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第17話:魂の融合と蒼司の選択
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春臣の意識は、透夜の冷たい唇が首筋に触れた瞬間から、白く、甘美な光の中に溶け始めた。透夜の吸飲は、これまでのどの夜よりも深く、春臣の肉体だけでなく、その感情、記憶、そして魂そのものを、根こそぎ奪い取っていくようだった。
「春臣くん!」
蒼司の叫び声は遠く、もはや春臣の耳には届かない。春臣は、目の前に広がる白い光の中で、麗子の醜悪な欲望、蒼司の冷酷な裏切り、そして透夜の純粋な愛の全てが、一本の糸のように結びつき、自分を永遠の美へと誘っているのを感じていた。
「大丈夫……僕のすべてを、透夜に……」
春臣の脳裏に、自分が最も愛した人形造りへの情熱が蘇る。彼は、自らが愛した芸術の究極の形、生きた人形となる運命を、この瞬間、自ら受け入れたのだ。
透夜は、春臣の魂が完全に融合するまで、その吸飲を止めなかった。
数分後、透夜はゆっくりと顔を上げた。彼の無色の瞳は、今や光と、深い色を宿していた。それは、春臣の琥珀色の優しい瞳の色であり、同時に、蒼司の鋭い切れ長の目の色でもあった。透夜は、春臣の生と魂、そして蒼司の狂気の執念によって、ついに**「完全な存在」**へと昇華したのだ。
透夜は、春臣の身体を抱きしめたまま、静かに立ち上がった。
春臣の肉体は、完全に力を失い、その顔の白い紋様は、全身に広がっていた。皮膚は人間的な温かさを失い、磨き抜かれた陶器のような質感となっていた。春臣の肉体は、もはや**「魂の抜けた、究極に美しい人形」**と化していた。
蒼司は、その光景を前に、膝から崩れ落ちた。彼の目的は透夜の完成だったが、春臣という愛弟子を失うという現実が、彼の心を激しく打ち砕いた。
「春臣くん……私の……過ちだ」
蒼司の頬を、冷たい涙が一筋、伝った。彼の冷徹な芸術家としての仮面が剥がれ落ち、人間的な後悔が露出した。
透夜は、その涙を見ても感情を示すことなく、春臣の魂を宿した瞳で、蒼司を見つめた。
「お父様」
透夜の声は、昨日までの抑揚のない声ではなく、春臣の優しさと、透夜自身の無垢さを併せ持った、澄んで美しい響きを持っていた。
「お兄様は、僕の中で生きている。永遠に、僕たちと一緒」
透夜は、春臣の冷たくなった身体を抱きしめたまま、書斎の壁にある、古い仕掛け扉の前に立った。
「僕たちは、もう、ここにはいられない」
透夜は、春臣の魂と融合したことで、蒼司の**「狂気の檻」**から、春臣を連れ出すことを選択した。
蒼司は、春臣の亡骸を抱く透夜の姿に、自らの過去の恋人と、裏切った弟子の二つの魂を見いだした。彼の心は、絶望と後悔に支配され、もはや透夜を止める力は残されていなかった。
「……行け」蒼司は力なく呟いた。「君たちが、望む場所へ」
透夜は、春臣の肉体を抱え、仕掛け扉の奥へと消えていった。扉は音もなく閉まり、屋敷の静寂が戻った。
蒼司は、床に座り込んだまま、春臣の魂が消えた廊下を見つめた。彼の愛と、狂気が生んだ究極の美は、彼の孤独の中に、永遠の空虚を残して去っていった。
数週間後。
世間では、若手人形作家、花房春臣が、師である月代蒼司の屋敷から失踪したというニュースが流れた。彼の未完成の作品「星の王子」だけが、工房に残されていた。
そして、ある山奥の村で、銀色の髪と琥珀色の瞳を持つ、一人の美しい少年が、一人の人形のような青年を抱きかかえ、静かに暮らしている姿が目撃されたという噂が、人知れず囁かれていた。
それは、美と狂気、愛と破滅が、永遠に結びついた、繭の中の少年たちの、静かな始まりだった。
「春臣くん!」
蒼司の叫び声は遠く、もはや春臣の耳には届かない。春臣は、目の前に広がる白い光の中で、麗子の醜悪な欲望、蒼司の冷酷な裏切り、そして透夜の純粋な愛の全てが、一本の糸のように結びつき、自分を永遠の美へと誘っているのを感じていた。
「大丈夫……僕のすべてを、透夜に……」
春臣の脳裏に、自分が最も愛した人形造りへの情熱が蘇る。彼は、自らが愛した芸術の究極の形、生きた人形となる運命を、この瞬間、自ら受け入れたのだ。
透夜は、春臣の魂が完全に融合するまで、その吸飲を止めなかった。
数分後、透夜はゆっくりと顔を上げた。彼の無色の瞳は、今や光と、深い色を宿していた。それは、春臣の琥珀色の優しい瞳の色であり、同時に、蒼司の鋭い切れ長の目の色でもあった。透夜は、春臣の生と魂、そして蒼司の狂気の執念によって、ついに**「完全な存在」**へと昇華したのだ。
透夜は、春臣の身体を抱きしめたまま、静かに立ち上がった。
春臣の肉体は、完全に力を失い、その顔の白い紋様は、全身に広がっていた。皮膚は人間的な温かさを失い、磨き抜かれた陶器のような質感となっていた。春臣の肉体は、もはや**「魂の抜けた、究極に美しい人形」**と化していた。
蒼司は、その光景を前に、膝から崩れ落ちた。彼の目的は透夜の完成だったが、春臣という愛弟子を失うという現実が、彼の心を激しく打ち砕いた。
「春臣くん……私の……過ちだ」
蒼司の頬を、冷たい涙が一筋、伝った。彼の冷徹な芸術家としての仮面が剥がれ落ち、人間的な後悔が露出した。
透夜は、その涙を見ても感情を示すことなく、春臣の魂を宿した瞳で、蒼司を見つめた。
「お父様」
透夜の声は、昨日までの抑揚のない声ではなく、春臣の優しさと、透夜自身の無垢さを併せ持った、澄んで美しい響きを持っていた。
「お兄様は、僕の中で生きている。永遠に、僕たちと一緒」
透夜は、春臣の冷たくなった身体を抱きしめたまま、書斎の壁にある、古い仕掛け扉の前に立った。
「僕たちは、もう、ここにはいられない」
透夜は、春臣の魂と融合したことで、蒼司の**「狂気の檻」**から、春臣を連れ出すことを選択した。
蒼司は、春臣の亡骸を抱く透夜の姿に、自らの過去の恋人と、裏切った弟子の二つの魂を見いだした。彼の心は、絶望と後悔に支配され、もはや透夜を止める力は残されていなかった。
「……行け」蒼司は力なく呟いた。「君たちが、望む場所へ」
透夜は、春臣の肉体を抱え、仕掛け扉の奥へと消えていった。扉は音もなく閉まり、屋敷の静寂が戻った。
蒼司は、床に座り込んだまま、春臣の魂が消えた廊下を見つめた。彼の愛と、狂気が生んだ究極の美は、彼の孤独の中に、永遠の空虚を残して去っていった。
数週間後。
世間では、若手人形作家、花房春臣が、師である月代蒼司の屋敷から失踪したというニュースが流れた。彼の未完成の作品「星の王子」だけが、工房に残されていた。
そして、ある山奥の村で、銀色の髪と琥珀色の瞳を持つ、一人の美しい少年が、一人の人形のような青年を抱きかかえ、静かに暮らしている姿が目撃されたという噂が、人知れず囁かれていた。
それは、美と狂気、愛と破滅が、永遠に結びついた、繭の中の少年たちの、静かな始まりだった。
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