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おじいさんと納涼/おじいさん達の納涼
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『おじいさんと納涼』
ある夜のこと、おじいさんはとても後悔していました。
「はぁ・・・。」
テレビを見る前に、先にシャワーを浴びておけば良かったと。
遡ること3時間半前、おじいさんはおじいちゃんと一緒に夕食を取りながら、何気なくテレビを付けて、チャンネルを変えていたら、特番で心霊系番組を放送していました。
こういう番組を見るのは、何十年かぶりです。というのも、お婆さんがあまり得意ではなかったため、悲鳴を上げてすぐにチャンネルを変えてしまっていたので、まともに見られたことがしばらくありませんでした。
おじいさんは、幼少期の肝試しを思い出してワクワクしてきたので、心霊系番組を見てみることにしました。
現代の怖い話は、昔と違い映像がキレイで、CGも取り入れているため、かなりリアリティーがあります。
おじいさんは予想以上の怖さに、身を固めて見ていました。
怖いけど、目が離せない。そんな心境です。
テレビの中では、一人暮らしの若い男性が突然鳴り響く電話の音にビクつきながらも、そっと子機に手を伸ばしています。
その時でした。
ツンツン・・・
「ひ・・・・っ!」
おじいさんの背中を、誰かが指で触れました。恐る恐る、後ろを振り返ると・・・・、
(・・・・・・・)
おじいちゃんがいました。
「な、なんだ・・お前かぁ~・・・。」
おじいさんは、どっと疲れて、胸に手をあてて呼吸を整えます。
冷静に考えてみると、あの感触は誰かの指ではなく、おじいちゃんの鼻でした。その証拠に、おじいさんのシャツの背中部分がしっとり濡れています。
普段はしないことを、こういう時に限って、おじいちゃんはやってくるのです。
その後、おじいさんはシャワーも寝るのも後回しにして、番組終了までしっかり鑑賞しました。
そして、現在に至ります。時計は夜10時を示しています。おじいさんは珍しく夜更かししてしまいました。
おじいさんは皿洗いを済ませて、渋々シャワーを浴びに行きました。
お風呂用の椅子に座り、シャワーを浴びながら目をつむった瞬間、先ほどの番組をつい思い出してしまいました。
「・・・・・・・。」
背後が気になりながらも、おじいさんはいつも通り頭から洗い始めます。シャンプーが垂れてきて、目の前が全く見えなくなっても、慌てずゆっくり洗います。けれど、背後にはどうしても意識がいってしまいます。
何故なら、先ほどの番組で[入浴中の怖い話]があったからです。
おじいさんは決めました。今後2度とあの手の番組を見るのはよそうと。
しっかりシャンプーで頭を洗うと、おじいさんはシャワーですすぎ始めました。
やっと、顔の周りの泡を洗い落として、周りが見えるようになり、おじいさんは少し安心しました。いつも通りのお風呂の風景がそこにあったからです。よしよしと思って、今度は髪をすすごうとシャワーのお湯へ頭を差しだそうとしました。
その時でした。
トンっトンっ・・・
「う・・・・・!?」
背後のガラス戸を、誰かが叩く音がしました。あまりの驚きで、おじいさんの背筋は変な力が入ってしまい、ピンっと背中が攣りそうになりました。若干痛みを覚えながら、恐る恐るガラス戸へ振り返ると・・・、
「わ・・・・っ!」
磨り硝子の向こうに白い影が。おじいさんの頭は一瞬パニックを引き起こしそうになりました。
「ヒン・・・ヒンヒン・・・」
けれど、ガラス戸の向こうから聞き慣れたか細い鳴き声を耳にして、おじいさんは冷静になりました。
おじいさんはガラス戸の取っ手に手を伸ばし、横にスライドさせると、
「ヒューン・・・。」
淋しそうに鳴いている、おじいちゃんがいました。
「お前かぁ・・・・。」
おじいさんは、さらにどっと疲れました。
何故おじいちゃんがわざわざここへ来たのか、おじいさんには大体の見当がつきました。いつもなら寝ている時間なのに、自分がまだ寝室へ来ないから呼びに来たんだとふみました。
おじいさんは、おじいちゃんの頭を撫でて、
「すまないな、遅くなって。シャワーが済んだらすぐ行くから、お前は先に寝てなさい。な?」
そう言って聞かせると、
(・・・・・・・)
おじいちゃんは理解したかのように、お風呂場を去りました。
おじいさんは胸をなで下ろして、ガラス戸を閉めました。
普段なら、おじいさんの事など気にせず、おじいちゃんは寝たくなったら勝手に寝ます。
普段はしないことを、こういう時に限って、おじいちゃんはやってくるのです。
シャワーを済ませると、おじいさんは手早くハミガキも済ませて、居間へ向かいました。でも、おじいちゃんの姿はありません。おじいさんは戸締まりをしながら、おじいちゃんを探しましたが、どこにもいません。
最後に寝室へ向かうと、そこにもおじいちゃんの姿はありませんでした。
こんな時間に庭へ出ることはまず無いので、家の何処かで涼しい場所を見つけて寝ているのだろうと思い、おじいさんは自分の掛け布団をめくりました。
その時でした。敷き布団の真ん中に茶色の大きな毛玉が・・・!
「スゥー・・・スゥー・・・」
「・・・・・ぷっ。」
おじいちゃんが寝息を立てて、布団の真ん中に堂々と横たわって寝ていました。
普段なら、風が入る窓際辺りを寝床にしているのに、今回はおじいさんが今朝整えたままの綺麗な布団に、布団を乱さないよう器用に潜り込んで寝たようです。
普段はしないことを、こういう時に限って、おじいちゃんはやってくるのです。
けれど、そんなおじいちゃんが、おじいさんにはとても愛おしく思えました。怖い思いをした分、さらに愛おしく。
おじいさんは遠慮がちに、布団の隅へ横になり、
「おやすみ。」
と、小さく声をかけて眠りにつきました。
『おじいさん達の納涼』
ある夏の日の日中のことです。
「こ~んちは~。スイカ持ってきたよ~。暑ちぃ~~!」
寄子さんがやって来ました。おじいさんが玄関へ向かうと、先におじいちゃんがお出迎えに来ていました。
寄子さんの前で綺麗なお座りをして、いらっしゃいをしているように見えますが、スイカの言葉に反応して来ただけです。
(スイカ・・・)
「なになに~?アタシの事覚えてくれたってワケ?」
「今回は2週間程度空いただけだからな。[スイカのおばさん]位には思ってるんじゃないか?」
「う・・まぁ、他人扱いよりはマシだね。」
居間へ行くと、冷たい風が寄子さんの熱々の体を癒します。
「ふぅ~・・・っ。ちゃんとエアコン使ってんね。良かったなぁムク?掃除したのはこのアタシだよ?」
「犬に何恩着せがましい事を。」
「だってさぁ~!スイカ持ってくるおばさんじゃ有り難み・・・」
(スイカ・・・スイカ・・・)
おじいちゃんは、寄子さんに熱視線を浴びせています。
「・・・よし。今日からアタシをスイカの神様と崇めたまえ。」
(スイカ・・・食べる)
「スイカスイカと連呼していないで、早く切っておやりなさい神様。かわいそうじゃないか。」
「全然神様の扱いじゃないじゃん。しゃーないなぁ。」
寄子さんがスイカを持って台所へ向かうと、おじいちゃんも付いていきます。
おじいさんは居間でコップに麦茶を注ぎながら問いかけました。
「今日はどうしたんだ?」
「ん~?ああ、お義母さんが和菓子御馳走様でしたって。」
「気に入ってくれてたか?」
「うん。やっぱ年寄りは餡子好きだからねぇ。」
「お前は・・そういうデリカシーのないことを平気で言うから喧嘩になるんだぞ?もう少し口に気をつけなさい。」
「スイカのおばさんって言ったの誰でしたっけ~?」
「んん・・・。」
「それとさ、お盆だから父ちゃんを墓参りにお誘いしようかと思ってさ。」
その言葉に、おじいさんは密かに嬉しそうに笑みを浮かべました。
「今日か?」
「さすがに今日の今日はね。これからじゃかなり暑いから、父ちゃんもムクも仲良く干からびてあの世行きだよ。」
酷い言われようですが、寄子さんに悪意はありません。おじいさんはよく知っているのでスルーしました。
「じゃあいつよ。」
「明日の午前中は?車で30分で着くし、ちょい早朝で。」
「うん、その方がいいな。じゃあ夕方の散歩ついでに、花と線香買っておくよ。」
「大丈夫!花は農家の嫁が早起きして新鮮なの見繕って摘んでくるし、これから買い物して帰るから、全部アタシが用意する。どうしても供えたい物があれば買っといてよ。」
「そうか?じゃあ、今回は甘えるか。」
「そうそう。年寄りは素直が1番!」
「・・・向こうのご両親の前でもその調子なのか?」
「うん。なんで?」
「奇特な方達で良かったな。有り難く思えよ?」
「ソレ、聞きようによっちゃあ向こうの方達に失礼なんじゃない?」
「良い意味で言ってるんだ。何の問題もない。」
「へいへい、アタシと違って父ちゃんは[穏やかな良い人]だからねぇ~。」
「・・なんだそれは。」
「何でもない。お母さんにスイカあげてくる~。」
(スイカ・・・スイカ)
寄子さんはおじいちゃんを引き連れて仏壇へ向かいました。
おじいさんは冷蔵庫に麦茶のペットボトルをしまいがてら、皿に盛りつけられたスイカを居間のちゃぶ台へ持って行きました。
その時でした。
「えっ!!何コレ!?」
寝室から、突然寄子さんの大きな声が聞こえてきました。
おじいさんは、冷静にちゃぶ台に皿を置いて、おじいちゃんの分も台所へ取りに行こうとすると、
「ちょ・・・父ちゃん来て!」
「なんだ、騒々しいなぁ。」
おじいさんは寝室に入ると、目を疑いました。
「・・・・・・・!!」
仏壇に供えていた、造花(夏は傷みやすいので)や、みかん・お菓子等の供え物、そしてお婆さんの写真が、全て畳の上に落ちて散らかっていました。
「え・・・一体いつからだ?」
「最後にココ入ったのは!?」
「確か・・・朝4時頃起きて掃き掃除をしてからは入ってなかったな。」
「随分前だなぁ。あ、空き巣か!?」
「ま、まさか・・・。仏壇だけ漁るなんてことなかろう?それに何も無くなってないしな。」
「確かに。じ、じゃあムクのいたずら!?」
(・・・・・・・)
3人は顔を見上げ、見下ろしました。
「い、いやいや。コイツは仏壇にちょっかい出したことなど今まで1度たりともないぞ。」
「そ、そうか・・・。じゃあ・・・」
寄子さんは、口にするのを拒むように黙り込みました。おじいさんは気になって、顔を覗き込みます。
「じゃあ・・・なんだ?」
「他に考えられるのは・・・、お母さん?」
「なに?な、何をバカなこと・・・」
「だってさぁ、お盆だし?家へ帰ってきててもおかしくないんじゃない?」
「それはそうだが・・・婆さんがなんで自分の仏壇にこんなことしなきゃならん?」
「それは多分・・・怒ってるから?」
「・・・・・・・!!」
おじいさんも、口にした寄子さんも、少し背筋が凍るのを感じました。
お婆さんが帰ってきていると思ったからではありません。
お婆さんが、誰かに怒っているのかもしれないということに、2人は怯えました。
「ねぇ、なんか心当たりないの?」
「え・・いや・・・。少し前に・・・、婆さんが苦手な怖い番組をやっててな、それを・・・3時間以上居間のテレビで見てたことはあるが・・・。」
「ソレだな!」
「ソ、ソレか?そそ、そうなのか?婆さん!」
「3時間は長いわぁ。あんたも好きねぇ~。」
「う・・・、も、もしそうなら・・・すまなかった。いや私も、アレを見た後は散々だったんだよ?許してくれ。な?」
おじいさんは仏壇に手を合わせて謝ります。だがしかし、どこか腑に落ちません。
「・・お前はどうなんだ?」
「へ?」
「お前は・・婆さんの怒りに触れるような事はないのか?あるだろう?学生の頃は随分・・・」
「そ、そんな昔のこと今怒られても・・・っ!お母さんはそんなネチネチした人じゃないもん!学生の頃に何度もしっかり怒られてるし!」
「じゃあ、アレだな。」
「な、なによ。」
「向こうのお義母さんに対する口の利き方がなっとらんから、母親として娘を怒ってるんだろう。」
「う・・・・」
「いつまでも子供で困ったものだなぁ
、婆さん。私も謝るから、許してやっておくれ。」
「・・・・・・・・。」
寄子さんは、ぐうの音も出なくなり、仏壇に向かってしっかり頭を下げて、
「ごめんなさい・・・っ!」
大きな声で謝罪しました。
(・・・・・・)
そんな2人を、おじいちゃんは背後で綺麗なお座りをして、見つめていました。
実は、おじいちゃんは知っていました。
早朝、おじいさんが散歩の準備を終えるまで、おじいちゃんは仏壇の前で座って待っていました。
すると突然、地面が揺れるのを感じました。地震です。
実は最近、仏壇の写真が定位置から微妙にズレていて、少し倒れかかっていたところにこの揺れです。本当の極小の揺れでしたが、写真が倒れるには充分でした。
おじいちゃんの目の前で、写真は前に倒れて、供え物の和菓子と共に畳へ。写真が倒れた時、小さなみかんに写真立ての角が当たり、みかんはすぐ隣りにある造花の菊が挿してある一輪挿しにぶつかり、一緒に畳へと落下しました。菊の造花は、落ちた衝撃で一輪挿しから飛び出して、おじいちゃんの前足に花を添えました。
(・・・・・・・)
おじいちゃんは、菊の花をクンクンして、一応チェックしました。
「おぉ~い、行くぞぉ。」
玄関からおじいさんの声がしたので、おじいちゃんは立ち上がり、のんびり寝室を出て行きました。
なので、誰も怒っているわけでもありませんし、誰も悪くないのです。
「明日墓参りに行くから!ね?」
「私も行くから。な?それにもう2度と怖いテレビは見ない!約束する!」
2人はしばらく正座して、仏壇の前で手を合わせ続けました。
その背後では、
(スイカ・・・はやく)
おじいちゃんが、何とか気づいてもらおうと、キラキラした目で強い視線を2人に投げかけて、スイカを催促し続けていました。
ある夜のこと、おじいさんはとても後悔していました。
「はぁ・・・。」
テレビを見る前に、先にシャワーを浴びておけば良かったと。
遡ること3時間半前、おじいさんはおじいちゃんと一緒に夕食を取りながら、何気なくテレビを付けて、チャンネルを変えていたら、特番で心霊系番組を放送していました。
こういう番組を見るのは、何十年かぶりです。というのも、お婆さんがあまり得意ではなかったため、悲鳴を上げてすぐにチャンネルを変えてしまっていたので、まともに見られたことがしばらくありませんでした。
おじいさんは、幼少期の肝試しを思い出してワクワクしてきたので、心霊系番組を見てみることにしました。
現代の怖い話は、昔と違い映像がキレイで、CGも取り入れているため、かなりリアリティーがあります。
おじいさんは予想以上の怖さに、身を固めて見ていました。
怖いけど、目が離せない。そんな心境です。
テレビの中では、一人暮らしの若い男性が突然鳴り響く電話の音にビクつきながらも、そっと子機に手を伸ばしています。
その時でした。
ツンツン・・・
「ひ・・・・っ!」
おじいさんの背中を、誰かが指で触れました。恐る恐る、後ろを振り返ると・・・・、
(・・・・・・・)
おじいちゃんがいました。
「な、なんだ・・お前かぁ~・・・。」
おじいさんは、どっと疲れて、胸に手をあてて呼吸を整えます。
冷静に考えてみると、あの感触は誰かの指ではなく、おじいちゃんの鼻でした。その証拠に、おじいさんのシャツの背中部分がしっとり濡れています。
普段はしないことを、こういう時に限って、おじいちゃんはやってくるのです。
その後、おじいさんはシャワーも寝るのも後回しにして、番組終了までしっかり鑑賞しました。
そして、現在に至ります。時計は夜10時を示しています。おじいさんは珍しく夜更かししてしまいました。
おじいさんは皿洗いを済ませて、渋々シャワーを浴びに行きました。
お風呂用の椅子に座り、シャワーを浴びながら目をつむった瞬間、先ほどの番組をつい思い出してしまいました。
「・・・・・・・。」
背後が気になりながらも、おじいさんはいつも通り頭から洗い始めます。シャンプーが垂れてきて、目の前が全く見えなくなっても、慌てずゆっくり洗います。けれど、背後にはどうしても意識がいってしまいます。
何故なら、先ほどの番組で[入浴中の怖い話]があったからです。
おじいさんは決めました。今後2度とあの手の番組を見るのはよそうと。
しっかりシャンプーで頭を洗うと、おじいさんはシャワーですすぎ始めました。
やっと、顔の周りの泡を洗い落として、周りが見えるようになり、おじいさんは少し安心しました。いつも通りのお風呂の風景がそこにあったからです。よしよしと思って、今度は髪をすすごうとシャワーのお湯へ頭を差しだそうとしました。
その時でした。
トンっトンっ・・・
「う・・・・・!?」
背後のガラス戸を、誰かが叩く音がしました。あまりの驚きで、おじいさんの背筋は変な力が入ってしまい、ピンっと背中が攣りそうになりました。若干痛みを覚えながら、恐る恐るガラス戸へ振り返ると・・・、
「わ・・・・っ!」
磨り硝子の向こうに白い影が。おじいさんの頭は一瞬パニックを引き起こしそうになりました。
「ヒン・・・ヒンヒン・・・」
けれど、ガラス戸の向こうから聞き慣れたか細い鳴き声を耳にして、おじいさんは冷静になりました。
おじいさんはガラス戸の取っ手に手を伸ばし、横にスライドさせると、
「ヒューン・・・。」
淋しそうに鳴いている、おじいちゃんがいました。
「お前かぁ・・・・。」
おじいさんは、さらにどっと疲れました。
何故おじいちゃんがわざわざここへ来たのか、おじいさんには大体の見当がつきました。いつもなら寝ている時間なのに、自分がまだ寝室へ来ないから呼びに来たんだとふみました。
おじいさんは、おじいちゃんの頭を撫でて、
「すまないな、遅くなって。シャワーが済んだらすぐ行くから、お前は先に寝てなさい。な?」
そう言って聞かせると、
(・・・・・・・)
おじいちゃんは理解したかのように、お風呂場を去りました。
おじいさんは胸をなで下ろして、ガラス戸を閉めました。
普段なら、おじいさんの事など気にせず、おじいちゃんは寝たくなったら勝手に寝ます。
普段はしないことを、こういう時に限って、おじいちゃんはやってくるのです。
シャワーを済ませると、おじいさんは手早くハミガキも済ませて、居間へ向かいました。でも、おじいちゃんの姿はありません。おじいさんは戸締まりをしながら、おじいちゃんを探しましたが、どこにもいません。
最後に寝室へ向かうと、そこにもおじいちゃんの姿はありませんでした。
こんな時間に庭へ出ることはまず無いので、家の何処かで涼しい場所を見つけて寝ているのだろうと思い、おじいさんは自分の掛け布団をめくりました。
その時でした。敷き布団の真ん中に茶色の大きな毛玉が・・・!
「スゥー・・・スゥー・・・」
「・・・・・ぷっ。」
おじいちゃんが寝息を立てて、布団の真ん中に堂々と横たわって寝ていました。
普段なら、風が入る窓際辺りを寝床にしているのに、今回はおじいさんが今朝整えたままの綺麗な布団に、布団を乱さないよう器用に潜り込んで寝たようです。
普段はしないことを、こういう時に限って、おじいちゃんはやってくるのです。
けれど、そんなおじいちゃんが、おじいさんにはとても愛おしく思えました。怖い思いをした分、さらに愛おしく。
おじいさんは遠慮がちに、布団の隅へ横になり、
「おやすみ。」
と、小さく声をかけて眠りにつきました。
『おじいさん達の納涼』
ある夏の日の日中のことです。
「こ~んちは~。スイカ持ってきたよ~。暑ちぃ~~!」
寄子さんがやって来ました。おじいさんが玄関へ向かうと、先におじいちゃんがお出迎えに来ていました。
寄子さんの前で綺麗なお座りをして、いらっしゃいをしているように見えますが、スイカの言葉に反応して来ただけです。
(スイカ・・・)
「なになに~?アタシの事覚えてくれたってワケ?」
「今回は2週間程度空いただけだからな。[スイカのおばさん]位には思ってるんじゃないか?」
「う・・まぁ、他人扱いよりはマシだね。」
居間へ行くと、冷たい風が寄子さんの熱々の体を癒します。
「ふぅ~・・・っ。ちゃんとエアコン使ってんね。良かったなぁムク?掃除したのはこのアタシだよ?」
「犬に何恩着せがましい事を。」
「だってさぁ~!スイカ持ってくるおばさんじゃ有り難み・・・」
(スイカ・・・スイカ・・・)
おじいちゃんは、寄子さんに熱視線を浴びせています。
「・・・よし。今日からアタシをスイカの神様と崇めたまえ。」
(スイカ・・・食べる)
「スイカスイカと連呼していないで、早く切っておやりなさい神様。かわいそうじゃないか。」
「全然神様の扱いじゃないじゃん。しゃーないなぁ。」
寄子さんがスイカを持って台所へ向かうと、おじいちゃんも付いていきます。
おじいさんは居間でコップに麦茶を注ぎながら問いかけました。
「今日はどうしたんだ?」
「ん~?ああ、お義母さんが和菓子御馳走様でしたって。」
「気に入ってくれてたか?」
「うん。やっぱ年寄りは餡子好きだからねぇ。」
「お前は・・そういうデリカシーのないことを平気で言うから喧嘩になるんだぞ?もう少し口に気をつけなさい。」
「スイカのおばさんって言ったの誰でしたっけ~?」
「んん・・・。」
「それとさ、お盆だから父ちゃんを墓参りにお誘いしようかと思ってさ。」
その言葉に、おじいさんは密かに嬉しそうに笑みを浮かべました。
「今日か?」
「さすがに今日の今日はね。これからじゃかなり暑いから、父ちゃんもムクも仲良く干からびてあの世行きだよ。」
酷い言われようですが、寄子さんに悪意はありません。おじいさんはよく知っているのでスルーしました。
「じゃあいつよ。」
「明日の午前中は?車で30分で着くし、ちょい早朝で。」
「うん、その方がいいな。じゃあ夕方の散歩ついでに、花と線香買っておくよ。」
「大丈夫!花は農家の嫁が早起きして新鮮なの見繕って摘んでくるし、これから買い物して帰るから、全部アタシが用意する。どうしても供えたい物があれば買っといてよ。」
「そうか?じゃあ、今回は甘えるか。」
「そうそう。年寄りは素直が1番!」
「・・・向こうのご両親の前でもその調子なのか?」
「うん。なんで?」
「奇特な方達で良かったな。有り難く思えよ?」
「ソレ、聞きようによっちゃあ向こうの方達に失礼なんじゃない?」
「良い意味で言ってるんだ。何の問題もない。」
「へいへい、アタシと違って父ちゃんは[穏やかな良い人]だからねぇ~。」
「・・なんだそれは。」
「何でもない。お母さんにスイカあげてくる~。」
(スイカ・・・スイカ)
寄子さんはおじいちゃんを引き連れて仏壇へ向かいました。
おじいさんは冷蔵庫に麦茶のペットボトルをしまいがてら、皿に盛りつけられたスイカを居間のちゃぶ台へ持って行きました。
その時でした。
「えっ!!何コレ!?」
寝室から、突然寄子さんの大きな声が聞こえてきました。
おじいさんは、冷静にちゃぶ台に皿を置いて、おじいちゃんの分も台所へ取りに行こうとすると、
「ちょ・・・父ちゃん来て!」
「なんだ、騒々しいなぁ。」
おじいさんは寝室に入ると、目を疑いました。
「・・・・・・・!!」
仏壇に供えていた、造花(夏は傷みやすいので)や、みかん・お菓子等の供え物、そしてお婆さんの写真が、全て畳の上に落ちて散らかっていました。
「え・・・一体いつからだ?」
「最後にココ入ったのは!?」
「確か・・・朝4時頃起きて掃き掃除をしてからは入ってなかったな。」
「随分前だなぁ。あ、空き巣か!?」
「ま、まさか・・・。仏壇だけ漁るなんてことなかろう?それに何も無くなってないしな。」
「確かに。じ、じゃあムクのいたずら!?」
(・・・・・・・)
3人は顔を見上げ、見下ろしました。
「い、いやいや。コイツは仏壇にちょっかい出したことなど今まで1度たりともないぞ。」
「そ、そうか・・・。じゃあ・・・」
寄子さんは、口にするのを拒むように黙り込みました。おじいさんは気になって、顔を覗き込みます。
「じゃあ・・・なんだ?」
「他に考えられるのは・・・、お母さん?」
「なに?な、何をバカなこと・・・」
「だってさぁ、お盆だし?家へ帰ってきててもおかしくないんじゃない?」
「それはそうだが・・・婆さんがなんで自分の仏壇にこんなことしなきゃならん?」
「それは多分・・・怒ってるから?」
「・・・・・・・!!」
おじいさんも、口にした寄子さんも、少し背筋が凍るのを感じました。
お婆さんが帰ってきていると思ったからではありません。
お婆さんが、誰かに怒っているのかもしれないということに、2人は怯えました。
「ねぇ、なんか心当たりないの?」
「え・・いや・・・。少し前に・・・、婆さんが苦手な怖い番組をやっててな、それを・・・3時間以上居間のテレビで見てたことはあるが・・・。」
「ソレだな!」
「ソ、ソレか?そそ、そうなのか?婆さん!」
「3時間は長いわぁ。あんたも好きねぇ~。」
「う・・・、も、もしそうなら・・・すまなかった。いや私も、アレを見た後は散々だったんだよ?許してくれ。な?」
おじいさんは仏壇に手を合わせて謝ります。だがしかし、どこか腑に落ちません。
「・・お前はどうなんだ?」
「へ?」
「お前は・・婆さんの怒りに触れるような事はないのか?あるだろう?学生の頃は随分・・・」
「そ、そんな昔のこと今怒られても・・・っ!お母さんはそんなネチネチした人じゃないもん!学生の頃に何度もしっかり怒られてるし!」
「じゃあ、アレだな。」
「な、なによ。」
「向こうのお義母さんに対する口の利き方がなっとらんから、母親として娘を怒ってるんだろう。」
「う・・・・」
「いつまでも子供で困ったものだなぁ
、婆さん。私も謝るから、許してやっておくれ。」
「・・・・・・・・。」
寄子さんは、ぐうの音も出なくなり、仏壇に向かってしっかり頭を下げて、
「ごめんなさい・・・っ!」
大きな声で謝罪しました。
(・・・・・・)
そんな2人を、おじいちゃんは背後で綺麗なお座りをして、見つめていました。
実は、おじいちゃんは知っていました。
早朝、おじいさんが散歩の準備を終えるまで、おじいちゃんは仏壇の前で座って待っていました。
すると突然、地面が揺れるのを感じました。地震です。
実は最近、仏壇の写真が定位置から微妙にズレていて、少し倒れかかっていたところにこの揺れです。本当の極小の揺れでしたが、写真が倒れるには充分でした。
おじいちゃんの目の前で、写真は前に倒れて、供え物の和菓子と共に畳へ。写真が倒れた時、小さなみかんに写真立ての角が当たり、みかんはすぐ隣りにある造花の菊が挿してある一輪挿しにぶつかり、一緒に畳へと落下しました。菊の造花は、落ちた衝撃で一輪挿しから飛び出して、おじいちゃんの前足に花を添えました。
(・・・・・・・)
おじいちゃんは、菊の花をクンクンして、一応チェックしました。
「おぉ~い、行くぞぉ。」
玄関からおじいさんの声がしたので、おじいちゃんは立ち上がり、のんびり寝室を出て行きました。
なので、誰も怒っているわけでもありませんし、誰も悪くないのです。
「明日墓参りに行くから!ね?」
「私も行くから。な?それにもう2度と怖いテレビは見ない!約束する!」
2人はしばらく正座して、仏壇の前で手を合わせ続けました。
その背後では、
(スイカ・・・はやく)
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上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
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