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キャンプ地へ向かうバスが嵐で立ち往生。運転手の岡田は、やむを得ず廃ホテル「鬼守荘」へ乗客を誘導する。
文字数 50,442
最終更新日 2025.12.04
登録日 2025.10.09
震災から五年が経った被災地で、建設作業員の田村は、黙々と瓦礫の撤去作業を続けていた。そこにあるのは、失われた日常の断片と、言葉にならない悲しみだけだった。
ある夜、作業を終えた田村は、瓦礫の山の中から「助けて」というか細い声を聞く。翌日、声のした場所を調べると、瓦-礫-の下に閉ざされた地下室を発見。中には、まるで眠っているかのように腐敗していない、一体の遺体があった。
その夜、田村が再びその場所を訪れると、地下室から呼び声が聞こえる。意を決して中へ入った彼を待っていたのは、津波で命を落とし、この場所に縛り付けられた死者たちの魂だった。彼らは、遺された家族へ「思い出の品」を届けてほしいと、田村に最後の願いを託す。
文字数 3,146
最終更新日 2025.12.03
登録日 2025.12.01
静謐な郊外の森に建つ、異様な人形師の屋敷――そこは、天才人形作家・月代蒼司が、かつての恋人の魂を再生させるため、禁忌の術を施す**「狂気の美学の檻」**だった。
この屋敷に住む若き弟子、花房春臣は、中性的な美貌を持つ繊細な青年。彼は、師・蒼司への敬愛と、俗悪な伯母・麗子からの支配を嫌悪する心から、この隔絶された生活を選び取る。しかし、彼の知らないところで、春臣自身が蒼司の究極の目的のための**「魂の依り代」**として選ばれていた。
ある夜、春臣は、屋敷最奥の禁忌の工房で、白い糸の繭から生まれた銀髪の少年、透夜を目覚めさせてしまう。透夜は、記憶を持たぬ不完全な再生体だが、覚醒を助けた春臣に、純粋で絶対的な依存と執着を示す。
麗子が春臣の才能と命を奪おうと屋敷に侵入した時、透夜は春臣への愛を貫くがゆえに、無垢な殺意で俗物を排除。春臣は、その血の清算と引き換えに、透夜の甘い毒を受け入れ、自らの肉体を人形へと変質させる破滅的な愛へと陶酔していく。
しかし、蒼司の愛が偽りだと知った春臣は絶望の逃走を図るが、透夜の銀糸の捕縛に絡め取られる。全ては、愛する者を完成させるための自己犠牲。春臣の魂は透夜と融合し、肉体は**究極の「繭」**と化す。
文字数 28,798
最終更新日 2025.11.28
登録日 2025.10.24
大学進学を機に一人暮らしを始めた主人公は、部屋の殺風景さを紛らわせるため、一台の美しい水槽と、宝石のように輝く一匹の熱帯魚を譲り受ける。その魚は驚くほど人懐っこく、孤独だった彼の日常は、小さな同居人のおかげで急速に彩りを取り戻していった。
しかし、穏やかな日々は長くは続かない。夜な夜な聞こえる奇妙な水音、そしてある晩、主人公の目の前で、魚の顔が苦悶に満ちた人間のものへと変貌してしまう。
魚が語り始めたのは、飼い主と魚の魂を入れ替える、水槽にかけられた恐ろしい呪いの真実だった。そして主人公は、自分自身がすでに呪いの渦中にあり、その体が少しずつ「魚」へと還り始めているという、絶望的な事実に気づかされる。
文字数 3,545
最終更新日 2025.11.27
登録日 2025.11.25
歴史研究者である主人公は、江戸時代のある武士「黒田源三郎」の異様な処刑記録に魅了される。斬り落とされた首が三日三晩血を流し続けたという、その血塗られた伝承を追い、かつての処刑場跡を訪れた彼女は、そこで不気味な「首のない地蔵」を発見する。
その夜、彼女の家に「それ」は現れた。二百年の時を超え、自らの首を求めて彷徨う、黒田源三郎の首のない亡霊。彼は、彼女こそが自分の首のありかを知っていると信じ込み、血錆びた刀を突きつけ、処刑場跡への案内を強要する。
恐怖に支配されながら、彼女は首のない武士と共に深夜の住宅街を歩き始める。しかし、彼が失われた首を取り戻した時、二百年間溜め込まれた斬首への渇望が、今度は彼女自身に向けられることになる。
文字数 2,143
最終更新日 2025.11.19
登録日 2025.11.17
動物園の飼育員である主人公は、霊長類館の片隅に一匹だけで飼われている日本猿「タロウ」の担当になる。彼は、人間の言葉を理解し、時折、人間のような知性的な瞳でこちらを見つめる、不思議な猿だった。
ある夜、主人公はタロウが檻の中で人間の言葉を喋っているのを聞いてしまう。「たすけて……ぼくは、にんげんだった」。彼は、数年前に行方不明になった小学生「佐藤健二」だと涙ながらに訴える。近所の男に薬を飲まされ、猿の姿に変えられてしまったのだと。
主人公は、彼の荒唐無稽な話を信じ、一人で調査を始める。しかし、真相に近づくほど、健二くんの心は人間であることを諦め、少しずつ、ただの「動物」へと還っていく。檻の中で失われていく少年の魂を前に、彼女は無力感に苛まれる。
文字数 3,399
最終更新日 2025.11.15
登録日 2025.11.13
主人公が住む山間の小さな集落に、月に一度やってくる行商人「石井さん」。穏やかで気の良い彼が売る商品は、住民たちの生活に欠かせないものだった。ある日から、彼が扱うようになった黒い瓶詰めの「万能薬」は、長年の持病さえも治してしまうと評判になる。
しかし、その薬を飲んだ人々は、夜な夜な夢遊病者のように家を抜け出し、古い神社で不気味な儀式を行うようになっていく。不審に思った主人公が真相を探るうち、行商人の穏やかな笑顔の裏に隠された、人ならざる者の恐ろしい正体と、集落全体を巻き込む壮大な計画が明らかになる。
万能薬の正体は、この土地に封印された古き神の「血肉」。住民たちは、知らず知らずのうちに、神の復活のための生贄にされていたのだった。
文字数 3,489
最終更新日 2025.11.05
登録日 2025.10.17
都会に疲れ、静かな暮らしを求めて郊外へ越した美奈子が手に入れたのは、南米製の白いハンモック。穏やかな休息のはずが、それは血と魂で織られた“墓布”だった。夜ごと夢に現れる先住民の霊、滴る赤い染み、そして語られぬ虐殺の記憶。逃れようとする美奈子の前に、死者たちの声が迫る。
異国の祈りが呪いへと変わるとき、彼女は何を贖えるのか。
——「知らぬまま眠る者こそ、最も恐ろしい」。
日常に潜む消費と死のつながりを描く、静かに燃えるホラー短編。
文字数 4,443
最終更新日 2025.11.03
登録日 2025.10.14
祖母の遺品整理で見つけた、一枚の美しい和服。それは、祖母のものでも、誰のものかも分からない、謎めいた着物だった。好奇心からその着物に袖を通した主人公は、鏡に映る、普段とは違う自分の上品な姿に陶酔する。
しかしその夜から、彼女は奇妙な夢を見るようになる。夢の中の彼女は、大正時代を生きる「雪子」という名の令嬢となり、悲恋の末に自害を強いられるという、あまりに鮮明な過去を追体験する。
やがて、夢の中の出来事は現実を侵食し始め、彼女の体は、着物に宿る雪子の魂に乗っ取られていく。八十年の時を超え、現世に蘇った雪子の目的は、かつて愛した人の元へ行くこと。それは、主人公の体を使い、再び「死」を遂げることを意味していた。
文字数 3,178
最終更新日 2025.10.24
登録日 2025.10.22
写真が趣味の主人公は、リサイクルショップで高性能な古いフィルムカメラを格安で手に入れます。しかしそのカメラは、店主曰く「変なものが写る」と返品が繰り返された訳あり品でした。
試し撮りした写真には、案の定、いるはずのない不気味な人影が。初めは故障だと楽観していた主人公ですが、撮るたびに人影は数を増し、その輪郭も鮮明になっていきます。
恐怖よりも好奇心を掻き立てられた彼は、カメラに刻まれたイニシャルを手がかりに調査を開始。すると、そのカメラがベトナム戦争で行方不明になった戦場カメラマンの遺品であり、「死者の霊が写る」という黒い噂を持つことを突き止めます。真実を確かめたいという抑えきれない衝動に駆られた彼は、心霊スポットとして有名な廃病院へと向かうのでした。
文字数 4,114
最終更新日 2025.10.14
登録日 2025.10.12
「あなたの黒歴史(ソレ)、綺麗に消してあげましょうか? …対価は、あなたの未来ですけど」
「もし、人生最悪の失敗を『なかったこと』にできるとしたら?」
誰もが一度は抱く、過去への後悔。そんな心の闇に呼応するかのように、巷で囁かれる都市伝説がある。午前零時きっかりにだけ現れる謎のサイト――『午前零時のデリート・サービス』。
案内人は、黒いセーラー服に身を包んだ気だるげな少女「ヨミ」。彼女は、人間の後悔が放つ負の感情に惹かれ、絶望の淵にいる者たちの前にふらりと現れる。SNSでの失敗、就職活動の挫折、選ばなかった人生への羨望。現代社会の歪みが生んだ苦悩を抱える人々は、藁にもすがる思いでヨミと契約を結ぶ。「過去のデータ」を消し、理想の現実を手に入れるために。
しかし、その甘美な誘惑には、あまりにも残酷な対価が伴う。失うのは「未来の一部」。過去の失敗と共に、そこから得たはずの教訓、苦労して身につけた強さ、そして誰かを愛した記憶さえも、魂ごと刈り取られてしまうのだ。
手に入れたはずの輝かしい未来が、空虚で取り返しのつかない地獄へと変貌していく様を、ヨミはただシニカルに眺めている。これは、人間の愚かさと哀しさを描く、一話完結の現代ダークファンタジー。
あなたの「消したい過去」は、本当に消すべきものですか?
文字数 9,627
最終更新日 2025.10.07
登録日 2025.10.01
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