命の対価

桜庭 葉菜

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ことねの選んだ道 3

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 そしたらちょっと悲しい時、自分は辛いことばっかりだって思った時、そんな事ないって思えるように。

 悲しいことは減らないかもしれないけど、楽しいことがもっと増えるように』

 そう言って1冊のノートをもらったんだ。

 それからできるだけ毎日、ノートを開いた。

 サッカーの試合でシュートを決めたなどの、ものすごく嬉しかったこと。

 友達と公園で遊んだなどの、毎日あるようなありふれた楽しかったこと。

 小さなことから大きなことまで、沢山書いた。

 時には書かずに読むだけの日もあった。

 俺は日記をつけること自体も楽しんでいた。

 なのに。

 一体いつ、やめてしまったんだろう。

 思い出せない。

 やめたことすら、思い出せない。

「ボクはね、キミが死にかけた時、つまり、1度目の契約の時。

 ボクはキミの大切な人の記憶を奪ったんだ」

 大切な人。

 そう聞いて1番に思い浮かんだのは家族のこと。

 しかしもちろん、母さんのことも父さんのことも覚えている。

 俺には兄弟だって居ないはずだ。

「それは一体、誰の……」

 そう口に出してすぐに分かった。

 ──鈴木琴音。

 俺の目の前にいる彼女こそ、俺から奪われた全てだった。

 それなら全ての辻褄が合う。

 死神が彼女のことを知っていたのも。

 彼女といる時の俺を死神が監視していたのも。

 俺は死神から記憶を奪ったとしか聞いていなかった。

 それは、誰か1人の記憶を奪ったと言われたら、相手は俺のことを知っているのに俺は相手のことを知らない、そんな状況になった時すぐにバレるからだ。

 記憶を奪った。

 ただそれだけ言われたら、その対象は人なのか、場所なのか、ものなのか、はたまたどこかの一定期間を部分的に奪われたのか、全くわからない。

 だから俺はまさか鈴木さんとのこと全てを忘れているなんて思いもしなかった。

 鈴木さんのことを、奪われた記憶の一部が俺の目の前に現れたとしか思ってなくて。

 もしかしたら、鈴木さんは俺の記憶について何か知っているのかもしれないとしか思ってなくて。

 文化祭のあの日からずっと気になっていたけれど、今更記憶を取り戻したいなんてことを考えていなくて。

 でも鈴木さんは、俺の奪われた記憶の全てだった。

 鈴木さんは、俺が1番大切に思う人だった。

 俺が全てを理解したことを悟ったのか、死神がゆっくりと口を開いた。

「キミが事故に遭うことはもう決まっていたこと。それでボクは次にキミと契約をしようと決めた。
キミの契約の代償を考えようと、キミが事故に遭う前からキミの部屋を出入りしてたんだよ。まぁもちろん、キミには見えてないけど」

 僕の方を向いていた死神が、やがて顔を背けた。

「そこで彼女のことを見つけた」

 背けた先は彼女だった。

 俺の日記帳を読みながら静かに涙を流す彼女。
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