8 / 28
第一章 バネッサ・リッシュモンは、婚約破棄に怒り怯える悪役令嬢である
第八話 悪役令嬢は殿下に恋い焦がれる
しおりを挟む
メイドは形ばかりに、窘める。
「こうやって謹慎にならない程度の“イタズラ“でしたら、文句はなかったのですよ」
「う……」
図星をつかれて、バネッサは胸を押さえた。
「ですが、こう表沙汰になってしまえば、お父様からお叱りを受けるのも当然です」
「バレないようにするべきでしたの……」
まったく反省する気がない主と、反省させる気がない従者である。
今まで、バネッサが止まらなかったのも当然であった。
「いいではありませんか。殿下に怒られていれば、もっとしおれていらしたでしょう?」
問いかけられると、彼女はベッドでパタパタと転がった。
「お怒りのお言葉でもいいから、頂きたいのです……一目でいいので、お顔を拝見したい……」
片頬をシーツに当て、切なげに言う。
「さっきは怖いなどと、仰っていたのに……。どちらが本心ですか」
バネッサは、人差し指をメイドに向ける。
「どっちも、本心ですの! まったくあなたは乙女心というものが分かっていませんのよ」
ぷりぷりと効果音をつけながら、不遜に文句を付けた。寝転がったままなのに、偉そうだ。
「もう乙女という年ではありませんから」
「そういうことじゃありませんの!」
「一介のメイドとしては、乙女心をご教授してもらうことよりも、早くお手紙を受け取りたいのですが?」
「むーきー!」
バネッサがベッドの上で立ち上がった。メイドを見下ろしながら、縦巻きロールを逆立たせる。
「嫌ですの!! わたくし! 絶対書きませんの!」
豊かな胸の前で腕を組んだ。寝具の上とは思えぬ迫力で、言い募る。
「だって、私、悪くありませんもの。殿下が誤解させるようなことをするのがいけないんです」
「ヴェイル家の令嬢で、二人でお話していたとか」
メイドは舞踏会での出来事を振り返る。
催しも終わりにさしかかった頃、殿下とヴェイルが密談をしていたらしい。その光景を、運悪くバネッサが目撃してしまったのだ。
「そうですのよ! わたしがおりましたのに! 今思い出しても、むかつきますのよ!!」
目が三角になり、彼女はその場で地団駄を踏む。子鬼の形相だった。やっていることは五歳児と変わらないのだが、権力者がやると怖い。
「殿下がそのことを謝るまで、私謝りませんの」
つーんと顎を持ち上げ、彼女は自分のことを棚上げする。
バネッサが真に謝るべきは、突き飛ばしかけたヴェイルであって、殿下ではないのだが、頭からすっぽ抜けている。
まあ、バネッサとしては、公爵家がすでに示談金で解決しているから問題点なし! ということなのだろう。
「殿下に嫌われてしまっても知りませんよ、お嬢様」
「う゛……っ、うぅ……」
傲慢に振る舞っていた彼女が呻く。それは避けたいのだが、プライドと嫉妬が邪魔をするのだ。
「まあ、大丈夫でしょう」
あっさりと言われたから、バネッサは肩透かしにあう。まだお説教されると思っていたからだ。
「そ、そう??」
ええ、とメイドは世間話の気軽さで続けた。
「殿下から、ファーストキスを与えられたと伺っておりますから」
「こうやって謹慎にならない程度の“イタズラ“でしたら、文句はなかったのですよ」
「う……」
図星をつかれて、バネッサは胸を押さえた。
「ですが、こう表沙汰になってしまえば、お父様からお叱りを受けるのも当然です」
「バレないようにするべきでしたの……」
まったく反省する気がない主と、反省させる気がない従者である。
今まで、バネッサが止まらなかったのも当然であった。
「いいではありませんか。殿下に怒られていれば、もっとしおれていらしたでしょう?」
問いかけられると、彼女はベッドでパタパタと転がった。
「お怒りのお言葉でもいいから、頂きたいのです……一目でいいので、お顔を拝見したい……」
片頬をシーツに当て、切なげに言う。
「さっきは怖いなどと、仰っていたのに……。どちらが本心ですか」
バネッサは、人差し指をメイドに向ける。
「どっちも、本心ですの! まったくあなたは乙女心というものが分かっていませんのよ」
ぷりぷりと効果音をつけながら、不遜に文句を付けた。寝転がったままなのに、偉そうだ。
「もう乙女という年ではありませんから」
「そういうことじゃありませんの!」
「一介のメイドとしては、乙女心をご教授してもらうことよりも、早くお手紙を受け取りたいのですが?」
「むーきー!」
バネッサがベッドの上で立ち上がった。メイドを見下ろしながら、縦巻きロールを逆立たせる。
「嫌ですの!! わたくし! 絶対書きませんの!」
豊かな胸の前で腕を組んだ。寝具の上とは思えぬ迫力で、言い募る。
「だって、私、悪くありませんもの。殿下が誤解させるようなことをするのがいけないんです」
「ヴェイル家の令嬢で、二人でお話していたとか」
メイドは舞踏会での出来事を振り返る。
催しも終わりにさしかかった頃、殿下とヴェイルが密談をしていたらしい。その光景を、運悪くバネッサが目撃してしまったのだ。
「そうですのよ! わたしがおりましたのに! 今思い出しても、むかつきますのよ!!」
目が三角になり、彼女はその場で地団駄を踏む。子鬼の形相だった。やっていることは五歳児と変わらないのだが、権力者がやると怖い。
「殿下がそのことを謝るまで、私謝りませんの」
つーんと顎を持ち上げ、彼女は自分のことを棚上げする。
バネッサが真に謝るべきは、突き飛ばしかけたヴェイルであって、殿下ではないのだが、頭からすっぽ抜けている。
まあ、バネッサとしては、公爵家がすでに示談金で解決しているから問題点なし! ということなのだろう。
「殿下に嫌われてしまっても知りませんよ、お嬢様」
「う゛……っ、うぅ……」
傲慢に振る舞っていた彼女が呻く。それは避けたいのだが、プライドと嫉妬が邪魔をするのだ。
「まあ、大丈夫でしょう」
あっさりと言われたから、バネッサは肩透かしにあう。まだお説教されると思っていたからだ。
「そ、そう??」
ええ、とメイドは世間話の気軽さで続けた。
「殿下から、ファーストキスを与えられたと伺っておりますから」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
80
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる