17 / 18
第17話:魂の融合と蒼司の選択
しおりを挟む
春臣の意識は、透夜の冷たい唇が首筋に触れた瞬間から、白く、甘美な光の中に溶け始めた。透夜の吸飲は、これまでのどの夜よりも深く、春臣の肉体だけでなく、その感情、記憶、そして魂そのものを、根こそぎ奪い取っていくようだった。
「春臣くん!」
蒼司の叫び声は遠く、もはや春臣の耳には届かない。春臣は、目の前に広がる白い光の中で、麗子の醜悪な欲望、蒼司の冷酷な裏切り、そして透夜の純粋な愛の全てが、一本の糸のように結びつき、自分を永遠の美へと誘っているのを感じていた。
「大丈夫……僕のすべてを、透夜に……」
春臣の脳裏に、自分が最も愛した人形造りへの情熱が蘇る。彼は、自らが愛した芸術の究極の形、生きた人形となる運命を、この瞬間、自ら受け入れたのだ。
透夜は、春臣の魂が完全に融合するまで、その吸飲を止めなかった。
数分後、透夜はゆっくりと顔を上げた。彼の無色の瞳は、今や光と、深い色を宿していた。それは、春臣の琥珀色の優しい瞳の色であり、同時に、蒼司の鋭い切れ長の目の色でもあった。透夜は、春臣の生と魂、そして蒼司の狂気の執念によって、ついに**「完全な存在」**へと昇華したのだ。
透夜は、春臣の身体を抱きしめたまま、静かに立ち上がった。
春臣の肉体は、完全に力を失い、その顔の白い紋様は、全身に広がっていた。皮膚は人間的な温かさを失い、磨き抜かれた陶器のような質感となっていた。春臣の肉体は、もはや**「魂の抜けた、究極に美しい人形」**と化していた。
蒼司は、その光景を前に、膝から崩れ落ちた。彼の目的は透夜の完成だったが、春臣という愛弟子を失うという現実が、彼の心を激しく打ち砕いた。
「春臣くん……私の……過ちだ」
蒼司の頬を、冷たい涙が一筋、伝った。彼の冷徹な芸術家としての仮面が剥がれ落ち、人間的な後悔が露出した。
透夜は、その涙を見ても感情を示すことなく、春臣の魂を宿した瞳で、蒼司を見つめた。
「お父様」
透夜の声は、昨日までの抑揚のない声ではなく、春臣の優しさと、透夜自身の無垢さを併せ持った、澄んで美しい響きを持っていた。
「お兄様は、僕の中で生きている。永遠に、僕たちと一緒」
透夜は、春臣の冷たくなった身体を抱きしめたまま、書斎の壁にある、古い仕掛け扉の前に立った。
「僕たちは、もう、ここにはいられない」
透夜は、春臣の魂と融合したことで、蒼司の**「狂気の檻」**から、春臣を連れ出すことを選択した。
蒼司は、春臣の亡骸を抱く透夜の姿に、自らの過去の恋人と、裏切った弟子の二つの魂を見いだした。彼の心は、絶望と後悔に支配され、もはや透夜を止める力は残されていなかった。
「……行け」蒼司は力なく呟いた。「君たちが、望む場所へ」
透夜は、春臣の肉体を抱え、仕掛け扉の奥へと消えていった。扉は音もなく閉まり、屋敷の静寂が戻った。
蒼司は、床に座り込んだまま、春臣の魂が消えた廊下を見つめた。彼の愛と、狂気が生んだ究極の美は、彼の孤独の中に、永遠の空虚を残して去っていった。
数週間後。
世間では、若手人形作家、花房春臣が、師である月代蒼司の屋敷から失踪したというニュースが流れた。彼の未完成の作品「星の王子」だけが、工房に残されていた。
そして、ある山奥の村で、銀色の髪と琥珀色の瞳を持つ、一人の美しい少年が、一人の人形のような青年を抱きかかえ、静かに暮らしている姿が目撃されたという噂が、人知れず囁かれていた。
それは、美と狂気、愛と破滅が、永遠に結びついた、繭の中の少年たちの、静かな始まりだった。
「春臣くん!」
蒼司の叫び声は遠く、もはや春臣の耳には届かない。春臣は、目の前に広がる白い光の中で、麗子の醜悪な欲望、蒼司の冷酷な裏切り、そして透夜の純粋な愛の全てが、一本の糸のように結びつき、自分を永遠の美へと誘っているのを感じていた。
「大丈夫……僕のすべてを、透夜に……」
春臣の脳裏に、自分が最も愛した人形造りへの情熱が蘇る。彼は、自らが愛した芸術の究極の形、生きた人形となる運命を、この瞬間、自ら受け入れたのだ。
透夜は、春臣の魂が完全に融合するまで、その吸飲を止めなかった。
数分後、透夜はゆっくりと顔を上げた。彼の無色の瞳は、今や光と、深い色を宿していた。それは、春臣の琥珀色の優しい瞳の色であり、同時に、蒼司の鋭い切れ長の目の色でもあった。透夜は、春臣の生と魂、そして蒼司の狂気の執念によって、ついに**「完全な存在」**へと昇華したのだ。
透夜は、春臣の身体を抱きしめたまま、静かに立ち上がった。
春臣の肉体は、完全に力を失い、その顔の白い紋様は、全身に広がっていた。皮膚は人間的な温かさを失い、磨き抜かれた陶器のような質感となっていた。春臣の肉体は、もはや**「魂の抜けた、究極に美しい人形」**と化していた。
蒼司は、その光景を前に、膝から崩れ落ちた。彼の目的は透夜の完成だったが、春臣という愛弟子を失うという現実が、彼の心を激しく打ち砕いた。
「春臣くん……私の……過ちだ」
蒼司の頬を、冷たい涙が一筋、伝った。彼の冷徹な芸術家としての仮面が剥がれ落ち、人間的な後悔が露出した。
透夜は、その涙を見ても感情を示すことなく、春臣の魂を宿した瞳で、蒼司を見つめた。
「お父様」
透夜の声は、昨日までの抑揚のない声ではなく、春臣の優しさと、透夜自身の無垢さを併せ持った、澄んで美しい響きを持っていた。
「お兄様は、僕の中で生きている。永遠に、僕たちと一緒」
透夜は、春臣の冷たくなった身体を抱きしめたまま、書斎の壁にある、古い仕掛け扉の前に立った。
「僕たちは、もう、ここにはいられない」
透夜は、春臣の魂と融合したことで、蒼司の**「狂気の檻」**から、春臣を連れ出すことを選択した。
蒼司は、春臣の亡骸を抱く透夜の姿に、自らの過去の恋人と、裏切った弟子の二つの魂を見いだした。彼の心は、絶望と後悔に支配され、もはや透夜を止める力は残されていなかった。
「……行け」蒼司は力なく呟いた。「君たちが、望む場所へ」
透夜は、春臣の肉体を抱え、仕掛け扉の奥へと消えていった。扉は音もなく閉まり、屋敷の静寂が戻った。
蒼司は、床に座り込んだまま、春臣の魂が消えた廊下を見つめた。彼の愛と、狂気が生んだ究極の美は、彼の孤独の中に、永遠の空虚を残して去っていった。
数週間後。
世間では、若手人形作家、花房春臣が、師である月代蒼司の屋敷から失踪したというニュースが流れた。彼の未完成の作品「星の王子」だけが、工房に残されていた。
そして、ある山奥の村で、銀色の髪と琥珀色の瞳を持つ、一人の美しい少年が、一人の人形のような青年を抱きかかえ、静かに暮らしている姿が目撃されたという噂が、人知れず囁かれていた。
それは、美と狂気、愛と破滅が、永遠に結びついた、繭の中の少年たちの、静かな始まりだった。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる