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第28話「軋む迷宮」
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鉄の扉が完全に開いた音はしなかった。ただ、あの忌まわしいきしみ音が止まり、代わりに「それ」が廊下を徘徊する音が響き渡った。
「来た…」
啓太が青ざめた顔で呟き、カメラを構える手が震える。
「動くな。あれは音と光に敏感だ」
影山が鋭く制し、自身の懐中電灯を消した。悠真たちも慌ててライトを消す。 特別室の扉はまだ閉まっているが、バリケードは不完全だ。あの化け物と化した清一の怪力なら、破るのに時間はかからないだろう。
しん……と静まり返った暗闇の中で、全員が息を潜める。 聞こえるのは、外の雨音と、自分たちの心臓の鼓動。そして――
ギ……ギ……ギ……
――廊下を何かが引きずるような音。 それはゆっくりと、だが着実に近づいてくる。 時折、くんくんと匂いを嗅ぐような湿った息遣いが聞こえ、そのたびに美咲は小さく息を呑んだ。悠真は彼女の手を強く握りしめる。
(来るな……来るな……!)
悠真は心の中で叫んだ。さっきまでの自分の中の「鬼」の声は潜んでいる。だが、外の「鬼」の気配が、まるで共鳴するかのように、内なる衝動を再び呼び覚まそうとしていた。
ギチッ…ギギ…
音は、今、扉の真ん前で止まった。 数秒の沈黙。それは永遠のようにも感じられた。
ドオオオオオン!!
凄まじい衝撃が扉を襲った。 バリケードに使ったソファやテーブルが、衝撃で数センチずれる。
「うわあああ!」
啓太が短い悲鳴を上げた。
「静かに!」
影山が叱咤する。
ドオオオン!ドオオオン!!
二度、三度と続く衝撃。木製の扉がミシミシと悲鳴を上げる。蝶番が歪み、扉と壁の間に隙間ができ始めた。 その隙間から、濁った黄色の光が差し込む。
「目だ……」
岡田が震える声で言った。
隙間の向こうに、巨大な目が一つ、こちらを覗き込んでいた。それは人間の目ではなかった。縦に裂けた瞳孔が、まるで爬虫類のように、部屋の中の獲物を探している。
「だめだ……入ってくる!」
美咲が叫ぶ。
「逃げるぞ!窓だ!」
悠真が叫び、美咲の手を引いた。
「窓ったって、ここは二階だぞ!」
啓太が反論する。
「飛び降りるしかない!死ぬよりマシだ!」
悠真は叫び返した。
ドゴオオオオオン!!!
凄まじい音と共に、扉が蝶番から弾け飛び、バリケードごと部屋の中に吹き飛んできた。 土煙と埃が舞う中、逆光に照らされた「それ」のシルエットが姿を現す。
それは、石川清一だった。 だが、その姿はもはや人間とは呼べなかった。 身体は異常に肥大し、スーツは裂け、露出した皮膚は灰色で岩のように硬質化している。腕は異様に長く伸び、指先はあの黒い爪へと変貌していた。そして何より、顔。顔の半分が獣のように歪み、片目だけが巨大化し、黄色い光を放っていた。
「見つけた……『器』……」
清一だったものが、地獄の底から響くような声で呟き、その視線はまっすぐに悠真を捉えた。
「くそっ!」
悠真は美咲を突き飛ばし、窓へと走らせる。
「開けろ!先に飛び降りろ!」
「高木さんは!?」
「いいから早く!」
美咲が必死に窓のロックを解除しようとするが、古い窓枠は固く閉ざされ、開かない。 その間にも、化け物は一歩一歩、確実に距離を詰めてくる。
「あああああ!!」 啓太がパニックに陥り、手当たり次第に近くにあった椅子を掴んで化け物に投げつけた。椅子は化け物の体に当たって砕け散るが、全く意に介さない。 「邪魔だ」 化け物の一薙ぎが、啓太の体を捉えた。 啓太の体は、まるで紙人形のように宙を舞い、壁に叩きつけられる。ぐちゃり、という鈍い音と共に、彼は動かなくなった。
「啓太さん!!」
岡田が叫ぶ。
「こっちだ、化け物!」
悠真は叫び、ポケットに入れていたライターを点火した。炎の光が、化け物の注意を引きつける。
「お前が欲しいのは、俺の血だろ!」
化け物の動きが止まる。その黄色の瞳が、悠真の持つ炎と、その奥にある悠真の顔を、じっと見つめた。
「そうだ……純粋な……血……」
その隙に、影山が叫んだ。
「窓を割れ!美咲さん!」
美咲は我に返り、近くにあったランプスタンドを掴むと、力任せに窓ガラスに叩きつけた。
ガシャアアァァン!!
ガラスが砕け散り、暴風雨が部屋の中に吹き込んでくる。
「飛び降りろ!」
悠真が叫ぶ。
「高木さんこそ!」
「俺はこいつを引き付ける!早く行け!」
「二人とも、これを!」
影山が懐から、あの護符と同じ材質で作られた小さな縄のようなものを二つ投げ渡した。
「手首に巻け!多少は時間を稼げるはずだ!」
美咲がそれを受け取り、一つを自分の手首に、もう一つを悠真に投げ渡す。 その瞬間、化け物が再び動き出した。 狙いは、悠真ただ一人。
「来た…」
啓太が青ざめた顔で呟き、カメラを構える手が震える。
「動くな。あれは音と光に敏感だ」
影山が鋭く制し、自身の懐中電灯を消した。悠真たちも慌ててライトを消す。 特別室の扉はまだ閉まっているが、バリケードは不完全だ。あの化け物と化した清一の怪力なら、破るのに時間はかからないだろう。
しん……と静まり返った暗闇の中で、全員が息を潜める。 聞こえるのは、外の雨音と、自分たちの心臓の鼓動。そして――
ギ……ギ……ギ……
――廊下を何かが引きずるような音。 それはゆっくりと、だが着実に近づいてくる。 時折、くんくんと匂いを嗅ぐような湿った息遣いが聞こえ、そのたびに美咲は小さく息を呑んだ。悠真は彼女の手を強く握りしめる。
(来るな……来るな……!)
悠真は心の中で叫んだ。さっきまでの自分の中の「鬼」の声は潜んでいる。だが、外の「鬼」の気配が、まるで共鳴するかのように、内なる衝動を再び呼び覚まそうとしていた。
ギチッ…ギギ…
音は、今、扉の真ん前で止まった。 数秒の沈黙。それは永遠のようにも感じられた。
ドオオオオオン!!
凄まじい衝撃が扉を襲った。 バリケードに使ったソファやテーブルが、衝撃で数センチずれる。
「うわあああ!」
啓太が短い悲鳴を上げた。
「静かに!」
影山が叱咤する。
ドオオオン!ドオオオン!!
二度、三度と続く衝撃。木製の扉がミシミシと悲鳴を上げる。蝶番が歪み、扉と壁の間に隙間ができ始めた。 その隙間から、濁った黄色の光が差し込む。
「目だ……」
岡田が震える声で言った。
隙間の向こうに、巨大な目が一つ、こちらを覗き込んでいた。それは人間の目ではなかった。縦に裂けた瞳孔が、まるで爬虫類のように、部屋の中の獲物を探している。
「だめだ……入ってくる!」
美咲が叫ぶ。
「逃げるぞ!窓だ!」
悠真が叫び、美咲の手を引いた。
「窓ったって、ここは二階だぞ!」
啓太が反論する。
「飛び降りるしかない!死ぬよりマシだ!」
悠真は叫び返した。
ドゴオオオオオン!!!
凄まじい音と共に、扉が蝶番から弾け飛び、バリケードごと部屋の中に吹き飛んできた。 土煙と埃が舞う中、逆光に照らされた「それ」のシルエットが姿を現す。
それは、石川清一だった。 だが、その姿はもはや人間とは呼べなかった。 身体は異常に肥大し、スーツは裂け、露出した皮膚は灰色で岩のように硬質化している。腕は異様に長く伸び、指先はあの黒い爪へと変貌していた。そして何より、顔。顔の半分が獣のように歪み、片目だけが巨大化し、黄色い光を放っていた。
「見つけた……『器』……」
清一だったものが、地獄の底から響くような声で呟き、その視線はまっすぐに悠真を捉えた。
「くそっ!」
悠真は美咲を突き飛ばし、窓へと走らせる。
「開けろ!先に飛び降りろ!」
「高木さんは!?」
「いいから早く!」
美咲が必死に窓のロックを解除しようとするが、古い窓枠は固く閉ざされ、開かない。 その間にも、化け物は一歩一歩、確実に距離を詰めてくる。
「あああああ!!」 啓太がパニックに陥り、手当たり次第に近くにあった椅子を掴んで化け物に投げつけた。椅子は化け物の体に当たって砕け散るが、全く意に介さない。 「邪魔だ」 化け物の一薙ぎが、啓太の体を捉えた。 啓太の体は、まるで紙人形のように宙を舞い、壁に叩きつけられる。ぐちゃり、という鈍い音と共に、彼は動かなくなった。
「啓太さん!!」
岡田が叫ぶ。
「こっちだ、化け物!」
悠真は叫び、ポケットに入れていたライターを点火した。炎の光が、化け物の注意を引きつける。
「お前が欲しいのは、俺の血だろ!」
化け物の動きが止まる。その黄色の瞳が、悠真の持つ炎と、その奥にある悠真の顔を、じっと見つめた。
「そうだ……純粋な……血……」
その隙に、影山が叫んだ。
「窓を割れ!美咲さん!」
美咲は我に返り、近くにあったランプスタンドを掴むと、力任せに窓ガラスに叩きつけた。
ガシャアアァァン!!
ガラスが砕け散り、暴風雨が部屋の中に吹き込んでくる。
「飛び降りろ!」
悠真が叫ぶ。
「高木さんこそ!」
「俺はこいつを引き付ける!早く行け!」
「二人とも、これを!」
影山が懐から、あの護符と同じ材質で作られた小さな縄のようなものを二つ投げ渡した。
「手首に巻け!多少は時間を稼げるはずだ!」
美咲がそれを受け取り、一つを自分の手首に、もう一つを悠真に投げ渡す。 その瞬間、化け物が再び動き出した。 狙いは、悠真ただ一人。
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