おじいさんとおじいちゃん

Green hand

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友達との出会い/お婆さんの話

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『友達との出会い』

ある春の日のこと。お婆さんはおじいちゃんと朝の散歩に出かけていました。今日は、これから1日雨の予報が出ていたので、おじいちゃんの排便が済むと、お婆さんは空の様子を見ながら近道をして、家に向かっています。

「雲行きが怪しくなってきたわね。もうちょっと早く歩こうか?ムク。」

(・・・・・・)

おじいちゃんの名前はムクと言います。お婆さんはよく名前で呼びかけます。
しかし、この頃からおじいちゃんはコロコロしていて、排便が済むと疲れてゆっくり歩きます。
お婆さんに応えて、しばらくは足早になりますが、またすぐにゆっくりになってしまいます。

「しょうがないね。ゆっくり帰ろう、ムク。」

(・・・・・・)

その内に、空からポツポツと雨が降り始めましたが、お婆さんは諦めてゆっくり帰ることに決めました。
公園の横を通りながら、小雨の降る中ゆっくり桜を眺めます。

「・・雨の桜もいいわね。」

お婆さんは、桜の花が大好きでした。
しかも早朝なので、公園には1人もいないので、お婆さんは桜を独り占めです。と思いきや、

「あら・・・?」

ベンチに座っている人が1人いました。こちらに背を向けて座っていて、肩を上下させて俯いています。
お婆さんは何か胸騒ぎがして、公園に入っていきます。
近づいていくと、ベンチには40代半ば頃の女性が、息苦しそうに息を荒くして胸元を右手で押さえていました。

「どうしました?大丈夫?」

お婆さんは優しく声をかけて、女性の背中をさすります。

「ハァ・・すいま・・・ハァハァ。」

「救急車呼びましょうか?」

女性は勢いよく首を横に振りました。

「ハァハァ・・いい・・です。」

「これからもっと雨脚が強くなるわ。そうだ、うちで休んでらっしゃい。すぐそこだから。ね?」

「い、いえ・・・」

ペロペロ・・・

その時、女性が体を支えるためにベンチについている左手を、おじいちゃんは優しく舐めました。
女性は驚きました。不思議なことに、徐々に息苦しさが和らいでいくのを感じていたからです。

「・・・・・・・?」

(・・・・・・)

女性はおじいちゃんを見下ろし、おじいちゃんは女性を見上げます。
お婆さんは2人の様子を見て察すると、おじいちゃんの頭を撫でます。

「心配なのね~、ムクも。」

「ふぅ・・・ふぅ・・・。」

「あなたさえよければ、雨宿りしていってちょうだい。」

お婆さんは笑顔で言いました。
女性は、おどおどしながらも小さく頷きました。



そして、お婆さんは左手で女性の手を握り、右手にリードを掴んで、ゆっくり歩いていきます。雨足は、大分強くなってきました。

「ごめんなさいね。うちのムク、歩くのゆっくりなのよ。」

「あ、いえ・・・。」

それから3分程で、家に着きました。ドアを開けて、女性とムクを玄関へあげて、お婆さんは家の奥へ向かって声をかけました。

「おじいさ~ん。帰りましたよ~。」

すると、間もなくおじいさんがバスタオルを持ってやって来ました。

「お~、おかえり。降られちまったなぁ。」

「そうなのよ~。間に合わなかったわ。」

そう言って、おじいさんからバスタオルをもらい、お婆さんは女性に手渡しました。

「あ、すいません・・・。」

「お客さん?」

「ええ。公園で会って、傘が無いから雨宿りにね。」

「ん~そうか。じゃあどうぞ、上がっていって下さい。」

「あ、あの・・・ここで・・・」

「ん?」

女性は、2人の視線から逃れるようにとっさに目を背けました。背けた先には、おじいちゃんがいました。おじいちゃんの体もビショビショです。

「・・・ムクちゃん、拭いてあげても・・・いいですか?」

「ああ、いいですよ。じゃあコレで、よろしくお願いします。」

おじいさんから、手ぬぐいサイズのおじいちゃん用のタオルを受け取り、おずおずと頭を下げました。

「ありがとうございます。」

「いやいや、それはこっちのセリフですよ。どうもありがとう。良かったなぁおい。お姉さんが拭いてくれるってよ。」

「・・・・・・・・。」

[お姉さん]というフレーズに苦笑いしながら、女性はおじいちゃんの背中をさするように拭き始めました。

「もっとワシワシ拭いちゃって大丈夫よ?」

「は、はい。ワシワシ・・・」

「それと体拭き終わったら、ついでに足も拭いてあげてくれる?適当でいいから。じゃあ、お茶入れて待ってるわね。」

「あ、タオル・・・使って下さい。」

「あ、やぁね。自分拭くの忘れてたわ。ふふふっ。何だか、今日は朝から楽しいわ。」

「・・・・・・・。」

(・・・・ふいて。)

女性が手を止めたら、おじいちゃんが見上げてきました。今会ったばかりなのに、おじいちゃんの訴えが女性には理解ができました。

「あ、すいません・・・。」

そう言って、女性は一生懸命おじいちゃんの体を、ワシワシと拭きました。
気がつくと、あの息苦しさは何処かへ消えてしまっていました。


それから数日後、早朝の散歩時間に公園のベンチに座る女性の姿を見つけ、お婆さんとおじいちゃんは会いに行きました。
女性は二人に気づくと、すっと立ち上がって、深々と礼をしました。

「おはようございます。調子はどう?」

「あ、あの・・・おかげさまで、落ち着いてます。」

「そう!良かったわぁ。ね?ムク。」

(・・・・・・)

「あの、この前は・・本当にありがとうございました。」

「何言ってるの?こっちが雨宿りしない?って誘ったんだから。気にすることないわ。」

女性は、勢いよく首を横に振ります。

「あの、おうちにまでお邪魔して、自己紹介もしないで帰ってしまって・・・。」

「あ~、そういえばしてなかったかしら。お互いに。」

「え・・あ、はい。」

「何だか慌ただしかったものね。あの後娘に呼び出されて、すぐに出かけなきゃいけなくなってしまったし、誘っておいてすぐに追い出すことになってしまって、あなたには失礼なことしてしまったわね。ごめんなさい。」

「い、いえそんな・・・やめてください。あの時傘をかして下さって、とても助かりました。ありがとうございました。」

そう言って、女性は傘を差し出しました。

「あら、わざわざ持って出てきたの?」

「いつ会えるか分からないので、外へ出る時はいつも・・・。」

「そうだったの。どうもありがとう。でもここまで来てくれたのなら、うちへ来てくれても良かったのよ?」

「いえ・・そこまでは。その・・・私
、実は・・・」

「・・なぁに?」

「い、いえ。今日はもう、帰ります。あ、その前に・・・私、里見と言います。」

「そう、さとみちゃんね。私は、さと子と申します。」

「え?」

「一字違いなんて、奇遇ね。ふふふっ。」

「はい、本当に。」

里見はその時、初めてお婆さんに笑顔を見せました。
おじいちゃんも、たまたま見ていました。

「[今日は]って事は、また会えるのね?」

「は、はい。あの・・・私で、よければ。」

「では、これからもおじいさんとムク共々、よろしくお願いします。」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします。」

(・・・・・・)

おじいさんの友達は、最初、お婆さんの友達でした。






『お婆さんの話』

「今朝はさとみさんと会えて良かったわね、ムク。」

(・・・・・・・)

「どういう字を書くのかしら。聡美?智美?里美?」

(・・・・・・・)

「ん~・・・今度聞いてみましょ。」

(・・・・・・・)

「ねぇ、ムク?」

(・・・・・・・)

おじいちゃんが、お婆さんを見上げると、お婆さんは、笑顔でおじいちゃんを見下ろしています。

「あなたは、素敵な力を持ってるのね。」

(・・・・・・・)

「さとみちゃんを助けて、私達を友達にしてくれたのは、あなたなのよ?」

(・・・・・・)

おじいちゃんは、顔を下ろして目の前で草が風にそよぐのを見ています。

「おじいさんがムクを連れて帰ってきてくれて、本当に良かった。あなたが来てから、普通の毎日がとても大切に思えるようになったの。それは本当にちょっとしたことなんだけど、例えば・・・庭に菜の花が咲いていて、ふっとムクが座っている縁側に顔を向けたら、縁側の下でもひっそりと菜の花が咲いていたり、丁度落ちかけていた桜の花が風に吹かれて、ムクの頭の上に着地したり、雨の日にカタツムリが縁側へ来て、ムクの後ろ足を這っているのを、おじいさんとムクが2人でじぃ~っと観察していたり、皆でスイカを食べていたら、口の周りがベタベタになったり、お月見しながらお団子を食べてそのまま眠ってしまったり、炬燵に入ってみかんを食べながら・・・あら?ふふっ、食べてる話ばかりね。」

(たべる・・・?)

「そんな毎日が、ずっと続いたら良いわね。だから・・・」

お婆さんは屈んで、おじいちゃんの顔を両手で撫でながら、

「よく寝て、よく食べて、よく散歩して、毎日普通に暮らして、元気でいましょうね。」

(・・・・・・・)

願いを込めて、おじいちゃんに伝えました。おじいちゃんの尻尾が、返事をするようにフリフリ揺れています。

「さぁ、帰って晩ご飯の支度しなくちゃ。」

(ごはん・・・・)

まだまだおじいちゃんは、元気に過ごせそうです。

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