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#29
しおりを挟む「グアアアアアアアアアアア」
「キャアーーーー」
目の前に現れた〝その竜〟の放つ禍々しい魔気はーーその場にいる全員に戦慄を与えた。
「これ……が、この階層の……ボス……」
セシリアもまた、その戦慄に乗せられて恐慌状態に陥る一人だった。
「まずい……今ここにまともにやり合える奴なんていねぇぞ……!誰か……」
誰か……?一体誰がこの状況を打破できるって言うんだーー?
今〝あいつ〟とまともにやり合えるのはオレだけだろうが……!!
歯噛みをし、ダッーーとポピィの元に駆け寄るユウキ。
〝竜〟が振り下ろす刃の如きかぎ爪を、ポピィを抱えすんでのところで回避する。
「た、助かりました……!ありがとうございます、ユウキさ……」
ポタッ、ポタッと。
ポピィの額に、血が流れ落ちる。
否ーー、ユウキの背中に触れたポピィの手が血でベットリと赤く染まっていたーー。
「ハァ……ハァ……、大丈夫かーーポピィ?」
ニィッ、と不敵なーーしかし顔色を悪そうに笑うユウキ。
「ユ……ユウキさん。血が、このままじゃーー」
「ハァ……ハァ……、心配すんな。これくらい、かすり傷……っ!ゲホッ!ゴホッ!」
明らかにどんどん顔色の悪くなっていくユウキ。
「ユウキさんっ!しっかりしてください!ユウキさん!!」
涙をポロポロと溢しながら、ポピィが泣きつく。
とーー、そこに
「あの……ポピィさん!よかったらこれ……使ってください!」
セシリアが緑色の液体の入った小瓶を手渡す。
「こ……これって?」
「回復のポーションです!……万が一の時のために、二本だけですが、持ってます!まだ後一本あるので、遠慮せずに使ってください!!」
さすが魔法使いと言った所だろうか?Cランクながらに危機管理のしっかりとしたセシリアの対応にパァッと顔色の良くなるポピィ。
「ありがとうございますーー!遠慮なく頂きます!」
そうして回復ポーションを、ユウキに飲ませる。
「ゴクッ、ゴクッ、ゴクッーーハァ……悪ィな、助かった、セシリア……ポピィ……」
次第に意識の戻ってくるユウキ。
「よかったです……ユウキさん!ハッーーそうだ。〝アイツ〟は!?」
背後にいた竜に視線をやるポピィ。
しかしどうしてか、その竜はポピィ達の気配を探知できずにいたーー。
「言っただろう……?〝潜伏〟は初心者なら真っ先に覚えるべき魔術だってさ……」
ニヤッ、と不敵に笑うユウキ。
あのかぎ爪の攻撃の直後、ユウキ、ポピィ、セシリア、スライム全員に〝潜伏〟をかけたユウキの判断によって、現在〝竜〟は全員の姿を見失っていた。
「ふふっ、あの〝インチキ魔法〟がこんなに役に立つなんて、何事も〝使う人と使い方〟なんですね!」
すっかり調子の戻ったポピィの深みのある言い方に、ジト目をするユウキ。
しかしーー、
「いいか?アイツは間違いなく普通じゃねぇ……今まで白のダンジョンや黒のダンジョンに何度か行った事があるが、あんなレベルの奴はそういるもんじゃねぇ……」
「白のダンジョンに黒のダンジョンーー!?〝勇者パーティー〟クラスしか入れないダンジョンなのに……ユウキさんって一体何者なの?」
目を大きく開けて驚くセシリア。
しかし、ユウキにもポピィにも、その問いに答える余裕などなかったーー。
「勝算ある?ユウキさんーー?」
しばしの間、深く考え込むユウキ。
(本当は〝この力〟は二度と使いたくなかったーー。が。〝アイツ〟は別格だーー!次見つかれば間違いなくやられるだろう……だったらーーやるしかない!!)
ギリッと歯噛みをし、覚悟を決めるユウキ。
「勝算はあるーーだが、時間との勝負だ。」
そう言うとユウキは立ち上がってーー軽くストレッチをして、首をゴキゴキッと鳴らす。
「いいか?ポピィーー」
そう言って、今まで纏っていたユウキの魔気が、全く別の〝異質なモノ〟へと変貌する。
「上限色覚の発動条件は主に〝3つ〟だ。一つ目は、絶望にも勝る煮えたぎるようなーー忘れられない程の大きな〝怒り〟ーー。」
『なんで……なんでこんな……!!どうして……!!』
ふと、自身の家族を失ったあの日の光景が蘇る。
絶望にも勝る煮えたぎるようなーー忘れられない程の大きな〝怒り〟。
「二つ目が、自分が絶対に譲れねぇと決めたーー〝守るべき存在〟ーー」
『ヒュイは私がーー絶対に守る!!』
『ここにいる人達は、まるで家族みたいに暖かいーー』
カーヴェラの屋敷での、あの日々を振り返る。
自身が絶対に譲れないと決めたーー〝守るべき存在〟
『三つ目ーー、目の前にいる奴をぜってぇに潰すっていうーー〝覚悟〟だーー!!』
ふわっーーと、ユウキの髪と瞳の色が、白い色へと徐々に変化していく。
目の前にいる奴を絶対に潰すというーー〝覚悟〟。
〝変身〟が完了した後のユウキの姿は、先程までと見た目自体は髪と瞳が白くなっただけだが、内側に眠る得体の知れない〝何か〟が決定的に違っていたーー。
とーー、ユウキの上限色覚による〝変身〟をもって〝竜〟がこちらの存在に気付くーー。
「グアアアアアアアアアアアッーーー!!!」
「ヒイッーー」
〝竜〟の咆哮により、空間全土が反響して骨のずいまで恐怖感に襲われる。
「へっーー、化け物。ちっとばっかし遊んでやっかーー!!」
ユウキの人差し指と中指を立てて挑発する姿はーー、ポピィの知るユウキよりも一段と不敵な存在だったーー。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「や~いや~い、〝悪魔の子〟!」
「お前~!なんで俺たちの公園で遊んでるんだよっ!?さっさとどっかいけよーー!」
「父さんが言ってたぜ?週末には《聖国》から騎士がやってきてお前を捕まえにくるってな!ざまあ見ろ~!あっははは!」
石を投げられ、蹴られ、殴られ、罵倒され続けた俺の人生。
両親には〝悪魔の子〟だからと捨てられて、近所のガキ共から大人までオレに侮蔑の目線で唾を吐く。
いつ殺されてもおかしくないし、殺した奴を裁・く・道・理・も・な・い・程、俺の存在は生まれついてから〝汚れて〟いたーー。
生まれ付いた時から俺はーー人生の全てがどうでもよかったーー。
〝あいつ〟に会うまではーー!
「ちょっとお!やめなさいよあなた達!一人相手に寄ってたかって……恥ずかしいったらありゃしない!それでも男なの!?」
「うわ……来たあ!女の〝ガキ大将〟エリだーー!」
「逃げろ~!!」
あいつは、いつも俺なんかを庇っていた……。
「あ、こら!待ちなさい!!……全く、どうしようもない奴らなんだからーー」
白紫色の髪と瞳の女の子ーーエリは、いつも俺の味方だったーー。
「ほら、アンタも大丈夫?」
そんなアイツを置いてーー俺は勝手にパーティーを抜けた……。
罪悪感は確かにあった……でも、やはり怖かった。
いつか他のメンバーに俺の〝正体〟が知られたらと思うと、怖かった。
正直〝勇者パーティー〟とか、そんなのはどうでも良かったーー。
ただ俺は、お師匠やエリみたいに、ただ認めてくれる奴が欲しかったーー。
でも、やっぱり〝この力〟は嫌いだ。
いつも俺の人生の足を引っ張った。
いつも俺の人生をめちゃくちゃにしてきた。
〝悪魔の血〟と呼ばれた〝反転血種〟。
人間でありながら魔族の力を持つーーそんなクソッたれな力だ。
そのせいでいつまで経ってもEランクのままで、結局メンツのためにパーティーを追われた。
これからもずっと俺の足を引っ張り続けるのだろう……。
だったらいっそもうそれでもいい!その代わーー今だけは!今この瞬間だけは、俺に力を貸せーー!
あのクソみたいな〝竜〟をさっさとぶっ潰して、お師匠の屋敷にみ・ん・な・で・帰・る・ーー!
「さぁーーやろうぜ〝化け物〟!!」
大胆不敵に挑発するユウキ。
〝謎の竜〟VSユウキの、死闘が始まったーー!
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