命の対価

桜庭 葉菜

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ことねの選んだ道 4

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「あの日記には彼女のことが書かれていた。すぐにわかったよ、キミにとって彼女がどれほど大切な人なのか。

 人ひとりの命を助けるんだ。それくらいの対価は必要になる。そしてボクはキミから彼女の記憶を奪った」

 彼女がただ静かに読み続けているそれには、いったい彼女についての何が書かれているのだろう。

 彼女の後ろに回ってそれを確認することだってできた。

 しかし俺はただそれを見る彼女だけを見ていた。

 昔の俺が彼女の事をどう思っていたかよりも、あとほんの数舜でも彼女の事を自分の記憶の中に焼き付けておきたい。

「こうちゃん……」

 大好きな人に呼ばれる自分の名が、こんなにもいいものだなんて。

 顔を上げた彼女の瞳からまだ滴り落ちる涙。

 しかし、その涙は今までに見た悲しみに満ちた涙とは違う、ほんのり優しい、暖かい涙だった。

「彼は生きてキミに会いたくてボクと契約した。

それが残念なことにボクが奪った記憶はキミとのもの。

彼はボクと契約した理由すらも忘れてしまったんだよ」

 死神の顔に、悲しみの色が見えた。

 もしかしたらこいつは、ずっとつらい思いをしてきたのかもしれない。

 俺の生きる理由、俺が死神と契約した理由。

 それを奪ってしまった死神。

 俺がそれを問うたびに何も答えることが出来ないことへの葛藤。

 こいつはこの一年、ずっと俺のそばにいて、誰よりも俺の事を考えてくれていた。

 だから、

「彼はキミのことをこんなにも想っていたのに、その全てを、今度はキミが忘れてしまうのかい?」

 死神は、鈴木さんに俺の事を覚えていてほしい。

 そう訴えているように聞こえた。

「死神さん、お願い。彼との記憶を、消さないで……」

 俺と死神の願いが届いたのか、鈴木さんの決意の声が聞こえた。

「彼に気持ちを伝えられたこと、彼に好きって言って貰えたこと、全部大切な思い出なの。忘れたくないよ……」

 青のノートをそっと抱きしめる彼女。

 昔の俺が彼女をずっと大切に想い続けていた証。

「契約、しましょう」

 涙の枯れた目が、俺と合ったような気がした。

「おっけー」

 そう言った死神の表情からは安堵の微笑みが見えた。

 そこからは俺も聞いたことのある、契約に関する話をし、彼女がそれを承諾した。

「それじゃあ、ボクはこれで」

 なんだかあっけなく、終わってしまった。

「これが最後だよ」

 ぼうっとしている俺に、死神はそう話しかけた。
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