命の対価

桜庭 葉菜

文字の大きさ
35 / 47

ことねの選んだ道 1

しおりを挟む
 気がついた時、俺は自分の部屋にいた。

「この状態になったキミと会うのはこれで2回目だね」

 もう聞き慣れた、今はむしろ安心感さえ覚える声。

「死、神……」

 起こした体がやけに軽い。

 そうか、俺はもう死んでいるんだ……

 まさかもう1度こんな経験をするなんて。

 まぁ、もう2度とすることは無いけれど。

 2度目の霊体、俺はそれをすぐに受け入れ、立ち上がった。

「多分この後、彼女が来ると思うんだよね~」

 そう言った死神からはどこか緊張のようなものを感じた。

「俺が死んでから、何日経った?」

「──4日だよ」

 4日。

 その日数の意味する重みは俺には分からない。

 ただ、鈴木さんがこの4日間、俺の事を考えて、そして俺の家に行くという決心をしてくれた。

 あとの事は死神と、鈴木さん本人に委ねよう。

 どんな結果になろうと俺は後悔しない。

 その為にこの契約をし、最期まで生きたのだから。

 下から聞きなれたインターホンの音が鳴る。

「来たみたいだね~」

 いつも通りを装う死神。

 ドアの開く音、母さんと鈴木さんの話し声。

 いよいよだ。

 2人分の階段を上る足音。

 近づくにつれ大きくなってくる話し声。

 母さんは俺の事を優しく話しているが、それを聞いている鈴木さんの頷きの声には戸惑いの色がうかがえた。

「僕達の存在は生きている人間には見えないから。
もちろん、キミが喋っても彼女には聞こえないから、彼女の前でボクに話しかけても構わないよ。
ボクもキミにしか聞こえないように話すこともできるから」

 さすがは霊体と死神といったところだろうか。

 ガチャリ、とタイミングよく目の前の扉が開いた。

 すぐ近くに現れた母さんと鈴木さん。

 今さっき声も聞こえないし姿も見えないと言われたのに、それでも息を潜め、体を強ばらせる。

 そのまま数秒。

 2人が俺に気づく様子もない。

 本当に、見えていないんだ。

 母さんが部屋を出るや否や、ことねは俺の部屋を歩き始めた。

 そして壁に飾ってあったカレンダーの前で止まる。

 あれは去年のやつ。

 その事を理解した鈴木さんは、いきなり俺の引き出しやら棚やらを漁り始めた。

「ちょ、鈴木さん……」

 焦りと恥ずかしさで思わず止めようとしたが、やめる。

 もう俺の声も手も、届かない。

 懐かしいプリントや教科書が床に散乱していく。

 鈴木さんはそれらに囲まれながら絶望していた。

「私が見ていたこうちゃんは、幻……?」

 そう言って崩れ落ちた彼女。

「はぁ~、もしもーし。ボクの声、聞こえます~?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

好きって伝えたかったんだ。

まいるん
恋愛
ごめんなさい。 あの時伝えてれば。素直になれていたら。 未来は変わったのだろうか。 ずっと後悔してる。 もしもう一度君に会えたら。 もしもう一度君と話せたら。 高校1年生のすいは、同い年で幼なじみの蓮のことが好きだけど、告白できずにいた。想いを伝えることはできるのか。2人は結ばれるのか。 幼なじみ同士の少し不思議で切ない物語。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

処理中です...