命の対価

桜庭 葉菜

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叶えたかったこと 3

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「ずっと、好きだったの……」

 彼女は言う。

「こうちゃんのことが、昔も今も好きなの」

 でももう俺はあの男の子じゃない。

「たとえ私のことを忘れてしまっていても、それでも大好きなの……っ!」

 あんな風に手を差し伸べていた記憶はない。

 それでも彼女は、俺を好きだと言う。

 最後まで彼女の瞳を見続けることが出来なかった。

 悔しい。

「こうちゃ──」

 彼女の体を思い切りに抱きしめる。

「ごめ……ほんと、ごめん……」

 ゆっくりと力を込める。

 やっと愛しい人に触れられた喜び。

 こんなにも後回しにし続けてしまったもの。

 彼女はどんな想いでこんなものを抱えていたのだろうか。

 そして俺はまた、これからも背負わせてしまう。

 震えていたのは、俺の体だった。

「俺も、俺もことねのことが大好きだよ」

 もっとたくさん、言いたいことはあった。

 でも俺が1番言いたいこと。

 ことねが好きだということ。

 どんな事があってもことねが1番大事だということ。

 どうしてもそれだけは伝えたかった。

 分かって欲しかった。

 これが、死ぬ前の最後のわがまま。

「ありがとう、こうちゃん」

 ことねの腕が俺の背中に回される。

「ことね、ありがとう」

 俺は今世界で一番幸せだ。

 それを教えてくれてありがとう。

 ことね、好きだよ。

「さよなら」

 視界が霞む。

 声に出たかどうか、分からない。

 その瞬間に俺の背中から手が離された。

「本当にこれでよかった?」

「ああ、大丈夫、ありがとう」

 意識の中だけで死神と会話をする。

「こうちゃん!」

 ことねが俺を呼ぶ声。

 それによって消えかけた意識が再び戻される。

「こうちゃん……!」

 彼女が泣いているのがわかる。

 ごめん。

 もうぬぐえない涙を思いながら、俺は意識を手放した。
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