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1巻

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 第一使用 ▽ いきなりの召喚で捨てられました



「ふぅー、やらかしたなー」

 そうつぶやき、オレは誰もいない公園のベンチにもたれかかって空をあおぐ。
 オレの名前は安代優樹あしろゆうき。しがないフリーター……というか、ぶっちゃけると無職だ。つい先日までとある会社に勤めていたのだが、その会社がいわゆるブラック企業というやつだった。
 朝から晩まで働き詰めで残業代はなし。挙句あげく、経費で落とせるはずの出費にもしばしば自腹を切らされる始末。
 同僚達も限界が来ていたが、上司はお構いなしに無理難題をオレ達平社員に投げてくる。
 そんな状況に嫌気がさして、オレは思わず言ってしまった。

「ここってブラック企業ですよね。明らかに労働基準法に反していませんか?」

 入社間もないにもかかわらず、人目をはばからずそう宣言したオレ。当然、周りの同僚達は度肝どぎもを抜かれた。しばし呆気あっけにとられていた上司も、見る見るうちに真っ赤になって説教を始める。
 そのあとはまあ、色々な流れがありまして……
 オレの一言がきっかけであの会社のブラックな噂が世間に広がり、会社の信用はガタ落ち。
 当然オレは会社をクビになり、こうして昼間から公園でのんびりしている。
 まあ、さいわいというべきか、あれから会社にお役所の指導が入り、残った同僚達の待遇は以前よりはマシになったと聞く。その点は良かったと思っている。
 そのことを友人に話すと〝お前は相変わらず貧乏くじ引いてるな〟と笑われた。
 どうもオレは、自分が厄介な事態に巻き込まれても、それを他人事ひとごとのように考える癖があるらしい。別に達観しているつもりはないが、事態が自分の手に余ると逆に冷静になって、自分というキャラクターに起きている出来事を一つのイベントとして客観的に見てしまうのだ。
 オレがこうなったのは、幼少期のトラウマが原因かもしれない。
 小さい頃のオレはごく平凡な家庭に生まれ育ち、何不自由ない生活を送っていた。オレ自身も、どこにでもいる普通の子供だったと思う。
 ところが……ある日、母親が家を出ていった。〝買い物に行ってくる〟と言って出かけたきり、彼女が家に帰ってくることはなかった。
 事件に巻き込まれたのか、あるいは家族を捨ててどこかに逃げたのか、詳しい事情は分からない。
 それからしばらくは学校でも色々言われた。
 母親に関してからかうクラスメイトに怒り、家で涙を流したことも一度や二度ではない。だが、そうしている内に何も感じなくなっていた。からかわれても〝ああ、自分のことか〟としか思わなくなったのだ。
 おかげ様でKYとか言われたりもするが……

「まあ、今さらこの性格を直す気はないしな。とりあえず、オレは今後も自分のペースでのんびり生きていければそれでいいさ」

 誰に聞かせるわけでもなくそう宣言すると、オレはベンチから立ち上がった。
 さて、これからどうするか。
 まずは適当なバイトでも始めますか。給料とかは二の次でいいので、なるべく楽なバイトにしたい。
 あ、その前に近くの本屋に行って漫画を買わないと。今日は楽しみにしていた異世界物の新刊が出る日だ。なんだかんだで、あの手の話は学生の頃から好きで、ついつい見てしまう。
 などと考えながら公園を出ようとした瞬間――

「……ん?」

 目の前の景色がぼやけ、それと同時に意識が飛んでいくのを感じた。
 目眩めまい? 飯代ケチりすぎて貧血にでもなったのか?
 そう思いながら天を見上げたオレは、空から降り注ぐ光に包まれていることに気づく。
 なんだこれ? 光の柱? 一体何が――
 口に出そうとしたその言葉は、薄れゆく意識とともに呑み込まれるのだった。


 ◇  ◇  ◇


「おお! よくぞ集まってくれた! 異世界より招来せし勇者達よ! お主達ぬしたちが来るのを待ち望んでおったぞ! わしはオルスタッド王国の王ガンゼス二世じゃ」

 目が覚めた時、オレが立っていたのはさっきまでいたはずの公園とはかけ離れた場所だった。
 白亜はくあの宮殿とも呼ぶべき中世の城。床には赤い絨毯じゅうたんが敷かれており、周囲には銀色の甲冑かっちゅうを身につけた騎士や、黒いローブを羽織はおった魔法使いとおぼしき格好をした人物が無数にいる。
 さらに正面の玉座には、先程のセリフを吐いたであろう白髪はくはつ白髭しろひげやした六十代くらいの偉そうな人物――いかにも王様な雰囲気ふんいきの男性が座っていた。
 ここは……異世界? まさかのファンタジー世界か?
 辺りを見回すと、周囲にはオレ同様、見るからに現代日本風の男女十数人がいた。
 連中も混乱している様子で、口々に疑問の声を発する。

「ちょ、ここどこだよ!?」
「異世界に勇者って、どういうことだよ!?」
「おい、オッサン! まさかアンタがオレ達を呼び出したのか!?」

 それを聞いたさっきのオッサン――いや、王様がうなずきながら答える。

「うむ、その通りじゃ。先程も言ったが、儂の名はガンゼス二世。この国の王であり、お主達を呼び出した者じゃ。そして、お主達にやってもらいたいことはただ一つ。この国を――いや、世界を救ってほしいのじゃ!」

 そうして王様ガンゼス二世の説明が始まった。
 なんでも、ここは『ファルタール』と呼ばれる異世界らしい。
 今現在、この世界には六人の『魔人』と呼ばれる存在が現れ、彼らの手により人間の国が脅威きょういにさらされている。詳しくは分からないが、それらの魔人は強く、普通の人間では太刀打たちうちできないのだそうだ。
 そこでこの国の王様はその魔人達を倒すべく、異世界から勇者達を召喚した、というわけである。
 まあ、ここまではよく聞く異世界転移物の王道的な流れだ。オレもそうしたアニメやラノベは結構たしなんでいるので、王様の説明をすぐに理解できた。
 王様は身振り手振りを交えて、熱っぽく演説する。

「というわけで、今この世界は未曾有みぞうの危機にある。それを救えるのは、異世界より現れし勇者の資格を持つ者達だけじゃ。すでにお主達には『スキル』と呼ばれる特殊な能力が宿っておる! それは異なる世界より召喚された者のみに与えられる特別な力であり、一人一つしか宿せぬ。スキルを有するということは、この世界において英雄に匹敵する能力となる! その力を使い、どうかこの国を――いや、世界を救ってほしい! 無論、お主達を勝手にこの地に召喚した非礼はびる。しかし、我らには他に選択肢がなかったのを理解してほしい。無論、勇者であるお主達の生活は儂が保証する! 異世界の勇者達よ、どうか……我らファルタールの民に力を貸してくれんか!?」

 うーむ、そう言われてもなぁ。突然のことですぐには判断できない。
 しかし王様の話を聞いた一部の連中がすぐさま反応を示す。

「分かりました、王様! 僕達に任せてくださいよ!」
「おお、引き受けてくれるのか!」
「もちろんですよ! 困っている人を救うのは勇者の使命。それが、僕達がこの世界に呼ばれた理由でしょう!?」

 興奮した様子で名乗りをあげたのは、中学生とおぼしき十代半ばの少年。
 まあ、あのくらいの年頃の子なら、いざ異世界ファンタジーに巻き込まれても困惑よりも期待や高揚感の方がまさるだろうし、厨二病ちゅうにびょうも相まって王様の言うことに乗っかるかもなー。
 特に勇者だとか、世界を救ってくれだとか、この年代の男の子には何より魅力的みりょくてきだ。
 正直、オレにもそういう気持ちがなくはない。
 そんな少年を、別の少年がたしなめた。

「おい、大和やまと。そんな簡単に引き受けるなよ」
「なんだよ、けん。別にいいじゃないか。こういうラノベみたいな展開、ずっとあこがれてたんだよ、僕! お前もそうだろう?」
「そりゃまあ、正直ワクワクしてるけどさ……」
「なら、決まりだろう。学校に行って、卒業したら社会に出て……みんなと同じレールの上を行くなんてうんざりだ。でも、僕達はもう平凡な人間じゃなくて、世界を救う勇者になれるんだぜ!」
「た、確かにそれも悪くないな」

 健と呼ばれた少年もその気になってきたらしい。さらに、別の者達が追従する。

「大和君がやるなら、アタシも一緒にやろうかな」
「ああ! 僕らでこの世界に伝説を作り上げようぜ!」
「だな、こんなチャンス滅多めったにないぜ! オレらは選ばれたんだから、それを素直に喜ぼうぜ!」
「まあ、報酬が出るならオレも協力しようかな……」
「おおお! お引き受けいただき、我ら一同、深く感謝いたします!」

 大和とかいう少年を中心に、同年代のグループが一致団結して次々と名乗りをあげはじめた。
 うーむ、若いっていいなー。オレも彼らと同じくらいの年齢だったら、王様の頼みに素直に頷いていたかもしれない。
 一方、他の連中――もう少し年上の二十代くらいの男女は、少年達を冷ややかな目で見ている。

「悪いけれど、私はパスするわ。というか勝手に召喚して世界救えとか冗談じゃないわ。私は元の世界に帰してもらうわよ」
「僕も遠慮しておくよ。やる気のある奴らだけでやればいいだろう。というか、さっさと帰してくれないか?」

 不穏ふおんな空気がただよいはじめたのを感じ取り、王様が急に腰を低くする。

「も、もちろん皆様を勝手にお呼びした点は謝罪申し上げます……ですが、元の世界に帰るためにはこの世界に存在する全ての魔人を倒す必要があるのです。ひとまず皆様を召喚したお詫びとしまして、最低限の保証はいたしますので、それでどうか……」
「はー? 何それ? 結局、世界救えってこと? はぁ、面倒くさ……」
「まあまあ、いいじゃないっすか、お姉さん。なんだったらオレがお姉さんを守ってあげるっすよ」

 やたら調子の良い金髪の青年が女性に声を掛けるが、彼女はますます機嫌が悪くなる。

「余計なお世話よ。それなら、私は私で勝手にやらせてもらうわ」
「僕も魔人退治は他の連中に任せるよ。おい、最低限の保証をするって言ったんだから、ちゃんと当面僕らが住む場所を確保してあるんだろうな?」
「そ、それはもちろんですとも……」
「なんだよ、皆ノリ悪いなー! せっかく勇者として召喚されたんだから、協力して魔王退治しようぜ!」
「魔王じゃなくって魔人な。つーか、そういうのはお前らやりたい連中だけでやれよ」

 召喚された連中の一部はこの状況に不満を抱いているみたいだ。
 まあ、それも当然か。全員が全員、あの中高生みたいに勇者やヒーローに憧れているわけじゃない。
 自分達の生活があって、こんなの迷惑だと感じている奴も多いはずだ。
 とはいえ、先程の王様の話を聞く限り、元の世界に戻る手段は今のところないらしい。
 ならば、否応いやおうなく当面はこの世界に順応しないといけないわけか。
 オレ自身、当事者の一人だというのに、例によって他人事みたいにこの状況を受け止めていた。
 そんなオレ達を一通りながめていた王様は背後に控える魔術師達を呼んだ。彼らは両手に大きな水晶玉を持っている。

「それでは、皆様。まずは皆様が獲得したスキルをこちらの水晶玉にて確認させていただきます。そのランクに応じて、皆さまへの援助や支援を行いたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。Bランクならばこの城に用意した部屋を、Aランクならば今は使われていない貴族邸を居住地としてお使いください」

 王様の発言を聞き、周囲にいた全員が息を呑む。

「おい! 貴族邸ってマジかよ!」
「ひゅー、さすがは王様。オレら勇者様に対する歓迎ってやつが分かってるねー!」
「でも、ちょっと待ってよ。BランクとAランクの扱いは分かったけれど、それ以外ならどうなるの?」
「はははっ、心配は無用ですよ、皆様。転移者であるあなた方に宿るスキルは必ずBランク以上のものと決まっております。過去にも我々は幾度いくどか異世界から勇者様を召喚しましたが、その方達も皆AランクかBランクスキルの保有者だったと記録が残っております」
「そっか。じゃあ安心っすね」
「そういうことなら、早く僕らのスキルを教えてくださいよ!」
「オレも一応自分のスキルとやらを確認しておくか」

 そう言って、先程まで乗り気ではなかった連中も、水晶玉を持つ魔術師達へ近づく。
 まあ、それもそうか。オレも『スキル』という単語には期待してしまう。
 こういう異世界に来て真っ先に確認すべきもの。それがおのれに備わったスキルだ。それ如何いかんによって、今後のこの異世界生活の全てが決まると言っても過言ではない。まさに一世一代の大ガチャだ。
 実はオレも異世界ファンタジー小説を読みながら、自分だったらどんなスキルが宿るだろうかと空想したことがある。どうかSSランクのスキルが当たりますようにと、心の中で祈りをささげるオレを横目に、早くもスキルの確認が始まった。
 王様の指示に従い、水晶を持つ魔術師達が召喚された者の前に行って、次々とスキルを確認しては賞賛や祝福を与えている。

「これはすごい! スキル『万能魔術』! この世界のあらゆる魔術を最初から使用できるスキルのようです!」

 魔術師の報告を聞き、王様のテンションも上がる。

「おお、さすがは勇者様!」
「こちらの方のスキルもすごいです! スキル『超速成長ちょうそくせいちょう』! 通常の十倍以上の経験値を入手するというものです!」
「なんと! それならばすぐに魔人とも渡り合えるレベルになれますぞ! さすがは勇者様方! 皆様が協力すれば、すぐにでもこの世界を救い、元の世界にも戻れますぞ!」

 今まで乗り気ではなかった連中もまんざらではない笑みを浮かべ〝まあ、ちょっとくらいは協力してやるか〟などと言っている。
 気持ちは分かるよ。異世界に召喚されて、強力なチートスキルを手に入れれば、気分は高揚こうようするし、やる気も出てくるというもの。人間は特別扱いに弱い生き物だ。
 かく言うオレもその一人であり、まだかなーと、内心ワクワクしながら待っている。
 そして、とうとう目の前に魔術師の男が立った。

「では、次はあなた様のスキルを確認いたします」

 オレはゴクリと生唾なまつばを呑み込んで頷いた。男は手の中の水晶を輝かせる。
 さあ、オレには一体どんなスキルが宿っているんだ!?
 しかし……そんな期待に満ちあふれた時間は、一瞬で崩れ去った。

「……あー」
「? あの、どうしたんですか?」

 オレの目の前でなんとも言えない表情を浮かべる魔術師の男。
 それに気づいたのか、王様がこちらに近づいてきた。

「どうしたのじゃ? この方のスキルがどうかしたのか?」
「いやー、それが、そのー……」

 男は手に持った水晶をおずおずと差し出す。
 そこに書かれた文字は――『スキル:アイテム使用』というものであった。

「? なんじゃこれは? アイテム使用? それは一体どんなスキルじゃ?」

 王様の問いに、オレも首をかしげる。
 確かに。なんだろうか、アイテム使用って? 名前だけ聞くとアイテムを使用するスキルっぽいが。

「はあ、それが……そのままの意味らしく、アイテムを使用するスキルのようです」

 魔術師の説明を聞き、王様の顔に失望の色が浮かびはじめる。

「は? それだけなのか? 他に何かないのか?」
「いえ……説明にはただ単に〝アイテムを使用する〟としか記載がありません……」
「……ええと、ランクはなんじゃ?」
「それが……ないんです……」
「何?」
「ランクの部分に何も書かれておらず……」

 そう言って男が再び見せた水晶玉には〝スキルランク:-〟と、何やら棒線のマークがあった。
 ええと、これっていわゆるランク不明というか、そういう感じのやつ? というか、アイテムを使うスキルとか、あまりに用途が意味不明すぎてランク付けすらできない感じ?
 オレと王様、魔術師の男の間に流れる沈黙。
 やがて、王様と魔術師は何も見なかったかのように背を向けた。

「さあ! どうやら皆様のスキルが判明したようですな! いやー、さすがは勇者様達! 素晴らしいスキルばかりです! これなら皆様の活躍かつやくも期待できます! 無論、今後皆様が住まわれる場所は我々が確保いたしますので、Bランクの方はこの城に用意された部屋を、Aランクの方は後ほど案内いたしますやかたを自由にお使いくださいませ!」
『おおおおおおおおー!!』

 王様の宣言に沸き立つ声。
 いや、ちょっと待って、オレは? 素晴らしいスキル? 活躍? どこが?
 しかし、オレが問いかけるよりも早く、王様が再びこちらに顔を向けた。

「えー、その……あなた様のお名前は?」
「はあ、えっと、安代優樹です」
「あー、ユウキ様。そのー、申し訳ありませんが、どうもこちらのミスだったようで、あなたには勇者の資格がないみたいなのです。とはいえ、我々としても、あなたを呼んでおいて、勇者ではなかったからはいさようなら……というのは心苦しいです。そこで、どうでしょうか? こちらに金貨を百枚用意しました。これだけあれば当面は食べるにも困らないと思うのですが……」

 えーと、つまりこれはあれか。
 厄介払い。
 保有しているスキルがクソの役にも立たないゴミだと判明したので、とりあえずオレを追っ払って、残りの勇者様達でなんとかしてもらおうと。
 なるほどね。やっぱこの王様、腹黒だったか。なんとなくブラックな気配を感じていたんだよね。
 全てを察したオレに、王様はふところから出した金を押し付ける。

「いやー、ここでめるのはお互いになんですから、これで納得してもらえませんか? ご不満でしたら、また日を改めて来てくだされば、もう少し上乗せも考えて――」
「あ、いえ、これで十分です。それじゃあ、お邪魔だと思いますし、オレはもう行きますね」
「おお! そうですかー! いやー、ほんっと申し訳ない! 今後はこういうことがないよう、転移には気をつけますので、どうかユウキ様もお元気で!」

 いや、今後気をつけてもらっても、オレの失敗はどうにもならないんですけど。
 そんな言葉をぐっと呑み込み、オレはなかば兵士に追い出されるようにして城を後にした。
 分かってはいたが、チートスキルのない転移者に対して容赦ようしゃなさすぎじゃないですか? 異世界。というか、最低限の保証をするとかいってこの有様ありさまかよ。いやまあ、この金貨がその〝最低限の保証〟ってことなんだろうけど。
 しかし、こうなってしまった以上、文句を言っても仕方がない。
 元々オレは、この世界のために戦うなんて話にはあまり乗り気ではなかった。
 むしろ、これは逆に好機だと受け取るべき。オレは国や王様とかのしがらみもなく、この異世界で自由に生きていく権利を得たんだ。うん。
 そう前向きに考え、オレはとりあえず手持ちの金貨と役に立たないゴミスキル『アイテム使用』を使って、この世界で自由にのんびり生きようと決意する。

「とはいえ、これからどうするかなー」

 先程の王様とのやり取りのおかげで、無事この世界でもニートとなったオレ。
 幸いというべきか、王様からのおなぐさみということで金貨が百枚ある。果たしてこれがどれくらいつかは謎だが。

「あー、それと自分のスキルも一応活用していくか」

 そうボヤいて、オレは右手をかかげる。
 すると、視界のはしに『スキル:アイテム使用』という文字が浮かび上がった。
 なるほど。これでスキルを使用するのか。こういうのはラノベとかで結構読んできたので、なんとなく分かっているつもりだ。
 早速、視界右端の『アイテム使用』に意識を集中させると、スキルが発動した。


 スキル『アイテム使用』――金貨百枚を使用します。


 ん? ちょっと待て。今、なんかとんでもないワードが聞こえたぞ。
 金貨百枚を使用? オレはすぐさま懐に入れていた袋を取り出して確認する。当然そこには、王様からもらった金貨百枚が入っていたのだが……

「うえっ!?」

 オレは思わず間抜けな声を上げる。
 なぜなら、袋の中の金貨が目の前でどんどん消失していき……最後には一枚もなくなった。
 バ、バカな!? 先程まで袋いっぱいに入っていた金貨百枚がゼロに……?
 う……嘘だろう、このスキル!?

「ちょ! たんま! 今のなし! 今のスキル使用しない! 間違い間違い! 戻して! 使った金貨戻して!!」

 オレは必死に自分の脳内――というかスキルに話しかけるが、返ってきた答えは無情の一言であった。

『アイテム使用により消費されたアイテムを戻すことはできません。全て使用されました』

 なん……だと……?
 思わずその場に崩れ落ちてしまった。
 お、終わった……オレの人生……異世界転移……これで完全にんだ……
 なんだよこれ……なんなんだよ……ハズレなんてレベルじゃない……
 ひどい、ひどすぎる……ゴミオブゴミ……ゴミ以下のクソスキルじゃないか……
 なんでオレのスキルだけこんなハズレになったんだよ……
 いつものように冷静に受け止めたいが、王様に捨てられた直後にこれとは……さすがに今回ばかりは自分の未来を悲観してしまう。
 しかし、うなだれるオレの脳内に新たな言葉が響いた。


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