銀の繭に眠る贄

猫森満月

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番外編:黒い糸の終焉(エピローグ

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 月代 蒼司の独白
 屋敷は、二人の少年が去った後、異様なほど静まり返っている。

 春臣と透夜が消えてから、もう一年以上の月日が流れた。世間は、若き天才人形作家の失踪に話題をさらったが、この隔絶された森の中で、彼らの存在を知る者は、私と、冷たい糸だけだ。

 応接間のソファに腰掛ける私の視線の先には、春臣が残した未完成の少年人形「星の王子」がある。柔らかな栗色の髪、優しげな瞳。それは、春臣自身の繊細な美しさを映し出す鏡のようだった。

 私は、彼の才能を愛した。彼の指先が粘土を捏ね、布を縫う姿は、私の狂気に美的な正当性を与えてくれた。だが、愛は手段に過ぎなかった。私の真の執念は、病に倒れた恋人、透夜の再生という、禁忌の美の完成にあった。

 あの夜、春臣が私の告白に絶望し、逃走を図ったとき、私は初めて、計画の美学よりも、人間的な喪失の痛みを味わった。春臣の、裏切られた愛による絶叫が、今も耳から離れない。

 そして、透夜の最後の姿。

 春臣の魂を完全に吸収し、琥珀色の光を宿した彼の瞳。それは、私の恋人、透夜の魂の美しさと、春臣の献身的な愛と才能、そのすべてを内包した、究極の「作品」だった。彼は、私が五年間、繭の中で果たせなかった「人間化」を、春臣という最高の依り代を得ることで、成し遂げたのだ。

「春臣くん……君は、私の愛を憎悪に変え、永遠の美を選んだ」

 彼は、私という支配者の檻からも、麗子という俗物の鎖からも逃れ、透夜という愛する存在の一部となることで、真の自由を得た。その肉体は、魂の抜けた**「生きた人形」と化したが、その選択は、春臣自身の破滅的な情熱**の結晶だった。

 私は今も、この屋敷で人形造りを続けている。だが、以前とは違う。

 私の工房には、新たな人形が増え始めている。それは、黒い糸と冷たい陶器で造られた、一対の少年人形だ。

 一方は、銀色の髪と琥珀色の瞳を持つ、永遠に満たされた美しさを持つ少年。もう一方は、栗色の髪と人形のような白い肌を持つ、魂の空虚を湛えた美少年。

 私は、彼らが去った場所で、彼らの**「愛の形」**を、私自身の手で永遠に記録しようとしている。

 麗子の遺体は事故として処理された。春臣の失踪は謎となった。世間は何も知らない。

 だが、私は知っている。あの二人は、今もどこかで、血と糸で結ばれた、二人だけの永遠の世界を生きている。

 私は、彼らの去った仕掛け扉を静かに見つめた。

「君たちが選んだ**『禁忌の愛』**は、確かに究極の美だった。私もまた、この孤独な屋敷で、黒い糸の芸術を続ける。永遠に、君たちの美を求めながら……」

 蒼司は立ち上がり、静かに工房へ向かった。彼の黒い着物の裾が、冷たい床に擦れる音だけが、屋敷の静寂を破る。

 彼の指先は、今、新たな人形の顔に、永遠の美と狂気を刻みつけようとしていた。それは、終わることのない、人形師の業の終焉(おわり)だった。
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