ばれ、振り返る。
今まで暗かった辺りに、光が差すように明かりが増えた。
まぶしくて、目を細める。
「誰?」
「千、俺だ、時暁だ。起きるんだ。さあ、目を開けろ」
「俺は、起きてます。時暁様、まぶしい」
光がさらに大きくなり、とうとう目は開けられなくなった。何もかもが、真っ白になっている———。
「———千?目が覚めたか」
「……………」
そっと額を撫でられ、返事もできずに相手をまじまじと見つめた。
懐かしい声。顔。
「俺が分かるか?」
「———時暁さま」
声はかすれていた。のどの痛みが、意識を急に現実に引き戻す。
「水を飲むか」
千は小さく頷いた。
軽く身を起こしてもらい、水を口に注がれる。乾いたのどには甘く感じる水だった。
唇の端から滴が落ち、無意識に手で拭おうとして———手が、のびてこなかった。気づいた時暁がすぐに唇をぬぐってくれた。
先ほどから感じていた鈍い痛みは、この腕だったのだ。呪のあった場所が、ごっそり腕ごと無くなっている。
「俺、生きてる」
「ああ、死んでない。———もっと回復したら全部説明してやる。今はとにかく、身体を休めろ」
「時暁様……本当に、時暁さま?」
「ああ、本物だ」
少し、怒ったような表情。せっかく会えたのに、と少し残念な気分である、それを察してか、時暁は軽く溜息をつくと、そっと千の瞼に唇を寄せた。
「とにかく、眠れ。側にいるから」
残った方の腕をしっかり包んで握られて、千は安心してまた眠りについた。
父が現れた。
「お前は、どんな大人になるのだろうなあ」
そっと撫でてくれた手は大きくて温かい。
母が現れた。
「父上のように、立派な男になるのですよ」
温かい手が、自分を抱きしめてくれる。
姉が現れ、優しく叱ってくれる。今まで会った、いろんな人がいろんな事を行っ言って去っていった。
声をかけられる温かさと去っていってしまう寂しさに、胸がちりちりと痛む。
そして、毅旺が現れる。
「毅旺様!」
千は自分から声をかけた。
毅旺はなかなか振り向かない。黒い袖をつかもうとして……手がのびなかった。
「あれ……」
毅旺が、背を向けたまま去っていこうとする。
「毅旺さま?どこへ行かれるのですか?お供を」
「供などいらぬ」
背を向けたままの、毅旺の声。
「でも、お一人ではないですか。危ないです」
「いいのだ、これで……」
声が遠のいていく。必死で追いすがろうとするのに、足が動かなかった。
「毅旺様!」
叫んでも、毅旺は振り向きもしない。後ろ姿しか見せず、どんどん行ってしまい、ついには見えなくなってしまった。
急に哀しくなって、千は涙をこぼした。
どうして置いていってしまうのだ。一緒に行くと行ったのに。行く……行く?どこにだったのだろう。
「———ろ、千!」
名を呼ばれ、振り返る。
今まで暗かった辺りに、光が差すように明かりが増えた。
まぶしくて、目を細める。
「誰?」
「千、俺だ、時暁だ。起きるんだ。さあ、目を開けろ」
「俺は、起きてます。時暁様、まぶしい」
光がさらに大きくなり、とうとう目は開けられなくなった。何もかもが、真っ白になっている———。
「———千?目が覚めたか」
「……………」
そっと額を撫でられ、返事もできずに相手をまじまじと見つめた。
懐かしい声。顔。
「俺が分かるか?」
「———時暁さま」
声はかすれていた。のどの痛みが、意識を急に現実に引き戻す。
「水を飲むか」
千は小さく頷いた。
軽く身を起こしてもらい、水を口に注がれる。乾いたのどには甘く感じる水だった。
唇の端から滴が落ち、無意識に手で拭おうとして———手が、のびてこなかった。気づいた時暁がすぐに唇をぬぐってくれた。
先ほどから感じていた鈍い痛みは、この腕だったのだ。呪のあった場所が、ごっそり腕ごと無くなっている。
「俺、生きてる」
「ああ、死んでない。———もっと回復したら全部説明してやる。今はとにかく、身体を休めろ」
「時暁様……本当に、時暁さま?」
「ああ、本物だ」
少し、怒ったような表情。せっかく会えたのに、と少し残念な気分である、それを察してか、時暁は軽く溜息をつくと、そっと千の瞼に唇を寄せた。
「とにかく、眠れ。側にいるから」
残った方の腕をしっかり包んで握られて、千は安心してまた眠りについた。
13
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~
季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」
その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。
ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。
ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。
明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。
だから、今だけは、泣いてもいいかな。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる