夢と現実と狭間の案内人 [特発性過眠症患者の日常とは]

巴崎 サキ

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第2章 通常の眠気と、睡眠発作の症状との違い

いざ、本社入社式へ

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 約束の集合時間5分前に玄関前へ降りていく。

 すると、既に外に立っている女性がいた。

 口のあたりから紫煙が上がっているので、ほぼ誰かは特定できる。

 彼女は、こちらの足音に気づくと振り返り

「おっ!!ちゃんと、5分前行動!!えらい!えらい!!」

 と、話しかけてきた。

(⋯⋯えっ?)
「⋯⋯⋯⋯」

 あたしは、即座に返事をできなかった。
 一瞬、誰かわからなかったからだ。

 声から察するに、  “純奈さん”  で、あることは間違いない。

 しかし⋯⋯

「⋯⋯本気出すと、純さんって綺麗なんですね!!」

 あたしは、冗談交じりに返事をする。

 ついさっきまでの彼女は、スッピンに、髪は寝癖でボサボサ。
 それを、ヘアーバンドで前髪ごと上げてなんとか誤魔化しているような状態。(顔を洗う為もあると思うが⋯⋯)

 ここ二日間も、”めんどいし~”  ”ダルいし~”  と言って、髪を適当に括ると、メイクはせずマスクだけしてコンビニに行くような感じだった。

 それが、スーツに身を包み髪もメイクも完璧に仕上げてきている。

 同じく、社会人初日を迎えたばかりであるはずなのに、あたしなんかとは比べ物にならないほど圧倒的に大人びていた。

 5歳差とは、ここまで差がでるものなのか。

 失礼ながら、ここまで変わるとは思わなかった。

「それ⋯⋯褒めてんの??」

 純奈さんは、目を細めながらそう言うと赤い箱をこちらに投げてくる。

「こっから、しばらく吸えなくなるだろうからね。吸い溜め!吸い溜め!!どうぞっ」

「あっ!ありがとうございます。」

 あたしは、箱から1本取り出すと火をつける⋯⋯が、付かない。

「厄介な風だねぇ。じゃ、こっち使って!!」

 そう言うと、シルバーの高価そうな細いターボライターをカバンから出して貸してくれた。

「用意いいですね。常時2つ持ってるんですか??しかもこれ、高そう」

「そうそう。ちょっとだけお値段してるかな。まぁ、たかが風如きに私のモクモクタイムを邪魔されたくないからね。このターボはこういう風の強い日やBARとかに飲みに行く時用かな。ガスの減り早いから、基本は百円ライターだけど。」

(へぇ。時と場所によってアイテムを使い分けるか~。ふむふむ)

 あたしは、少しタバコを吸うようになったからって、他の同級の子達より大人になった気がしていた。

 だが、そんな勘違いをしているあたしなんかとは格が違った。


「しかし⋯⋯寒いですね。」

 あたしは、そう言うと肩をすくめる。

 4月に入ったとはいえ風の強さは相変わらずだった。
 時折、ドーーンと言うような大きな音とともに突風すら起きる始末。

 そのおかげか、雲は1つもない見事な快晴ではあるのだが。

「ホントだよね。寒いわ~。けど、もう迎えが来るはずだし、それまでの辛抱だね」

 今日は、人事課長が直々に寮まで迎えにきてくれ、本社まで連れて行ってくれることになっている。

 その時間が  7:30  だった。

 タバコも吸い終わり、時間を確認する。

 現在、7:35


「あっ!!来たかな。あれじゃないですか??」

 あたし達は道路を覗くと、白のクラウンがこちらに向かってきている。
 これまで工場へ入っていく大型トラックしか見かけなかったこの道。

 ほぼ、間違いないだろう。

 慌てて風で乱れた身なりを正していると、案の定クラウンは寮内へ入ってくる。

「おはようございます」
「おはようございます」

 あたし達は、降りてきたドライバーに向かって元気に挨拶をした。

 人事課長が迎えに来てくれると聞いてはいるが、正直なところ人事課長の顔を知らない。

この人が、課長なのか、ただのドライバーなのか⋯⋯。

(⋯⋯あっ!!)

 しかし、あたしが顔を上げるとそこには知っている顔があった。

(面接の時に、色々聞いてきた人⋯⋯)

 あたしは、思わず純奈さんの顔を見る。

 が、その顔に動揺の色はなかった。

 人事課長なのだから当然面接官に加わっていても不思議ではない。

「お久しぶりです。面接の際は、大変お世話になりました。本日は、よろしくお願いします」

 純奈さんは、間髪をいれず話しかける。

「あっ⋯⋯よろしくお願いします」

 あたしも、慌てて続く。

 就職氷河期の中、何十社も面接を受けてようやく内定を掴んだ彼女と、高校が後ろ盾になり、就職試験を一発でクリアしてしまったあたしとでは、くぐってきた世界が違った。

 一つ一つ先を行かれる。
 が、仕方のないことだった。


「おぉ~、おはよう。朝から元気がいいねぇ。
石原さんと、若宮さんだね。
石原さんは、話の感じからして覚えてそうだけど、若宮さんは私のこと覚えてるかね??」

 と、課長は少々意地悪っぽく笑顔であたしに質問してきた。

「はい。もちろんです。面接の時は、自分の夢や趣味、学校での部活の事など色々お話できて楽しかったです」


「えっ?楽しかったの??」

 純奈さんは不思議そうに聞いてくる。

「ま⋯⋯まぁ。楽しかった⋯⋯ですね。
夢の話や、学校でのことなどをいろいろ聞かれて話してたら、雑談みたいになって。他の人たちより面接時間長かった気もしたし。」

 ポカーンとしている純奈さんを置いて、課長が続く。

「若宮さんは、面接でよくあるタイプの方とは違っててね。
大体の人は、事前に聞かれるであろう質問に対しての答えを用意していて、それを覚えてきているから返答は早いんだけど、表情が変わらなくてね。淡々と答えるというか。
けど、若宮さんは質問に対して一つ一つ真剣に悩み考え、返答してきたんだよ。
特に、表情が印象的でね。
質問ごとにコロコロ表情を変えるんだよ。
夢を聞いたときは、すごい楽しそうな表情で答えて、後輩の指導育成について聞いた時は、返答を聞かずとも『しんどかったんだろうなぁ~』と、わかるようなね。
あっ!君、因みに質問攻めしていたのは私ではなく隣にいたもう一人の課長だよ」

 あたしは、そう言われると面接時の光景を思い出す。

 面接官は3人。

 真ん中に、この人事課長。
 そして、右手側に白髪混じりの初老。
 大人しめな顔の印象がある。特にこれと言って質問はしてこなかった覚えがある。
 最後、左手側に大袈裟抜きで鬼瓦そっくりの相当イカツイ顔をした方が座ってた。
 恰幅が良い方で(相当お腹が出ていた)、声も低く3人の中で特に目立っていた。

 この鬼瓦の様な課長が、確かに色々と聞いてきていた。

 そして、面接の最後には

『じゃ~、若宮さん。これからよろしくっ!!』

 と、言われその課長と握手して終わったのだ。

 あたしは、その時には『これから』の意味や、『握手』の意味がよくわからなかった。

 帰り道、

(これからよろしく??これから⋯⋯ん~、これからがあるってことで、いいのかなぁ??)

 など、色々考えていたのを覚えている。

 その矢先、採用通知が届いた。


「あっ!!最後に握手したあの方ですか??」

 情景を思い出したあたしは、人事課長に確認する。

「はぁ??握手??」

 と、純奈さんは目を丸くして不思議がる。

「まぁ、あの面接の終わり方は異例だよ。じゃ、そろそろ行こうか。ここに居ても冷えるし。さぁ、車乗って」

 あたし達は、課長に促されると車に乗り込み、本社へと向かった。
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